
こんにちは。 引き続き購入済み未レビューのイヤホンを紹介する「棚からレビュー」企画で、ずっと書きかけのままになっていた「SIMGOT」製イヤホンを4回に分けてレビュー紹介しています。4回目は同社の現在の最上位モデル「SIMGOT EM10」です。片側 8BA+1DD+1PZTの10ドライバー構成、400ドル台のアッパーミドル級ハイブリッドモデルですね。ちょっと地味な製品ですが非常に完成度の高いリスニングサウンドで心地よく楽しめるイヤホンです。
■ 製品概要と購入方法について
「SIMGOT」は主にミドルグレードの高音質モデルを得意とする中華イヤホンブランドで、かつての代表的なモデル「EN700」シリーズは中華イヤホンを枠を超えた人気モデルとして幅広いユーザーを獲得していました。現在はハイブリッド構成の「EM」シリーズに加えて、かつてのメインラインだった「EN」系を引き継ぐ「EA」シリーズや低価格ラインの「EW」シリーズなどのラインナップを展開されています。
「SIMGOT EM10」は「EM」シリーズの最上位モデルで、現時点でSIMGOTのフラグシップでもあります。ドライバー構成は8BA+1DD+1PZTの片側10ドライバー構成のハイブリッドモデルです。各ドライバーの音響特性を考慮し、多くのドライバー選定と音響テストを経て、「10-in-1のマトリックス音響アーキテクチャ」を構築。各ドライバーの周波数特性が綿密に調整され、全体のバランスを取るために正確に制御されています。


SIMGOTは「SIMGOT EM10」のために専用の低域用8mm ダイナミックドライバーを開発。強力な磁気回路を持ち、ナノクラスポリマー振動板を採用。柔軟で弾性の高いエッジシステムとロングストローク設計を特殊加工で組み合わせています。その結果、理想的な中低音の質感をもたらす「SIMGOT EM10」専用のドライバーが誕生し、豊かなディテールと力強い低音をもたらします。
また「SIMGOT EM10」では純銅振動基板、多層複合圧電セラミックコーティングを使用した多層ピエゾ(PZT)ドライバーを搭載。ピエゾユニットを前面に直接配置すると「機械感」などの不自然な音を引き起こす可能性があるため、金属製フェイスプレート側のリアチャンバーに配置しました。その結果、高域の伸びとツヤ感を効果的に高め、繊細で絶妙な質感を表現します。


そして8基のバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーは最適なチューニングを実現するために厳選されたユニットを使用。これら10基のドライバーの特性を理解し構成されたマルチチャンネル ダンピング システムと 4Way RC回路による電子クロスオーバーを採用。さらに3Dプリントによる精密成形により各ユニットごとに独立した音響チューブ構造を搭載し正確なチューニングを実現しています。


「SIMGOT EM10」の価格は439.99ドル、国内正規品は81,000円です。
免責事項:
本レビューは個人的に製品を購入し掲載している「購入者レビュー」となります。
本レビューに対してそれ以外の金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。
■ パッケージ構成、製品の外観および内容について
「SIMGOT EM10」のパッケージはかなり大きいサイズのキューブ型のボックス。フラグシップモデルだけあってパッケージングにもこだわりが伺えます。


パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、交換プラグ、イヤーピース(S/M/Lサイズ、それぞれ2セット)、説明書、保証書など。


本体は3Dプリントによる樹脂製のハウジングとCNC加工された金属製フェイスプレート。フェイスプレートの裏面にピエゾユニットを搭載しているのは同時期に発売された「SuperMix 4」と同じです。「SuperMix 4」が1DD+1BA+1マイクロ平面+1PZTで150ドル程度と、かなりコストパフォーマンス重視の製品に仕上がっているのに対し、約3倍の価格設定の「SIMGOT EM10」については、フラグシップらしくコストより音質的な「こだわり」重視で設計した、みたいな感じでしょうか。


片側10基のドライバーを搭載していることもあり、シェルサイズは比較的大きめですが、耳にフィットしやすいシェル形状で装着感は良好です。ステムノズルが結構長めの設計のため、イヤーピースは少し小さいタイプを選択して耳奥まで挿入するほうが良いでしょう。


