Shure AONIC 5

こんにちは。おそらく2020年最後のレビューは、まさかの忘れた頃の「Shure AONIC 5」です。購入時期は6月中旬ということで、なんと半年以上放置されていた書きかけネタです。というか何で仕上げなかったのか自分でも良く覚えていないという・・・。
ShureのAONICシリーズのイヤホンは3/4/5と順次購入していますが、なかでも「Shure AONIC 5」は、私も結構以前から「SE535LTD」を愛用していただけに思い入れの大きかったモデルです。そして購入後、「Shure AONIC 5」を約半年間使ってみて、同時に、Shureを代表するプロフェッショナルモニターモデルの系譜として「SE535」を想像以上に意識していること、そこに加えてAONICシリーズとしてリスニング寄りにチューニングした音作りの難しさを感じたりもしました。まあ、「SE535」らしさとリスニングイヤホンとしての方向性、そして「SE846」と比較したアプローチの違い、といった要素をすべて高いレベルで求められることの大変さ、といった感じですね。
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→ 過去記事: 「Shure AONIC4」 くっきりとした描写で様々なジャンルの曲を楽しめる、抜群のリスニングサウンド。同社初の高音質ハイブリッドイヤホン【購入レビュー】
→ 過去記事: 「Shure AONIC3」 シングルBAの枠を超えた表現力豊かなモニターサウンド。完成度の高いShureの新シリーズのエントリーモデル【購入レビュー】

また、従来の「Shure SE」シリーズについてもまとめて紹介しています。
→ 過去記事: 【棚からレビュー】 Shure 「SE846/SE535LTD/SE425/SE315/SE215SPE」 遂に新シリーズ登場! なので既存モデルをまとめて振り返ってみた。

改めて、「Shure AONIC 5」は3基のバランスド・アーマチュア型(BA)ドライバーを搭載し、プロフェッショナル用モニターイヤホンとして長年販売されてきた「SE535」シリーズの後継的な位置づけのイヤホンです。同社のSEシリーズの最上位モデルは現在も「SE846」ですが、こちらは最初からリスニングイヤホンとして生まれたという点からも「SE535」とは異なる性質の製品です。前述のSEシリーズまとめにも記載したとおり、「SE535」のルーツは2003年のShureの最初のプロミュージシャン用スタジオモニター「E5c」に始まり、「SE535」で採用されていた3BAドライバー構成は2006年の「E500PTH」(≓「SE530」)に進化後、「SE535」シリーズまで15年近くにわたり採用され続けました。

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そして「Shure AONIC 5」は3BA構成の「SE535」を踏襲しつつ、採用ドライバーを一新し、全く新しいハイグレードなリスニングイヤホンとして登場しました。3基のBAドライバーのうち、2基のウーファーによるクリーンで自然な低音を、1基のツイーターによる優れた空間表現が可能とのこと。また「Shure AONIC 5」では「SE846」で採用されたノズルフィルターの交換ギミックを採用しており、「バランス」、「ウォーム」、「ブライト」のノズルを交換することで周波数特性を調整することができます。
Shure AONIC 5」のカラーは透明(SE53BACL+UNI-A)、ブラック(SE53BABK+UNI-A)、レッド(SE53BARD+UNI-A)の3色が選択できます。価格はアマゾンで60,280円~です。
Amazon.co.jp: Shure AONIC 5 


■ より大きくなって「SE846」ぽくなったデザインと、フィルターノズル交換のギミック。

Shureの「AONIC」シリーズのパッケージは円筒形のものですが、箱のサイズは「3」<「4」<「5」と大きくなり、「Shure AONIC 5」は他のモデルと比べてイヤホンとしては結構大きめ。パッケージ内容もより充実しています。
Shure AONIC5Shure AONIC 5
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パッケージ内容は、イヤホン本体、マイク付きUNIケーブル、6.3mmステレオ変換コネクタ、交換用ノズルフィルターおよびケース・交換工具、標準イヤーピース(シリコンタイプ S/M/Lサイズ、ウレタンタイプ S/M/Lサイズ+装着済みMサイズ、スポンジタイプ、トリプルフランジ)COMPLYイヤーピース(Pタイプ、3サイズ)、ケース、説明書など。

