
こんにちは。今回は「TRN BA8」です。中国のイヤホンブランド「TRN」のフラグシップモデルとして発売されたモデルで片側8BA構成のイヤホンですね。ここにきて怒濤の攻勢を掛けているKZ/CCAほど話題にはなっていないものの、「TRN」も「TRN VX」以降、矢継ぎ早に新モデルをリリースしていますね。マルチBAモデルの「TRN BA8」も「低価格イヤホン」のカテゴリーを完全に超えた価格設定ながら非常に完成度が高く、TRNらしさを感じつつもバランスの良いサウンドを楽しめるイヤホンに仕上がっています。


TRNのマルチBAモデルでは現行モデルでは他に5BAモデルの「TRN BA5」がありますが、BAにベント(空気孔)つきのユニットを使用し、本体もフェイス部分に大きめのベントがあるデザインだったのに対し、「TRN BA8」では6BA+1DD構成の「TRN VX」のハウジングを大きくしたようなデザインで、ほぼ密閉型の仕様になりました。
ドライバー構成は、高域用の「30095」ユニットが3基、中高域の「50060」が2基、中音域~中低域の「29689」が2基、低域の「22955」が1基、の4Way構成となっています。TRNは4BA+1DD構成の「TRN V90」の頃から同じドライバー数でもKZとは大分異なるアプローチで音作りを行っているようで、特に今回の「TRN BA8」については同じ8BAの「KZ AS16」や「CCA C16」とは特に中音域を中心にドライバーの使い方の違いが見受けられますね。


TRN BA8 (8BA): 「22955」 + 「29689」×2 + 「50060」×2 + 「30095」×3
TRN BA5 (5BA): 「22955」 + 「29689」 + 「30095」×3
TRN VX (6BA+1DD): 10mm DD + 「50060」×2 + 「50060」&「30095」 + 「30095」×2
KZ AS16 (8BA) : 「22955」×2 + 「29689」×2 + 「31736 (2BA)」×2
※KZ ASX(10BA): 「22955s」 + 「29689s」 + 「31736s (2BA)」×2 + 「30017s (2BA)」×2
「KZ AS16」が高域・中域・低域にそれぞれ同程度の出力のBAユニットを配置する比較的シンプルな3Way構成なのに対し、「TRN BA8」では「50060」ユニットが中高域を、「29689」が中低域をカバーすることで、高域および低域をより複雑なクロスオーバーで調整しているのがわかります。また、チューニングについては「TRN BA8」のほうがコストがかかっているという見方もできますね。その辺は開発に時間を掛けた云々の記述からも伺えますが、おそらく「13ヶ月」というのは「TRN VX」および「TRN V90s」をあわせた3モデルあわせて(もしかすると「TRN V90」や「TRN BA5」も含めてかも)も含めた開発期間でしょう。TRNは「TRN V90」以降のモデルで音作りが確実に変化しており、「TRN V90」と「TRN BA5」をひとつのフェーズとして、その次のフェーズの製品として「TRN VX」と今回の「TRN BA8」、そして最新の「TRN V90s」がひとつのグループとして開発されたのでは、と推測します。
※ちなみに今回の搭載ドライバーもすべてTRNブランドのカスタムBAの型番です。内部的にはKZ同様Bellsingあたりの中華BAメーカーからOEM供給されていると思われます。Knowlesあたりと同じ型番を使っていますが別物ですね。KZ/CCA(KZ型番)およびTRN型番のBAでは毎回のお約束ですが、最近ご覧になられてご存じない方もいらっしゃるようですので、念のため記載しておきます。


「TRN BA8」はブラックカラーを基本として、「LuckLZ」など一部のセラーでは「ライトグリーン」のカラーも選択できます。価格はAliExpresで 134.95ドル~程度、アマゾンで 13,700円~です。AliExpressでの購入方法はこちらをご覧ください。
AliExpress(TRN Offical Store): TRN BA8 143.80ドル
アマゾンでも「LuckLZ」がPrime扱いで販売しています。ライトグリーンも選べますし、価格的にもむしろ安価なくらいですので、通常はアマゾンで購入した方がよいかもしれませんね。
Amazon.co.jp(LuckLZ Store): TRN BA8 13,700円 ※さらに5%OFFクーポン有り。
■ フラグシップらしくハードケース付属でパッケージも大型化。
「TRN BA8」はTRNの製品ではじめて100ドル超の価格設定となったフラグシップモデルと言うことも有りパッケージもじゅうらいより大きいものになっています。その理由はAliExpressなどでオプションとして販売されている金属製のハードケースが付属している点。