ケーブルは、リッツ構造の高純度無酸素銅銀メッキ線のケーブルが付属。シルバーの線材を覆う透明な被膜にはゴールドのラインが入っており高級感を演出します。左右2芯の撚り線タイプで取り回しは良好です。コネクタは0.78mm 2pin仕様でリケーブルは中華2pin、CIEM 2pinのケーブルが利用できます。
■ サウンドインプレッション
「SIMGOT EM10」の音質傾向はバランスの良い弱ドンシャリ。SIMGOTの他のモデル同様にH-2019ハーマンターゲットに寄せたU字方向のチューニングがベースではあるものの、非常に伸びやかで煌めきのある高域とパワーのある重低音を持った低域が心地よい存在感があり、同時期にリリースされた「SuperMix 4」以上にV字方向に鳴ってくれる印象。そのため実際のバランスとしてはW字のほうが近いかもですね。一聴すると従来のSIMGOTよりドンシャリ方向のアプローチが強く感じますが、実際にはU字方向のバランスを維持しつつ高域と低域の質感によりリスニング性を向上させるSIMGOTらしい音作りを踏襲しており、フラグシップらしい非常に高い水準を実現しています。ただ「SIMGOT EM10」は本気を出すためには相応の駆動力を必要とします。もともと仕様としてもインピーダンス41.6Ω、感度120dB/mWと少し音量を取りにくいイヤホンですが、実際にはスペック以上にパワーのある再生環境が望ましいかもしれません。
大口径のピエゾユニットを含む片側10基のドライバーを円滑にドライブするためには相応の電流量も必要であり、その影響もあって小型のオーディオアダプターなどでは今ひとつ伸びきらない地味な印象のサウンドに感じてしまうかもしれませんね。
DAPやアンプでもハイゲインモードでの変化を確認してみるべきでしょう。また付属のケーブルは非常に質の高いものですが、プラグを4.4mmのバランスにした場合でも、再生環境によっては全体的に情報量が多くU字方向をより引き立てるような相性が良いケーブルもそれなりに存在しそうです。
再生環境を最適化し、しっかり鳴らすことで全体のダイナミクスさが増し、より煌めきのある高域や、奥行きの深さ、そして詳細なディテールなどを立体的に体感できるようになります。
「SIMGOT EM10」の高域は、多少再生環境で変化するものの、しっかり鳴らすことで明瞭で直線的な伸びのある音を鳴らします。解像度も高く細かい音も精緻に再生される印象。曲によっては若干の刺激がありますが、多くは刺さる直前くらいで調整されています。バランスとしてややV字方向に高域も主張が強く、適度に明るく煌めきを感じさせます。それでも人工的な硬質感はほとんど無く、自然な印象で、心地よく鳴ってくれます。
ちなみにイヤホンにおけるピエゾ(圧電)ユニットは特性的に明瞭な高域を得やすい反面、EST(静電)ほどではないものの多少人工的な「ピエゾっぽい音」になるという傾向もあります。SIMGOTは「SIMGOT EM10」および同時期にリリースされた「SuperMix 4」において、ピエゾユニットをフェイスパネルの裏面、つまりリアキャビティ背面に配置、固定することで独特の共振を抑制し、「ピエゾっぽい音」ではない自然な高域、高高域を実現する手法が採用されています。
このアプローチは実際に聴いた印象でも功を奏しており、ハイハットなどのシンバル音はより自然でアコースティックな音源もより綺麗に再生されているのを実感します。
中音域はボーカル域を中心に前傾し、癖の無いニュートラルな印象で再生されます。高域及び低域に相応の主張があるものの凹みはあまり感じません。
再生環境によっては音量を上げると女性ボーカルの高音など中高域付近の歯擦音などがやや強めに出る場合がありますが、多くは伸びの良さを感じる程度の強さで調整されています。付属ケーブルはあまり音量を上げずに楽しむほうが相性がよい印象のため、ある程度メリハリのある印象で鳴らしたい場合は、よりスッキリした印象の合金線などにリケーブルするなどの調整を行うのも良いかも知れませんね。これに対しボーカル域が生えるタイプのミックス線などを合せるとU字またはW字方向の印象が強化され多少聴きやすい方向に変化しそうです。また「SIMGOT EM10」は中音域から中高域のレンジで8基ものBAドライバーを組み合わせていますが、BA特有の籠もり感や歪みなどは無く、極めてニュートラルで音像も明瞭かつ自然な印象です。
SIMGOTの「RC回路による電子クロスオーバー技術」もAFULの多くの特許を持つクロスオーバー技術やMoondropのチューニング技術と遜色無いレベルを実現できていることを実感出来ます。明瞭かつ自然な輪郭の音像表現と合せて、正確な定位感を持つ空間表現もまた適切で、広さと奥行きをもった音場は壮大で立体的です。そのなかでも埋もれること無くボーカル域も存在感を持っており、演奏は綺麗に分離し、活き活きと表現されます。またインストゥルメンタルも非常に美しく、オーケストラ演奏は壮大かつ実在的な定位とディテールの表現が楽しめます。低域は全体としてはH-2019ハーマンターゲットカーブに準拠した弱ドンシャリのバランスを維持しつつも重低音を中心に非常に存在感のある音を鳴らします。
専用に開発されたという8mmダイナミックドライバーは非常に深く重量感のある低域を提供し、全体的なリスニング性を高めています。ミッドベースは存在感を示しつつも過度に膨らむこと無く直線的な印象で、スピード感と力強いアタックが心地よく再生されます。重低音はよりブーストされており非常に深く重さがあります。同時に解像感やスピード感も維持されており質感も高い印象。低域好きの方も結構満足できるエネルギーがありますが、逆にニュートラルなバランスを好まれる方にはちょっと強すぎると感じる場合もありそうです。■ まとめ
というわけで、SIMGOT製イヤホンの棚からレビューを4回続けて掲載しましたが、今回の「SIMGOT EM10」は、一般的にイメージされるSIMGOTの印象よりドンシャリかもですが、実際には非常に同社らしい音作りでフラグシップに相応しい完成度を実現していると感じました。私自身は「Moondrop Dark Saber」のようなニュートラル方向にまとめた多ドラ機も好きですが、こういうリスニングに全振りなサウンドも大好きです。
確かに再生環境の要求はやや高めである点や、付属品が下位モデルとほぼ変わらずグレードに対してややしょぼい感じがする点などはあるものの、個人的には「SIMGOT EM10」の439.99ドルという価格設定はかなりのディスカウントだと思います。少なくとも音質面においては、印象として600ドル台の多くの製品と比較しても全く遜色無く、「SIMGOT EM10」のほうが場合によって優勢であると感じます。
また国内版では為替が最も高かったときの価格設定になっていますが、掲載時のレートだと6万円台で購入できるようになっており、結構魅力的な水準になっていると思います。多少V字傾向が強く高域の主張や重低音の強さが印象的なイヤホンのため、Moondropなどよりニュートラルな製品と一概に比較はできないものの、アッパーミドル級で心地よいリスニングサウンドを探している方にはかなり良い選択しになると思います。なお店頭で試聴する際は相応に駆動力のあるアンプやDAPを持参してくださいね(^^)。