まだまだ語り足りない「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」
今回は、サブタイトルになっているキルケーに絡め、
ギリシア神話の構造から、ギギとハサウェイの関係を考察していきます。
ネタバレ多めなうえ、今後の原作の展開にも触れるのでその点ご了承ください。
ギギとキルケー
本作のサブタイトル、キルケーの魔女は言うまでもなくギギを指していますが
まずはキルケーについて。
FGOなどに触れている人であれば、人気キャラクターの一人として馴染みがあるかもしれませんが、
ギリシア神話の中でも非常に力を持った魔女です。
キルケーというとこの絵画が一番有名。
旅人をもてなすふりをして、動物(豚)に変えてとらえてしまう危険な女性で
男性を魅了して捕えてしまうギギのイメージに合っていると言えます。
キルケーも魔女の人名だから
「キルケー”の”魔女」だと意味がおかしくならないか?というのはあります。
ただ、ケネスが率いる部隊の名前が、彼女からインスピレーションを得て命名されたキルケー部隊なので
どちらかというと「キルケー(部隊)の魔女=ギギ」ということなのかもしれないですね。
仮題の「サンオブブライト(ブライトの子)」よりも、本作をよく表していると思います。
本作のハサウェイはブライトの子、という自認は弱い気がしましたので。
さて話を戻して、魔女キルケーはギリシア神話の中でも
オデュッセイアという叙事詩の中で登場します。
オデュッセイアはギリシア神話の英雄オデュッセウスが戦争を終え故郷に帰るまでの旅路を描いた物語で、キルケーはその旅路の途中でオデュッセウスと出会います。
彼もそのほかの旅人と同じように動物にして捕まえようとするわけですが失敗。
逆にオデュッセウスに惚れてしまい、オデュッセウスとキルケーは1年ほど一緒に暮らすのですが、オデュッセウスは故郷に戻るという最初の目的を捨てられず、キルケーのもとを去るんですね。
詳しい解説はこちらの動画が面白いです。
これ完全にハサウェイとギギの関係だよなと思うわけです。
映画の先の話に触れることになりますが、
ハサウェイとケネスの間で二人を手玉に取っていたはずが、気づけば今の地位を捨ててもいいくらいにハサウェイに心が傾いているギギ。
ハサウェイも彼女に惹かれる自分を抑えられず、キルケーの魔女ラストで二人は一緒になるわけですが、彼女を幸運の女神として肯定的にとらえていたケネスと違い、
ハサウェイは崇高な目的から目を曇らせる障害ととらえ、最終的にまた遠ざけるわけです。
映画だと展開変わるかもしれないですが。
ただ、映画では、あえてギギとキルケーの相似を原作よりも強調しているように感じましたので、原作と同じ流れを、よりドラマチックに演出するんじゃないかなと思っています。
ハサウェイとオデュッセウス
ではそのペアとなるハサウェイはどうかというと、似てなくもないですが、それゆえに異なる点も非常に際立っています。
あるいは、閃光のハサウェイという作品と、オデュッセイアとの関係。
それは、先に、大きな戦があり、それによって発生した目標を達成するまでの物語、という点でしょうか。
オデュッセイアは、トロイア戦争に参加し、故郷を離れたオデュッセウスが、故郷に戻るまでの苦難の道を描いた物語です。
対して閃光のハサウェイは、第二次ネオジオン戦争(逆襲のシャア)に参戦し、心に深い傷を負ったハサウェイが、そのトラウマから過激な目標を得てしまう、という物語。
先に大戦があり、本作がその影響下にある。
という点ではインスパイアは受けていそうです。
目的達成の中で仲間を次々に喪って、最終的に自分ひとりに近い状態に陥るのも同じですね。
ただ、似ているからこそ、その目的の方向性が真逆のベクトルを向いているのがスパイスとして効いているとも感じます。
オデュッセウスの目標は、最初から最後まで一貫して「自分で選び取ったもの」です。 故郷へ帰るという目的は、さまざまな苦難に翻弄されながらも、彼自身の意志によって保たれ続けます。
一方でハサウェイの目標は、本人が「選んだ」と思い込んでいるだけで、 その実、トラウマに付け込まれ、外部から埋め込まれた歪なものだと私は思っています。
なんかちょっとオウム真理教みたいだな。インテリほど取り込まれていく感じとかホントそう。
物語の骨格がこれほど似ているにもかかわらず、 その心臓部――目的の出どころが決定的に異なる。
だからこそ、オデュッセウスは応援できても、ハサウェイの歩みには、強い違和感と不安を覚えてしまう。