パッケージ内容は、本体、ケーブル、イヤーピース(本体装着済みMサイズと、S/Lサイズ)、ハードケース、説明書など。ケース以外は従来の製品と同様ですね。今回はライトグリーンを購入しました。


「TRN BA8」の本体は金属製ハウジングで「TRN VX」をふたまわりくらい分厚くしたようなデザイン。ただしフェイス部分の大きさはむしろコンパクトで、大きすぎて耳にはいらないという事は無いと思います。装着性はまずまずといったところでしょう。


「TRN VX」および5BAの「TRN BA5」と比べるとコンパクトさは一目瞭然で、厚みがあるとはいえ金属ハウジングで8基ものBAドライバーを搭載しているというのは結構驚きです。


付属ケーブルは「TRN BA8」から従来の黒い銅線ケーブルからダークブラウンのケーブルになりました。説明によると4芯単結晶銅(OCC)線ケーブルとのことで、プラグ形状なども含めてグレードアップしているのがわかります。イヤーピースも付属品のほか、定番のJVCの「スパイラルドット」やAcoustuneの「AET07」、AZLA「SednaEarfit Light」など開口部の大きいイヤーピースを合せてより装着感を向上させるのも良いと思います。
■ TRNらしい寒色系弱ドンシャリの音質傾向。質を高めた完成度の高いサウンド
「TRN BA8」の音質傾向は、「いかにもTRNらしい」あるいは「中華イヤホンらしい」印象の寒色系の弱ドンシャリ。派手さという点では「TRN VX」より抑えめですが、多少フラット寄りに感じる「KZ AS16」と比べるとTRNのアプローチの違いが明確に感じる事が出来るでしょう。また5BA仕様の「TRN BA5」より中音域のつながりや描写はかなりニュートラルな印象に仕上がっており、4Wayでクロスオーバーの調整を入念に行った成果が伺えます。
全体的に解像感は高く、「KZ AS16」「CCA C10」と同等以上の表現力は実現できているようです。高域は多ドラ特有の感じが無くスッキリしており、また低域の質も高く、マルチBAイヤホンとしては十分な量感がありつつ膨らむこと無くタイトに鳴ります。再生環境による影響は受けやすく、インピーダンス20Ω、感度100dB/mWと極端に反応が良いというわけではありませんが、やはり相応にS/Nの高いDAPやアンプでの利用がよいでしょう。8BAというドライバー数をしっかり鳴らすためには相応の駆動力が必要です。またリケーブルによる変化も結構ハッキリと実感できます。「TRN BA8」では新しいOCC線のケーブルが採用されていますが、やはりリケーブルは必須と考えた方が良さそうです。「TRN BA8」の高域は鮮やかで明瞭な音を鳴らします。透明感のある高域で見通しの良さはこのイヤホンの特徴といえるでしょう。「多ドラ」とも呼ばれるドライバー数の多いマルチBAイヤホンでは、どうしても高域の透明感が失われ、人によっては籠もりのようにも感じる傾向があります。これは高域に4基のBAを割り当てている「CCA C16」や改良型の「KZ AS16」でも否めない部分でしたが、「TRN BA8」では多少人工的な脚色があり自然な伸びの良さとは異質なものの明瞭さを感じる印象になっています。実際は「TRN BA8」でも特定の帯域に従来のTRN、あるいは中華イヤホン特有の多少人工的で金属感のある硬質な音を鳴らしますが、全体的には極端に高域が主張することなく全体的なバランスを維持しているのは比較的好感できます。また刺さりやすい帯域は適度にコントロールされているため明瞭ながら聴きやすい印象もあります。
中音域は凹むこと無く明瞭になります。主張は多少強めで、癖はないもののフラット傾向のイヤホンよりボーカル帯域を中心に明るく鮮やかさを感じる鳴り方をします。女性ボーカルやピアノの高音は多少派手めに鳴ります。全体的に解像度の高い輪郭のはっきりしたサウンドで、1音1音を明瞭に再生します。そのためボーカルの余韻や演奏のディテールを捉えやすい印象です。モニターライクな音ではありませんが、より派手でリスニング寄りの「TRN VX」と比べると臨場感などは「TRN VX」のほうが確実にあるものの、見通しの良さは「TRN BA8」のほうが格段に向上しています。また分離も非常に良く、音場は十分な広さと奥行きがあります。ボーカル帯域は比較的近いものの極端に近すぎず、優れた定位感により全体的に立体的な表現ができています。ただこの音場表現は再生環境に依存する部分が大きく、十分にクリアで駆動力のある再生環境でないと多少平坦になってしまったり、分離が低下し騒々しく感じる場合があるかもしれません。逆にマルチBA特有の音の広がりにより抜け感という点では好みが分かれる可能性があります。この辺はやはり8BAクラスの「多ドラ」イヤホンであることを実感する部分ですね。
低域はマルチBAとしては十分な量感があり非常にタイトな音を鳴らします。キレと解像感のある低音で、アタックは力強さがあります。ミッドベースは過度に膨らむことなく締まりの良い音で、スピード感のある曲もしっかり制御できている印象です。ダイナミックドライバーのような滑らかさではなく、多少硬質でソリッドな印象もありますが、自然さを損なわない範囲でまとまりがあります。重低音については重さや深さはハイブリッドには及ばない部分もありますマルチBAとしては十分な沈み込みがあり解像度も高い印象です。ただ低域についても再生環境に影響される部分が多く、駆動力が足りないと中高域が騒々しく感じるため相対的に腰高に聞こえるかもしれません。この辺は低域用BAを2基搭載している「KZ AS16」や「CCA C16」のほうが再生環境による印象の違いは少ないかもしれませんね。まあ、どのみちスマートフォンなどで聴くイヤホンではないというのはどちらも同じなので、個人的には「KZのほうが商売が上手い」くらいの認識ですね。
「TRN BA8」はバランスの良いサウンドのため、ロック、ポップス、アニソンなどのボーカル曲、はもちろんクラシックなども結構聴き応えのある音で鳴らします。いっぽうで多くのTRN製のハイブリッド製品同様に寒色系で金属質な傾向もあるため、バラード曲やジャズなどはドライな印象に感じます。またEDMなどでは「TRN VX」などの低域のほうが好みに感じる方も多いと思いますし、低域の響きや重量感を求めるかたは硬質ながら弾むような「TRN BA8」の低域は少し異なるかもしれませんね。


