
こんにちは。今回は「TRN STM」の紹介です。中国のイヤホンブランド「TRN」の新しいモデルで既存の「TRN ST1」をブラッシュアップし、さらに低価格モデルでは非常に珍しいフィルター交換によるサウンドバランスの変更が可能となった非常に興味深いモデルです。より高級感のあるメタルフェイスプレートなど、見た目的にも大幅なグレードアップが行われています。
「TRN STM」は1BA+1DDのハイブリッド構成のイヤホンで、同社のエントリーモデル「TRN ST1」のアップグレードモデルになります。とはいえ10ドル前後の「とにかく低価格で」販売する前提で作られた「TRN ST1」と比べると、約2倍の価格設定の「TRN STM」では様々な部分が大きく異なっており、より「本命はこちら」という感じがする内容です。


まず、もっとも目立つ部分は金属フェイスプレートの変更で、「TRN STM」ではCNC加工されたアルミ合金と金属パネルとなり、樹脂塗装が施された合金製(ダイキャスト?)プレートを使用していた「TRN ST1」と比べると高級感が一気にアップしました。また、「TRN ST1」ではフェイス中央に大きめのベント(空気孔)があり、ダイナミックドライバーの音抜けを確保することでサウンドを調整していましたが、「TRN STM」ではより高性能なドライバーを搭載することで密閉式となり、音漏れが大きく軽減されている点もポイントです。


ドライバー構成はシンプルな1BA+1DDのハイブリッドですが、ダイナミックドライバーは上位モデルの「TRN VX」などで採用されている「10mm 二重磁気回路ダイナミックドライバー」を搭載。またバランスド・アーマチュア型(BA)ドライバーは低価格中華イヤホンではお馴染みの「30095」ではなく、「TRN V90」で採用されている「30019」を搭載。評価の高い上位モデルで採用されたドライバーユニットを組み合わせ、さらにダイナミックドライバー背面に取付けられたネットワーク回路により出力をコントロールすることで、レベルアップしたサウンドを実現しています。


さらに「TRN STM」では20ドルクラスのイヤホンでは非常に珍しい交換式のノズルフィルターを採用。標準タイプの「ゴールド」に加えて、低域を強化した「レッド」と高域の刺さりを抑えた「ブルー」の3種類により好みに応じたサウンドコントロールが可能です。


現在販売されている「TRN STM」のカラーは「ブルー」と「グリーン」の2色。購入はAliExpressの各セラーまたはアマゾンの「HiFiHear Audio」にて。価格はAliExpressが22.80ドル、アマゾンでの価格は 2,999円 で、掲載時点では「HiFiHear Audio」では国内在庫によりプライム扱いで発送されます。
AliExpress(TRN Offical Store): TRN STM
Amazon.co.jp(HiFiHear): TRN STM
■ 見た目のうえでも高級感がアップ。3種類の交換式フィルターもしっかりした作り。
「TRN STM」のパッケージはいつものラインアートが載った白箱タイプ。内容はパッケージ内容はイヤホン本体、フィルター(ブルー、レッド)、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)、説明書、保証書ほか。今回は「グリーン」をオーダーしました。




「TRN STM」のハウジングは樹脂部分は「TRN ST1」と同様の形状ですが、交換可能なステム部分とアルミ合金製のフェイスプレートが一新されているのがわかりますね。ダイキャストを樹脂塗装した「TRN ST1」のフェイスパネルのような安っぽさは皆無で、この見た目だけで数ランク上のイヤホンにグレードアップしたようにも見えます。ハウジング部分の形状は「KZ ZST」「KZ ZSTX」のサイズ感とよく似ており、装着性もほぼ同様です。


「TRN STM」を「TRN ST1」と比べてみるとフェイスプレートの厚みが増しているため、その分厚みが増しているのが分ります。またステムも交換式となり従来のTRNのイヤホンより太くなっていますね。「TRN ST1」ではフェイスプレートの中音にベント(空気孔)があるため多少の音漏れがありましたが、「TRN STM」デザイン的な彫り込みのみで塞がっているため、音漏れについての心配は無く、静かな場所でも問題なく使用できるようになりました。遮音性は一般的なレベルで、フィット感の良いイヤーピースに替えることでより向上させることができます。


