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# 辞書の序文を読む―その8『ローマ字で引く 国語新辞典』

いきなり超マイナーな辞書を取り上げますが、これには理由があります。

本当は、そろそろ『研究社 新和英大辞典』を取り上げたいと思って準備を進めていました。見出しとなる日本語についての分析が精緻であることから、和英辞典といいながら、英語側を理解できる翻訳者にとっては、

国語辞典

としてもすぐれものという希有な辞書です。

ただ、この辞書について書くためには、初版である
『武信和英大辞典』
にまで遡らねばなりません。残念ながらわたしは持っていませんし、国立国会図書館のデジタルサービスで確認はできたものの、これがかなり厄介。なにしろ、こんな調子です。

PREFACE
 It may sound priggish, but it is nevertheless a fact, that the genesis of the present publication dates back more than twenty yeas, when...
序言
 我国語辭典は槪󠄃して活きたる現代語を閑却し、殊に俗語、新造語、飜譯語及專門の用語の如きは不備殆ど用に耐へず。我国に於て、ウエブスター、オツクスフォードの完成は前途尙󠄂遼󠄃遠の感あり。~

そう、実は英文と日本語文が並んでいて、内容は必ずしも対応していません。しかも、日本語のほうは旧字・旧仮名づかい。発行が1918年(大正7年)ですから当然です。ここまで含めて序文の話をするのはちょっとしんどい。もう少し準備ができてからにせざるをえません。

それから、もうひとつ。『新和英大辞典』の話なら、わたしなどより、翻訳フォーラムの高橋さきのさんのほうがずっとお詳しいので、記事にするには、先にお話をうかがわないとなぁという理由もあります。

言い訳が長くなりました。

とはいえ、研究社が国語系に強いという話はしたい。そこで、代わりに持ってきたのが今回の『ローマ字で引く 国語新辞典』だというわけなのでした。

  • 研究社

 

データ

最新版:復刻版(2010年7月刊)。
発行元:研究社
媒体:書籍

手元にある『ローマ字で引く 国語新辞典』について

上に載せたAmazonリンクの書名でわかるとおり、わたしの手元にあるのも「復刻版」です。オリジナルの刊行は1952年(昭和27年)。といっても、改訂版とか新装版ではなく、あくまでも「復刻」なので中身は、活字の古さに至るまでオリジナルと同じです。

ただし、奥付ページにある〈おことわり〉にはこう書かれています。

 本書は昭和27年(1952年)発行の『ローマ字で引く 国語新辞典』の復刻版です.カバーと表紙は初版を基に再現し,本文は昭和44年第15版を原本とし,版面を15%ほど拡大しました.

よって、「はしがき」の紙面も活版印刷のまま。まだ旧字が残っており、全面的に旧仮名づかいではないものの、促音の「つ」は小さく書かれていません。

辞書本体も、これと同じ活版印刷、旧字ありなので、現代のわたしたちから見ると、若干ですが見にくくはあります。

国語を分析した辞典

「はしがき」から少しずつ引用します。

西洋の,例えば英語辞典などだと,一つの言葉が含む意味が,細かに分析され,分類されていて,なるほど,このようにも種々の意味の差別を含んでいるものかと,驚かされる.(中略)

英語圏の辞典を目標にするという姿勢は、明治~昭和前期の国語辞典関係者に共通して見られます。

 そのようにして分析して分類してみると,一つの言葉が実に多くの意味を持つている.そういうことを,常日頃,感じているのは,和文英訳などを試みる機会のある人々である.一つの言葉が決して一つの英語では表わしきれない.和英辞典をあけてみると,一つの見出しの日本語のあとに,沢山の英語が並んでいる.それらは,その一つの見出しの言葉の中に含まれている意味の一つ一つを,それぞれ言い現わしたものだ.われわれは,そのように訳語を並べるだけでなく,分類された意味の一つ一つに,それに当たる英語をつけてみれば,一そう,意味の差別が明らかになるであろうというので,それを試みることにした.

(太字は引用者、以下同)
ここで早くも、翻訳者が言葉をどう見ているかということが言及されています。それを考えると、後世のわたしたちがこういう辞書の恩恵を受けているのは当然の結果といえそうです。

 そのようにして,いろいろの困難にあいながらも,意味を分析し,それを説明してゆくということは,面白いことではあつたが,それも今までのように,ただ並べるだけでなく,分類した上,用例を要するものには用例をつけてという企画をしたため,苦労は尙更であつた.然し,これによつて,すこしでも,言葉の意味を分析的に考えることが行われ,文章に合理的な秩序を與え,日本語を,もつと明確にすることができれば幸いである.

もちろん、この辞書が編まれた時期には『新和英辞典』も版を重ねています。第2版が1931年刊、第3版が1967年刊なので、「ローマ字で読む」はちょうどその間に編まれたことになります。その間に研究社さんで国語の研究がどのくらい進んだのか、そこがまだわたしにはわかっていないのですが、上の引用にあるような試みは『新和英辞典』でも当然進んでいたのでしょう。だからこそ、"『新和英辞典』は国語辞典にもなる" のです。

いわば、『ローマ字で引く 国語新辞典』は、『新和英大辞典』の "いとこ" に当たるといってもいい辞典なのでした。

『暮しの手帖』のテストで健闘

国語辞典の世界では、1971年に起こった「暮しの手帖事件」があまりにも有名です。

『暮しの手帖』は、広告料をいっさいとっていないことから、歯に衣着せぬ、遠慮容赦ない製品テストで有名ですが、同年2月に発行された第10号では、当時の小型国語辞典でメッタ斬りにされたのでした。

open.spotify.com

研究社の『国語新辞典』も、このテストの対象になっています。ただ、このとき使われたのは「ローマ字で引く」という冠がないもので、ただ研究社の『国語新辞典』として登場します。掲載写真を見ても「ローマ字で引く」とは書かれていません。しかし、本文中で「ローマ字引きである」と書かれているので、中身は同じだったはずです。

どの国語辞典も惨憺たる評価なのですが、そのなかでは『国語新辞典』が多少なりとも良い成績を残していました。

新聞記事からひろった言葉と、衣食住関係の言葉と、合せて二一五語について、誤りがあるかないか、それをしらべてみた、~

というところでは、◎評価が25個と最高点を記録(2位は5個)。また、ランダムに抜き出した1669語について「どのくらい正確かどうか」を調べたテストでも、◎と○を合わせた数が82%でトップに立っています(ただし、掲載なしも多い)。

だからといって、『暮しの手帖』さんが『国語新辞典』を褒めているということはまったくないのですが、「はしがき」に書かれている編集方針が、いくぶんは貢献していたのかもしれません。




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