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私はクリアーカラーのタイプを購入しています。内部が見えるほうが「SE846」などと比較できて良いですからね(^^;)。「Shure AONIC 5」では標準イヤーピース以外にコンプライPシリーズが付属しますが、個人的にはシリコンタイプは標準のウレタンタイプのほうしか使わないのであまり関係なかったりしますね。
Shure AONIC 5」のサイズは「SE846」に近く、実際には僅かに「Shure AONIC 5」のほうが大きくなりました。そのため、かつての「SE535」よりふた回りくらい大きくなっています。
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装着感もほぼ「SE846」と同じ印象で、「SE535」の耳の中にすっぽり収まる感じに比べると結構大きくなっていますが、装着性および遮音性は変わらず良好です。また「Shure AONIC 5」は「AONIC」シリーズの「3」および「4」と比べても大きくなります。3種類を比べると明らかにグレードの違いを感じますね。

交換式ノズルフィルターは樹脂製ノズル部分がそのままフィルターになっています。種類は「バランス」(グレー)、「ウォーム」(ブラック)、「ブライト」(透明)の3種類で、標準では「バランス」フィルターが装着されており、他のフィルターは金属製のケースに収納されています。
Shure AONIC 5ノズルの取り外しはフィルターケースに付属している金属製の工具でステムのリング上の部品を回して取り外します。この辺のギミックおよび固定している金具部分は「SE846」と同じですが、「SE846」が金属製のステムノズルにフィルターを格納するタイプなのに対して、「Shure AONIC 5」では樹脂製のステムノズル自体がフィルターになっており、ノズル部分ごと交換する仕様になっている点が異なります。また従来の「Shure SE」シリーズは細いノズル部分が折れるという壊れ方がよくあったのですが、「Shure AONIC 5」では万が一破損してもフィルター部品を購入すれば済むようになったというメリットもありますね。


■ 「SE535」と「SE846」と「リスニング寄り」の狭間で。実は「ウォーム」フィルターが正解かも。

Shure AONIC 5」のサウンドはShureらしいフラットでモニター的な要素感じる部分と、AONICシリーズでのリスニング寄りのアプローチが混在した印象でした。3種類のフィルターは主に高域と低域で作用し変化を与えます。
「SE535」または「SE535LTD」と比較して、「Shure AONIC 5」も全体のサウンドバランスは踏襲しています。再生環境によって高域を中心に印象が変わりやすい点なども含めて、「Shure AONIC 5」が「SE535」の系譜であることを実感させます。ただ、低域はより厚く滑らかさがあり、どちらもニュートラルな印象ながら「SE535」のダイレクトさより、リスニング向けの自然な印象のほうを感じやすい傾向です。最初は「SE846」の低域に多少近づけたチューニングにも感じましたが、実際に聴き比べるとかなり異質なもので、「Shure AONIC 5」は低域に多少ウォームな印象を持たせることで、より量感が増し、自然な繋がりの良さを感じさせるアプローチのように感じます。

Shure AONIC 5Shure AONIC 5」の高域は、組み合わせるフィルターにより印象が異なりますが、「ウォーム」では「SE535」より多少丸みを感じる印象になり、「バランス」は「SE535」というより「SE535LTD」に近く、「ブライト」はよりアグレッシブな印象になります。「SE535」同様に再生環境によって印象は結構異なってくるため、S/Nが高く、カスタムIEMなどでも安定して出力を確保できるDAPなどを利用することが必須となります。もともと「SE535LTD」を使用しているという意味では「ブライト」フィルターが合うかも、と思ったのですが、実際は「ニュートラル」でも十分に煌めきがあり、「SE846」のブライトフィルターに近いくらいの主張がありました。そして十分に明瞭で解像感の高い音を実感できます。また「ウォーム」フィルターは「SE535」とはもっとも離れた印象になりますが、後述の通り「Shure AONIC 5」の中低域のバランスを考えるならばこれが一番相性が良いかもしれません。そして「ブライト」はちょっと「明るすぎる」かもしれませんね。

中音域はどのフィルターでも比較的ニュートラルでしっかりと主張のあるダイレクトな音を鳴らします。「Shure AONIC 5」の中音域もSE535同様に非常に明瞭で鮮やかさを感じる音です。「バランス」フィルターではボーカル帯域がより前方で定位し、演奏は見通しが良くクリアな印象で表現されます。また中高域への抜け感も良好です。この辺の印象は「Shure AONIC 5」が「SE535」より「SE535LTD」ぽく感じる部分かもしれませんね。音場は標準からやや狭く、「SE846」の広大な音場表現と比べると「いかにもモニターらしいタイトな印象」なのは「SE535」同様ですが、ここで「ウォーム」フィルターを使用することで中低域の厚みが増し、よりり「濃い」印象になるため、空間表現もよりリスニング的に変化します。もちろん「ウォーム」でも中高域が籠もることは無く、従来のShureとは多少異質ながら、実は「ウォーム」フィルターがリスニングイヤホン「らしさ」という意味ではもっとも合っているのでは、という気もしてきます。