そして「TRN STM」の大きな特徴である交換式のフィルターですが、フィルターの付いたノズルカバー部分がネジ状になっていて、しっかりと固定できます。フィルターを外すと「30019」BAドライバーが結構先端ギリギリのところで固定されているのがわかりますね。標準の「ゴールド」は通常のメッシュパーツのみで、「ブルー」「レッド」にはそれぞれ裏面にフィルター材が貼り付けられています。「ブルー」のほうがフィルターは弱く、高域の刺さりを抑制するタイプ。さらに厚いフィルターが張られた「レッド」では中低域の厚みが増すタイプになります。
「TRN STM」では「ブルー」も「レッド」も「フィルターを加える」方向で「標準」が最も高域が強い、というのもいかにもTRNらしくて興味深いですね。


付属のケーブルは従来の黒い被膜のOFC銅線ケーブルから多少線材がアップグレードしています。新しいダークブラウンの4芯ケーブルは高純度単結晶銅線(6N OCC)を採用しているとのこと。またプラグ部分もL型コネクタを採用しています。今後このアップグレードされたケーブルに順次代わっていくのかもしれませんね。いっぽうイヤーピースは従来と同じもので、こちらは装着性を向上させる意味でもできれば交換した方がよいでしょう。お勧めは定番のJVC「スパイラルドット」や、Acoustuneの「AET07」、AZLA「SednaEarfit Light」など開口部の大きいイヤーピースがお勧めです。
■ 寒色系ドンシャリ傾向を継承しつつ全体的にブラッシュアップした「遊べる」サウンド。
「TRN STM」の音質傾向は硬質でスッキリした高域が特徴的な「寒色系ドンシャリ」。「ゴールド」の標準フィルターでは高域に多少のシャリ付きを感じる、いかにもTRNらしい派手めのサウンドですが、「TRN ST1」より明瞭感に加えて音域ごとの表現力が格段に向上しており、一聴してその違いを実感します。開封直後はより高域が派手めにでるためエージングは50時間程度は行った方が良いでしょう。「TRN STM」はインピーダンス24Ω、感度106dB/mWと「TRN ST1」同様(同22Ω、108dB/mW)に鳴らしやすく、スマートフォン直挿しでも十分に楽しめるチューニングになっています。いっぽうでリケーブル効果も結構大きく、また再生環境によっての変化を感じやすいイヤホンでもありますね。
3種類のフィルターでは、標準の「ゴールド」がいちばんTRNらしい派手めの音で、低域強化の「レッド」が最近のKZに見られるボーカル帯域寄りの聴きやすいアレンジに近い音になります。中間の「ブルー」は高域の強さや全体のバランスは維持しつつ刺さりやすい帯域を少し抑えている印象ですね。
ただ、「TRN STM」は比較的鳴らしやすいイヤホンであるため、逆に出力が強すぎるアンプでは「ハイ上がり」気味になるようで、これらのフィルターの効果も非常に限定的です(違いを感じにくいか、本来と異なる印象になる場合があります)。このような場合には情報量の多いケーブルへのリケーブルが有効です。リケーブルにより主に中低域の情報量が底上げされることでより小さい音量での再生が可能となり、ハイ上がりを抑制して本来のバランスで楽しめると思います。また傾向の異なるDAP(デジタルオーディオプレーヤー)やポータブルアンプで聴いてみたり、異なる種類のリケーブルによりサウンドの変化を試してみるのも面白いと思います。
「TRN STM」の高域は、硬質で煌びやかな印象でスッキリとした見通しの良い音です。「ゴールド」フィルターでは金属質なシャリつきを多少感じるものの、中低域の厚みが増していることもあって「TRN ST1」よりは気にならない印象です。また歯擦音のような刺さりは抑制されています。シンバル音などは結構派手めに鳴りますが「TRN ST1」より見通しは良く綺麗に伸びる印象です。「TRN V90」でも使用されている高域用の「30019」ユニットは多くのTRN製品でも使用されている「30095」と比較すると、硬質な煌めきなどよく似た印象ではあるものの、より見通しの良い自然な高音を鳴らす印象ですね。解像感も含め高域については最近の「KZ ZSTX」や「KZ ZSN Pro X」より明瞭で見通しの良い音だと思います。また再生環境により刺激を強めに感じる場合はフィルターを「ブルー」に変更し、イヤーピースやケーブルの変更を試してみることをお勧めします。