また前述の通り「TRN BA8」はリケーブルによる変化の大きいイヤホンでもあり、ある程度情報量が多くクリアな印象のケーブルとの相性が良いと思います。TRNでは8芯純銀線の「TRN T3」との組み合わせが相性が良く、「TRN BA8」の透明感がより引き立ち、見通しの良い音場感をいっそう実感できるのではと思います。またTRNからは完全ワイヤレス化できる「TRN BT20S Pro」などのアダプタもリリースされており、高音質なDAPやワイヤレスアンプには及びませんが「TRN BA8」も手軽にワイヤレス化が可能です。
というわけで、「TRN BA8」は、同社のフラグシップに相応しく、従来のモデルを超えた高い完成度を実現したイヤホンだと感じました。「TRN BA5」と聴き比べる各音域で確実に質の向上が確認でき、またつながりの上でも緻密なクロスオーバー処理によりマルチBAらしさを感じつつもまとまりのあるサウンドを実現しています。実は「TRN BA5」もKZのマルチBA機と比べても非常に完成度が高かったのですが、さらにレベルの高い「TRN BA8」は、正直なところ、今後レビュー予定の「KZ ASX」「ASF」なども含めて、KZおよびCCAのマルチBAイヤホンと比較しても最も「質の高い」イヤホンかもしれませんね。「KZ AS16」などより中高域寄りですが、音質傾向が好みに合えばかなり良い選択肢になるでしょう。
そのうえであえてウィークポイントを挙げるとするならば、やはり「価格」かもしれません。「TRN BA8」はバランスの取れた良くできたイヤホンであることは間違いないと思いますが、最近のTRNの、あるいは低価格中華ハイブリッドの延長線上のサウンドだともいえます。そのため、特に高音質で特徴のあるイヤホンが群雄割拠する100ドルオーバーの価格帯で、「TRN BA8」の150ドル近い価格設定に見合う満足度が得られるかどうかは多少意見が分かれそうな気もします。そういった意味では、やはり中華イヤホンをいろいろ集めているマニア向けの製品、ということになるかもしれませんね。KZからは最新10BAモデル「KZ ASX」がリリースされていることもあり、「TRN BA8」は今回もマイナーな感じになっていますが、興味があれば購入しても良いイヤホンだとは思いますよ。