しばらく別のことばかり書いていましたが、久しぶりにこのシリーズを再開します。今回は、いよいよ『日本語新辞典』(小学館)です。
絶版ではないらしいのですが、上のリンク先でもわかるとおり、中古は高騰しています。10年前にわたしが購入したときは4,800円でしたが、数年前に1万円を超えました。
でも、ご安心ください。この春もしくは夏にはジャパンナレッジに追加されることが決まっています。
『日本語新辞典』(以下、「日本語新」)の特長の一部については、5年ほど前に以下の記事を書きました。
このときは、主に「類語情報が充実している」ことを中心に書いたので、それも含めて、序文からこの辞典を紹介していきます。
データ
最新版:初版のみ(2004年11月刊)。
発行元:三省堂
媒体:書籍(中古)、ジャパンナレッジ(予定)
『日本語新辞典』の「序」と最大の特長
「序」は、編者である松井栄一(まついしげかず)による文章で、こんな書き出しで始まっています。
規模の大きな『日本国語大辞典』の編集に長年かかわったことによって、現代日本語の辞書は、大辞典とは別に作るべきだと思うようになった。
ここで触れられているとおり、編者は『日本国語大辞典』通称「日国」の編集委員でもあり、「日国」の刊行は初版が1972~1976年、第二版が2000~2002年でした。序文の日付は平成16年、つまり2004年の11月となっているので、「日本語新」は二度にわたる大事業を成したあとで刊行されたことになります。もちろん、第二版が終わってから「日本語新」の編纂に当たったのでは間に合うはずもないので、おそらく初版の仕事を終えてからこうお考えになったのでしょう。
次は、やや長くなりますが段落まるまるを引用します。
振り返ってみると、これまでの国語辞典の利用者は、大半が幼いときから日本語を使って育ってきた日本人であった。だから、そのことばに当てる漢字表記や簡単な意味の記述が示されていればそれでよいと考えられてきた。しかし、現在では、日本語を学ぶ外国人が使用することも考慮に入れる必要があるし、類似の意味のことばの違いを外国人に聞かれたときに、答えることができるような配慮も必要である。国語辞典ではなく、日本語辞典の時代になったのである。
(太字は引用者)
この段落に、「日本語新」の最も大切な特長がまとめられています。そして、末尾では『日本語新辞典』という書名も見事にタイトル回収されているw点に注目してください。
日本語を学ぶ外国人のため
というのは、実は翻訳者にとっても必要不可欠な視点です。
一般の日本語ネイティブのように、母語として無意識に日本語を使っているだけでは、(ちゃんとした)翻訳はできないからです。「類似の意味のことばの違いを外国人に聞かれたときに、答えることができる」という点も同じです。語彙についても文法についても、意識的に使える、説明できる、その能力が翻訳にはどうしても必要になってきます。
だからこそ、「日本語新」は翻訳者であるわたしたちにとって理想的な辞書(のひとつ)なのです*1。
具体的な特色
編集方針に当たる特色は、6つ挙げられています(以下、赤字は引用者)。
- ことばの意味は、できるだけわかりやすく分析的に記述する。使い方を知るのに役立つよう用例も多く載せる。
- 「しおどき」「機会」「チャンス」のような和語・漢語・外来語まで含め、用例に即して類語の異同を明らかにする。
- 外国人にとっては難しい日本語の助詞については、動詞の項目で意味の違いごとに用法を示した。
- 特別な敬語を有する名詞、代名詞、動詞などには「敬語欄」を設けた。
- 物事を形容することばを適切に使えるように、形容詞、形容動詞、副詞などにはプラスマイナスの評価を記号で表示した。
- 発音とともに東京アクセントの情報を示した。
赤字で示した特色を見ただけでも、翻訳者に役に立ちそうだとわかるのではないでしょうか。
用例は、通常の小型辞典の2倍以上載っています。そのため、規模としては小型辞典(収録語数約6万3000語)であるにもかかわらず、判型はだいぶ大きくなっています。JKに収録されれば、その大きさも気になりません!
類語については上述の過去記事に詳しく書きました。巻末には「類語索引」もあります。これが収録されたら、すでにある『角川類語新辞典』『デジタル大辞泉』とあわせて、JKは日本語の類語を調べる最強の環境になりそうです。
助詞を示す、つまり動詞などの文型を示すのは、『新明解国語辞典』などでも試みられています。「~を○○する」だっけ? 「~に○○する」だっけ? などの疑問に答えてくれます。
プラスマイナス評価は、主観が入るかもしれませんが、これもなあまり見かけない情報です。これだけは、画像で紹介します。
プラスは

マイナスは

で示されています。語釈のなかに顔文字が使われているのは、この辞書が唯一でしょう。ただ、わりとプラス・マイナスがはっきりしている語にしか付いていないようでもあり、斬新な試みというだけに終わっているかも…
以上の特色以前に、もちろん語釈が随所で素晴らしいことは、言うまでもありません。
あか
④(革命期の色から)共産主義や社会主義、また、それを信奉する人をいう俗語。現在では、あまり用いない。
この単語について、「現在では、あまり用いない」という但し書きが書かれている辞書は、ほとんどありません。
松井栄一氏について
最後に、『日本語新辞典』である松井栄一氏について、ひと言だけ触れておきます。といっても、わたしは特に詳しいわけではありませんが、2014年にこんな著書が出ていて、
入門に最適です。この本にも『日本語新辞典』の編集方針に触れた箇所があります。
というわけで、この名辞書がジャパンナレッジで使えるようになるのももうすぐです。これをお持ちでなく、かつジャパンナレッジをご利用の方、楽しみにしつつお待ちください!
*1:「外国人に日本語を教える日本語教師のための」参考書や辞典類が大いに役に立つのも同じ理由からです。