中音域は特に凹むこと無く鳴ります。「TRN ST1」と比べると明らかに「TRN ST1」のほうが凹みがあり、いっぽうの「TRN STM」はよりハッキリとした主張で多少近くで定位しているのがわかります。解像感は「KZ ZSTX」や「KZ ZSN Pro X」と比べても遜色なく、輪郭の明瞭さは「TRN STM」のほうがハッキリしている印象です。そのためKZの2モデルと比べてよりクールで硬質な音に感じます。またボーカルも癖のない音で鳴りますが余韻などはサッパリしておりややドライな印象。「TRN STM」のフェイスプレートは密閉型になりましたが「TRN ST1」と比べて音場は同様で普通からやや広めの印象。ただこちらも出力が強い再生環境では逆に多少狭く感じる場合があります。「レッド」フィルターでは中低域の厚みがより増し、音場や余韻を感じやすくなるため、ポップスなどのボーカル曲には向いていると思います。
そしてリケーブルですが、情報量が多く、中低域に厚みを持たせるタイプがより効果的でしょう。TRNの純正の場合、8芯高純度銅線ケーブルの「TRN T4s」(タイプCコネクタ仕様)が最も良い印象でした。「TRN T4」の「タイプC」コネクタ仕様はまだアマゾンでは販売されていませんが、中華2pinの場合はパイオニアから販売されている「コネクタシールド」を使用する、または4mm口径のシリコンチューブなどを短く切ってカバー代わりに使う、という方法もありますね。またqdcコネクタ仕様では「YYX4823」なども手ごろな価格で良いと思います。
というわけで、「TRN STM」は中華ハイブリッドらしい寒色系ドンシャリ傾向ながら、競合する最新の低価格イヤホンと比較しても遜色ないクオリティで仕上げられた製品だと感じました。ただやはり「KZ ZSTX」や「KZ ZSN Pro X」といった最新のKZ製品のサウンド的な完成度は非常に高く、この価格でベストのイヤホンを1個だけ選ぶ、というと、ちょっと厳しい側面もあるかも、という気もしました。
余談ですが、私のブログで昨年秋に掲載した「個人的な好みランキング・2019 低価格中華イヤホン編」で、音質評価では「KZ ZSX」のほうが上ながら好み加点で「ZS10 Pro」がトップになる、という、いかにも「個人的な好み」に全力で偏ったランキングを掲載しました。そのとき「ZS10 Pro」を挙げた理由が「より下品な音で、いかにも中華」だったから(笑)。私の場合どうしてもいろいろな価格帯のイヤホンを聴くため、あえて低価格機を選ぶとしたら「良くできたモデル」より「特長が分りやすいモデル」のほうが印象が強いわけですね。
最近のKZは中華イヤホンメーカーとして普通に良いイヤホンをとんでもない低価格で作れるブランドになりました。また音質面では一部のモデルを除き、より成熟したリスニングイヤホンをつくりたいのだろうな、と感じさせる製品も増えています。
いっぽうでTRNはかつてのキワモノ感が払拭され、安定した製品を送り出すメーカーに変貌を遂げたものの、音質傾向的には中華ハイブリッドらしいサウンドをむしろ突き詰めている感もありますね。そのアプローチは最近の製品を見ても「こいつらブレてねーな」と思わず感心してしまいます。
そういった点を踏まえて、最近の低価格3モデルを比較すると、「KZ ZSTX」は「この価格でできる最もバランスの良いリスニングイヤホン」という仕上がりで、「KZ ZSN Pro X」が「音楽だけでなくゲームや動画も含めた様々なコンテンツでマニア以外の人にも分りやすさのあるイヤホン」だと思っています(それぞれのレビューでも同様のことを記載しています)。そして、これらと競合する「TRN STM」は、「キレの良いエッジの効いた明瞭サウンド」という、かつて低価格中華イヤホンが評価されたポイントを現在でもしっかり踏襲し、中華以外のイヤホンを聴いていた方にも楽しさを感じさせる製品だと思います。またマニアにとっては、そもそも20ドルクラスの製品にこれだけの「詰め込み」がされているイヤホンを見逃すことはできないと思いますし(^^;)、フィルターおよびリケーブルで遊ぶうえでも格好のアイテムといえるでしょう。そうなると多少懐に余裕のあるマニアの方なら、やはり選ぶより買いそろえるのが基本、という中華イヤホンの「原則」は今も変わらない、ということかなと思います(^^)。