ハサウェイと闇バイト──マフティーという毒
ちょっと話はそれますが、閃光のハサウェイ、特にキルケーの魔女が公開された今のタイミングにおいて
時代に求められている作品なのでは、と思ったのがこれ。
昨年の特撮作品『仮面ライダーガヴ』も、子供向けの装いで、同じ構造を描こうとしていた作品だったと感じています。
本作も、ハサウェイがマフティーに絡み取られていく様は、まさに闇バイトや違法薬物から逃げられなくなる構造と非常に似ている。
もともと原作者の富野由悠季監督が学生時代に盛んだった全共闘の体験が根底にあるとも言われているので、闇バイトが全共闘と似ている、のかもしれませんね。
善人のふりをして近づき、次第に手を汚させ、逃げ道を塞ぎ、 気づいたときには「もうこれしかない」と思い込ませる。
共犯関係に引きずり込むことで、選択肢そのものを奪っていくやり方です。
ハサウェイ本人は自分をリーダーだと認識しているのでしょう。 けれど実際のマフティーという組織は、 クワック・サルバーという黒幕にとっての、都合のいい鉄砲玉集団でしかない。
親の目線として、ハサウェイの選択でブライトとミライを不幸に陥れる未来がほぼ確定していることに強い憤りを感じもしますが、それ以上に、ハサウェイの「若さ」「幼さ」「未熟な正義感」を巧みに操り、歪に育て上げ、ハサウェイを『崇高な目的』を妄信するテロの実行犯に仕立て上げた「クワック・サルバー」の悪辣さも、本作において重要な要素の一つだと思いました。
最後に
本当は「ギギって魔性の女だよね」とか「ハサウェイの自罰的な衝動」についてとか語ろうと思っていたのですが、そういうのは詳しい人もっとたくさんいるよなと思って、違う切り口で考察してみました。
閃光のハサウェイはオデュッセイアの類型、っていうのはあながち間違いではないと思うんですよね。
と気づけたのが今回のブログを書いた収穫。
ハサウェイの旅の終わりが、より楽しみになりました。
おまけ|ギギとペーネロペー
今回ほぼ登場しなかったペーネロペーですが、元となったギリシア神話のことを考えると、「そりゃ出れんわな。」という話になったりします。
なぜかというと、ペーネロペーはキルケーが愛するオデュッセウスが故郷に戻る目的の一つ、愛する妻なわけです。
そもそもこのMS104FFペーネロペー、中にオデュッセウスガンダムが入っているというのだから、そんなイチャイチャを魅せられたら魔女キルケーはどう思うのか・・・
一度、表舞台から退かされるのも無理はありません。
そもそもケネス、主力MSがペーネロペーの部隊にキルケーなんて名前つけちゃだめだよw
そして、その代わりに引っ張り出されたのが、TX-ff104アリュゼウス
神話のアリュゼウスはペーネロペーの兄だそうで、名づけの由来もそこからなんでしょう。
もともとオデュッセウスガンダムの開発計画があり、(トロイア戦争10年+故郷に帰るまで10年=初代から20年後に作ったガンダム、というネーミングらしい)
ミノフスキーフライトユニットを搭載したフライトユニットと合体した(フィックスド)姿がオデュッセウスの妻「ペーネロペー」の名を関したことで
じゃぁその試作機(練習機?)の名前はペーネロペーの兄「アリュゼウス」にしようという感じなんでしょうかね。
妹は主役の恋敵なので兄が代役で引っ張り出された。と思うとちょっと面白いですね。
最終章の次回作では、魔女キルケー≒ギギがキルケー部隊から離れ、ハサウェイのもとに帰ったことで、満を持してペーネロペーも復活するわけですね。
今回Ξガンダムがマスクが割れてその下にガンダムフェイスを隠していたように
最終章のペーネロペーも修繕と改修が終わり、だいぶ見た目が変わりそうな予感です。
設定だけ存在していたアルゴスユニット搭載型になるのでは?といううわさもありますね。
それも楽しみですね。
ちなみにこの”アルゴス”というのは、ギリシア神話における百目の巨人、そしてそれから名をとった古代ギリシアの王国が有名ですが、
どうも調べてみると、オデュッセウスの帰還を10年待ち続けた忠犬の名前でもあるようで、おそらくこちらがアルゴスユニットの由来でしょうね。
猟犬だったそうで、より攻撃的な外見になりそうです。
関連記事
キルケーの魔女のメイン感想記事です。
結構なボリュームになっちゃったので神話周りの話を切り離しました。
闇バイトの絡みで少し触れた、仮面ライダーガヴ一年を通しての感想。
ここ最近の特撮では抜きんでてよい作品だったと思います。