Shure AONIC 5低域も音源そのままの非常にニュートラルな印象で鳴りますが、「SE535」と比べると中低域同様により滑らかがあり、僅かな違いですがリスニング寄りな印象にチューニングされているのを実感します。特に日本より海外ではより低域の量感を重視する傾向にあるようで、Shureが「Shure AONIC 5」にとったアプローチは低域の量を増やすと言うより「量感を感じやすいようにアレンジする」という方向性だったのかもしれません。あるいはイコライザーを使用して低域を持ち上げたときにより滑らかに感じるようにミッドベース付近に温かみ、あるいはふくよかさを加えているように感じます。このアプローチはリスニング的には心地よさを与えるいっぽうで、音数が多く、スピード感のある曲では「SE535」のタイトさはやや損なわれているようにも感じます。もちろん、このような印象はローパスフィルターによる独特の低域を実現している「SE846」のサウンドとは異質なものです。
ここで「Shure AONIC 5」のフィルターを「ウォーム」にすると、低域の厚みが増加し、適度な暖かさは非常にエモーショナルな心地よさを提供します。こう考えると、「Shure AONIC 5」の「正解」は「ウォーム」フィルターで従来とは異なるリスニングサウンドに調整することなのかもしれません。


Shure AONIC 5というわけで、Shureの新しいAONICシリーズ、そして従来のSEシリーズをひと通り購入して使用しているわけですが、どのイヤホンを選ぶのか正解か、ということになると、これはいくつかの視点により変化しそうです。
まず、単純に「AONIC3」「AONIC4」「AONIC5」のどれかを選ぶとするならば、もちろん「Shure AONIC 5」が最も良い選択肢です。ただ、それぞれの製品にはそれぞれのメリットがあります。まず、「AONIC3」は最も低価格で最もコンパクトである、ということ自体が「Shure」に限定するならばメリットになりますが、非常にフラットで音を捉えやすく、耳コピなどに使用するのにはとても最適なイヤホンです。またリスニングイヤホンとしてもとても使い勝手の良い製品です。
また「Shure」にとって最初のハイブリッドである「AONIC4」は、主に「SE215」を使っている方の最適なアップグレード先でしょう。同様にフラットよりな傾向を持ちつつ、情報量と表現力が格段に向上します。またリケーブルによる変化を楽しむ「素材」として最適という意味でも良い選択肢になります。
そして「Shure AONIC 5」は解像感、情報量、表現力、どれをとっても3モデルの中では最も優れた選択肢になります。またフィルター交換によりかつての「SE535LTD」のようなモニターサウンドを楽しむことも可能です。ただ、既に「SE535」や「SE535LTD」を愛用している場合は「新しいデザイン」と「フィルターによる変化を楽しめる」ことにどの程度メリットを感じるかによります。
ただし、この選択肢に「SE846」を加えるとなると、すべての面において「SE846」は完成度が高く、やはり「Shure AONIC 5」より「SE846」を選ぶことが正解となるでしょう。

Shure AONIC 5Shure AONIC 5」のメリットは「SE846」には及ばないものの、例えば「ウォーム」フィルターを使用することで、従来の「Shure SE」シリーズとはまた別の濃厚さを感じるサウンドを実感でき(「ウォーム」を装着した状態でも印象としては「SE846」の「バランス」フィルターくらい)、「SE535LTD」に比較的近いダイレクトなモニターサウンドも楽しめる、といった「Shureらしさをいろいろ高いレベル楽しめる」ことだと思います。ただ6万円オーバーの価格設定が妥当かどうか、という点では多少意見も分かれると思います。それでも私を含めて購入してしまう「Shure好き」の人間もいて、彼らをある程度満足させられる完成度を実現している、という点ではまあ「有り」なんでしょうね(^^;)。


タグ :
#Shure
#構成:3BA
#コネクタ:MMCX
#リケーブル:MMCX
#価格帯/グレード:ミドル&ハイグレード
#有線イヤホン:ミドルグレード以上(5万円前後~)