まず、もっとも目立つ部分は金属フェイスプレートの変更で、「TRN STM」ではCNC加工されたアルミ合金と金属パネルとなり、樹脂塗装が施された合金製(ダイキャスト?)プレートを使用していた「TRN ST1」と比べると高級感が一気にアップしました。また、「TRN ST1」ではフェイス中央に大きめのベント(空気孔)があり、ダイナミックドライバーの音抜けを確保することでサウンドを調整していましたが、「TRN STM」ではより高性能なドライバーを搭載することで密閉式となり、音漏れが大きく軽減されている点もポイントです。


ドライバー構成はシンプルな1BA+1DDのハイブリッドですが、ダイナミックドライバーは上位モデルの「TRN VX」などで採用されている「10mm 二重磁気回路ダイナミックドライバー」を搭載。またバランスド・アーマチュア型(BA)ドライバーは低価格中華イヤホンではお馴染みの「30095」ではなく、「TRN V90」で採用されている「30019」を搭載。評価の高い上位モデルで採用されたドライバーユニットを組み合わせ、さらにダイナミックドライバー背面に取付けられたネットワーク回路により出力をコントロールすることで、レベルアップしたサウンドを実現しています。


さらに「TRN STM」では20ドルクラスのイヤホンでは非常に珍しい交換式のノズルフィルターを採用。標準タイプの「ゴールド」に加えて、低域を強化した「レッド」と高域の刺さりを抑えた「ブルー」の3種類により好みに応じたサウンドコントロールが可能です。


現在販売されている「TRN STM」のカラーは「ブルー」と「グリーン」の2色。購入はAliExpressの各セラーまたはアマゾンの「HiFiHear Audio」にて。価格はAliExpressが22.80ドル、アマゾンでの価格は 2,999円 で、掲載時点では「HiFiHear Audio」では国内在庫によりプライム扱いで発送されます。
AliExpress(TRN Offical Store): TRN STM
Amazon.co.jp(HiFiHear): TRN STM
■ 見た目のうえでも高級感がアップ。3種類の交換式フィルターもしっかりした作り。
「TRN STM」のパッケージはいつものラインアートが載った白箱タイプ。内容はパッケージ内容はイヤホン本体、フィルター(ブルー、レッド)、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)、説明書、保証書ほか。今回は「グリーン」をオーダーしました。




「TRN STM」のハウジングは樹脂部分は「TRN ST1」と同様の形状ですが、交換可能なステム部分とアルミ合金製のフェイスプレートが一新されているのがわかりますね。ダイキャストを樹脂塗装した「TRN ST1」のフェイスパネルのような安っぽさは皆無で、この見た目だけで数ランク上のイヤホンにグレードアップしたようにも見えます。ハウジング部分の形状は「KZ ZST」「KZ ZSTX」のサイズ感とよく似ており、装着性もほぼ同様です。


「TRN STM」を「TRN ST1」と比べてみるとフェイスプレートの厚みが増しているため、その分厚みが増しているのが分ります。またステムも交換式となり従来のTRNのイヤホンより太くなっていますね。「TRN ST1」ではフェイスプレートの中音にベント(空気孔)があるため多少の音漏れがありましたが、「TRN STM」デザイン的な彫り込みのみで塞がっているため、音漏れについての心配は無く、静かな場所でも問題なく使用できるようになりました。遮音性は一般的なレベルで、フィット感の良いイヤーピースに替えることでより向上させることができます。


そして「TRN STM」の大きな特徴である交換式のフィルターですが、フィルターの付いたノズルカバー部分がネジ状になっていて、しっかりと固定できます。フィルターを外すと「30019」BAドライバーが結構先端ギリギリのところで固定されているのがわかりますね。標準の「ゴールド」は通常のメッシュパーツのみで、「ブルー」「レッド」にはそれぞれ裏面にフィルター材が貼り付けられています。「ブルー」のほうがフィルターは弱く、高域の刺さりを抑制するタイプ。さらに厚いフィルターが張られた「レッド」では中低域の厚みが増すタイプになります。
「TRN STM」では「ブルー」も「レッド」も「フィルターを加える」方向で「標準」が最も高域が強い、というのもいかにもTRNらしくて興味深いですね。


