シリーズ連載がしばらく空きました。「てにをは」に続いて、『てにをは連想表現辞典』を取り上げます(直後に続けられなかった理由はこちら)。
なお、この辞書の特長については、過去の記事があります。
データ
最新版:初版(2015年8月刊)。
発行元:三省堂
媒体:書籍
『てにをは連想表現辞典』の「はしがき」
『てにをは連想表現辞典』の「はしがき」はこう始まっています。
文表現をするとき、とのように書き表すか迷うことは多いでしょう。そのときの一助となるものをめざして本書を編みました。
辞書の序文(まえがき、はしがき)って、編纂の発端や、編纂者がその辞書に込めた思いを語るのが定番なのですが、この辞書に限っては
えらくあっさり
しています。このすぐ後からはもう、この辞書の構成と使い方の話に進んでしまいます(そのため、凡例や使い方のページはない)。その部分を抜き出して箇条書きにしてみます。
- 22万の文章例をそこに含まれる語句で分類し、その語句を太字の見出しとした。見出しの数は約1万1600語。見出しを大きく382のグループ(「引き出し」と呼ぶ)に分けた。
- 一つの引き出しには、反対の意味を持つ言葉、意味の同じ表現なども入れた。
- 特定の語を引くときは索引から。
- 収録されているさまざまな表現に接することで、自分の気に入った表現を思いつける。また、それらの表現からイメージを広げながら独自の新しい表現法も考えつくことができる。
- 一つの言葉についていろいろな表現があるため、とまどうかもしれないが、その「とまどい」からも新しい表現が生まれる。
- 比喩表現の例も随所にちりばめた。
タイトルに「連想表現」という語句が含まれている理由がよくわかります。そして、以下のパラグラフも重要です。
本書は文章表現を中心に例示しました。そのため言葉どうしの結びつきについては、多くの例を示していませんので兄弟辞典である「てにをは辞典」(のべ約60万の結びつきを収録)を参照してください。
「てにをは」と「てにをは連想表現」はセットでどうぞ、ということですね。
ところで、なんでこの辞書の「はしがき」はあんなにあっさりしているのでしょうか。理由は、次に紹介するこの辞書にヒントがありそうでした。
『講談社 日本語表現大辞典 比喩と類語三三八〇〇』の「はしがき」
『てにをは連想表現辞典』の「はしがき」があっさりしているのは、もしかしたら著者が同じ趣旨で過去に編んだ辞書があったからではないか――わたしはこう推測しました。「てにをは連想表現」の「はしがき」終盤にこう書かれていたからです。
〈表現のための辞典〉として最初の一歩となった「究極版逆引き頭引き日本語辞典」とそれに続く『日本語表現大辞典』(どちらも講談社)の企画編集者であった清水和美さんには、今回編集の協力者となっていただきました。
この『日本語表現大辞典』、手持ちのがようやく見つかりました。
「比喩と類語三三八〇〇」という副題も付いているので、特徴がよくわかります。そして、その特徴が「てにをは連想表現」にもしっかり受け継がれているのは、上で見たとおりです。
「はじめに」はこう始まっています。
文章を書こうとするとき、気に入った表現がなかなか思いつかないという経験は、だれしもあることでしょう。そういうときに役立つものはできないものかと考えて、このような本を作りました。普通の辞書には意味は書いてあっても、用例はそう多くありません。この本は、近現代の作家264人、868作品を中心に、文章を書く参考になる表現例を豊富に集めています。実際の表現例を見て、さらに連想をはたらかせれば、これだと思う文章表現が作りやすいのではないかと考えたからです。
思ったとおり、著者の小内一さんがこの辞書を編むに至った発端が、もっと詳しく書いてありました。最後のほうには、ご自身が校正という仕事に携わるなかで感じた思いも記されています。
校正の作業をしていると、何かおかしい表現にぶつかることも少なくありません。その表現をどのように直せば読者により的確に書き手の意図が伝わるだろうかと、あれこれ考えるとき、参考になる適当な辞書が少ないというのが実感でした。そんな気持ちから表現例を集めました。
ふたつの辞典の違い(データのみ)
さて、この辞書。「てにをは連想表現」の前身といえばいえるのですが、違いもいろいろあります。詳しい違いを書き始めると長くなるので、今回はデータだけ示しておきます。
『てにをは連想表現辞典』のデータ
- 出典の作家=約400人
- 見出しの数=約1万1600語
- 文章例=のべ約22万
『日本語表現大辞典』のデータ
- 出典の作家=264人
- 作品数=868点
- 見出しの数=約2900
- 索引項目数=約7000
- 表現例=約3万3800
「連想」とか「表現」などが名前に付く辞書類
表題に「表現」という語を冠する辞書については、先日書きました。「連想」と付く辞書もちらほらありますね。そういえば、紙の辞書ではなくウェブサイトですが、こういうのもあります。
先日の「翻訳フォーラム式辞書デー2026」でも、井口耕二さんが紹介なさっていました。そのときも、「並んでいる類語・類義表現を眺めながら連想をはたらかせる、そこから自分なりの語句・表現を思いつくことも多い」という話も出ました。
連想
って、言葉を使ううえでかなり重要な機能なのだろうと思います。そして、自由闊達に連想がはたらくかどうかは、自分のなかにある語彙で決まります。語彙を増やしていけば連想力も鍛えられる。語彙を増やすには……その先は言うまでもないでしょう。