付属のケーブルは従来の黒い被膜のOFC銅線ケーブルから多少線材がアップグレードしています。新しいダークブラウンの4芯ケーブルは高純度単結晶銅線(6N OCC)を採用しているとのこと。またプラグ部分もL型コネクタを採用しています。今後このアップグレードされたケーブルに順次代わっていくのかもしれませんね。いっぽうイヤーピースは従来と同じもので、こちらは装着性を向上させる意味でもできれば交換した方がよいでしょう。お勧めは定番のJVC「スパイラルドット」や、Acoustuneの「AET07」、AZLA「SednaEarfit Light」など開口部の大きいイヤーピースがお勧めです。
■ 寒色系ドンシャリ傾向を継承しつつ全体的にブラッシュアップした「遊べる」サウンド。
「TRN STM」の音質傾向は硬質でスッキリした高域が特徴的な「寒色系ドンシャリ」。「ゴールド」の標準フィルターでは高域に多少のシャリ付きを感じる、いかにもTRNらしい派手めのサウンドですが、「TRN ST1」より明瞭感に加えて音域ごとの表現力が格段に向上しており、一聴してその違いを実感します。開封直後はより高域が派手めにでるためエージングは50時間程度は行った方が良いでしょう。「TRN STM」はインピーダンス24Ω、感度106dB/mWと「TRN ST1」同様(同22Ω、108dB/mW)に鳴らしやすく、スマートフォン直挿しでも十分に楽しめるチューニングになっています。いっぽうでリケーブル効果も結構大きく、また再生環境によっての変化を感じやすいイヤホンでもありますね。3種類のフィルターでは、標準の「ゴールド」がいちばんTRNらしい派手めの音で、低域強化の「レッド」が最近のKZに見られるボーカル帯域寄りの聴きやすいアレンジに近い音になります。中間の「ブルー」は高域の強さや全体のバランスは維持しつつ刺さりやすい帯域を少し抑えている印象ですね。
ただ、「TRN STM」は比較的鳴らしやすいイヤホンであるため、逆に出力が強すぎるアンプでは「ハイ上がり」気味になるようで、これらのフィルターの効果も非常に限定的です(違いを感じにくいか、本来と異なる印象になる場合があります)。このような場合には情報量の多いケーブルへのリケーブルが有効です。リケーブルにより主に中低域の情報量が底上げされることでより小さい音量での再生が可能となり、ハイ上がりを抑制して本来のバランスで楽しめると思います。また傾向の異なるDAP(デジタルオーディオプレーヤー)やポータブルアンプで聴いてみたり、異なる種類のリケーブルによりサウンドの変化を試してみるのも面白いと思います。「TRN STM」の高域は、硬質で煌びやかな印象でスッキリとした見通しの良い音です。「ゴールド」フィルターでは金属質なシャリつきを多少感じるものの、中低域の厚みが増していることもあって「TRN ST1」よりは気にならない印象です。また歯擦音のような刺さりは抑制されています。シンバル音などは結構派手めに鳴りますが「TRN ST1」より見通しは良く綺麗に伸びる印象です。「TRN V90」でも使用されている高域用の「30019」ユニットは多くのTRN製品でも使用されている「30095」と比較すると、硬質な煌めきなどよく似た印象ではあるものの、より見通しの良い自然な高音を鳴らす印象ですね。解像感も含め高域については最近の「KZ ZSTX」や「KZ ZSN Pro X」より明瞭で見通しの良い音だと思います。また再生環境により刺激を強めに感じる場合はフィルターを「ブルー」に変更し、イヤーピースやケーブルの変更を試してみることをお勧めします。
中音域は特に凹むこと無く鳴ります。「TRN ST1」と比べると明らかに「TRN ST1」のほうが凹みがあり、いっぽうの「TRN STM」はよりハッキリとした主張で多少近くで定位しているのがわかります。解像感は「KZ ZSTX」や「KZ ZSN Pro X」と比べても遜色なく、輪郭の明瞭さは「TRN STM」のほうがハッキリしている印象です。そのためKZの2モデルと比べてよりクールで硬質な音に感じます。またボーカルも癖のない音で鳴りますが余韻などはサッパリしておりややドライな印象。「TRN STM」のフェイスプレートは密閉型になりましたが「TRN ST1」と比べて音場は同様で普通からやや広めの印象。ただこちらも出力が強い再生環境では逆に多少狭く感じる場合があります。「レッド」フィルターでは中低域の厚みがより増し、音場や余韻を感じやすくなるため、ポップスなどのボーカル曲には向いていると思います。低域は中高域同様に多少メリハリ重視の音で、開封直後から明瞭な鳴り方をします。二重磁気回路ドライバーを採用したことでレスポンスの向上がみられ、分離の良いスッキリした音を鳴らします。また重低音の沈み込みについてもまだ浅さを感じるものの「TRN ST1」よりは大幅に改善されています。もっとも低域については「KZ ZSN Pro X」あたりと差別化される要素で、質や量のうえではKZのほうが確実に上ですが、よりスッキリとした歯切れの良い音を楽しみたい場合は「TRN STM」の低域も良いのではと思います。なお「レッド」フィルターにより相対的に低域の量感は増えますが、その差は小さくどちらかというとリケーブルによる変化のほうが大きいかもしれませんね。
そしてリケーブルですが、情報量が多く、中低域に厚みを持たせるタイプがより効果的でしょう。TRNの純正の場合、8芯高純度銅線ケーブルの「TRN T4s」(タイプCコネクタ仕様)が最も良い印象でした。「TRN T4」の「タイプC」コネクタ仕様はまだアマゾンでは販売されていませんが、中華2pinの場合はパイオニアから販売されている「コネクタシールド」を使用する、または4mm口径のシリコンチューブなどを短く切ってカバー代わりに使う、という方法もありますね。またqdcコネクタ仕様では「YYX4823」なども手ごろな価格で良いと思います。というわけで、「TRN STM」は中華ハイブリッドらしい寒色系ドンシャリ傾向ながら、競合する最新の低価格イヤホンと比較しても遜色ないクオリティで仕上げられた製品だと感じました。ただやはり「KZ ZSTX」や「KZ ZSN Pro X」といった最新のKZ製品のサウンド的な完成度は非常に高く、この価格でベストのイヤホンを1個だけ選ぶ、というと、ちょっと厳しい側面もあるかも、という気もしました。
余談ですが、私のブログで昨年秋に掲載した「個人的な好みランキング・2019 低価格中華イヤホン編」で、音質評価では「KZ ZSX」のほうが上ながら好み加点で「ZS10 Pro」がトップになる、という、いかにも「個人的な好み」に全力で偏ったランキングを掲載しました。そのとき「ZS10 Pro」を挙げた理由が「より下品な音で、いかにも中華」だったから(笑)。私の場合どうしてもいろいろな価格帯のイヤホンを聴くため、あえて低価格機を選ぶとしたら「良くできたモデル」より「特長が分りやすいモデル」のほうが印象が強いわけですね。
最近のKZは中華イヤホンメーカーとして普通に良いイヤホンをとんでもない低価格で作れるブランドになりました。また音質面では一部のモデルを除き、より成熟したリスニングイヤホンをつくりたいのだろうな、と感じさせる製品も増えています。いっぽうでTRNはかつてのキワモノ感が払拭され、安定した製品を送り出すメーカーに変貌を遂げたものの、音質傾向的には中華ハイブリッドらしいサウンドをむしろ突き詰めている感もありますね。そのアプローチは最近の製品を見ても「こいつらブレてねーな」と思わず感心してしまいます。
そういった点を踏まえて、最近の低価格3モデルを比較すると、「KZ ZSTX」は「この価格でできる最もバランスの良いリスニングイヤホン」という仕上がりで、「KZ ZSN Pro X」が「音楽だけでなくゲームや動画も含めた様々なコンテンツでマニア以外の人にも分りやすさのあるイヤホン」だと思っています(それぞれのレビューでも同様のことを記載しています)。そして、これらと競合する「TRN STM」は、「キレの良いエッジの効いた明瞭サウンド」という、かつて低価格中華イヤホンが評価されたポイントを現在でもしっかり踏襲し、中華以外のイヤホンを聴いていた方にも楽しさを感じさせる製品だと思います。またマニアにとっては、そもそも20ドルクラスの製品にこれだけの「詰め込み」がされているイヤホンを見逃すことはできないと思いますし(^^;)、フィルターおよびリケーブルで遊ぶうえでも格好のアイテムといえるでしょう。そうなると多少懐に余裕のあるマニアの方なら、やはり選ぶより買いそろえるのが基本、という中華イヤホンの「原則」は今も変わらない、ということかなと思います(^^)。