「序文を読む」シリーズ、今回は『現代英和辞典』です。
そんな辞書、知らない? そうかもしれません。
この辞書の知名度がどのくらいかわからないのですが、「リーダーズ」シリーズを扱った以上、取り上げないわけにはいきません。というのも、『現代英和辞典』は「リーダーズ」シリーズの直接の祖に当たるからです(とはいえ、今回は少なからずわたしの"趣味"寄りであることも否定しません^^)。
データ
最新版:初版のみ(1973年刊)。
発行元:研究社
媒体:書籍(中古)
『現代英和辞典』とは
「リーダーズ」を取り上げた記事では引用しませんでしたが、初版の「まえがき」、第1パラグラフにはこう書かれています。
近年,国の内外における英語辞典編集の進歩は著しく,特に学習辞典の進歩には目をみはるものがある.しかしながら,社会人・実務家の立場からすると,わが国の英語辞典の現状は改善の余地を多く残していると言わざるをえない.このような状況にかんがみ,本辞典はわが国の社会一般の読者の要望にこたえるべく企画された.先に研究社は『現代英和辞典』を刊行してこのような読者の要望にこたえようとしたのであるが,本辞典はまさに『現代英和辞典』の基本方針を継承発展させたものである.
ここで言及されているのが『現代英和辞典』です。英語名称は KENKYUSHA'S SHORTER ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY。Shorterという名前は、日本だと「簡約」に当たる規模。

10年以上前に、旧ブログで少しだけ紹介したことがあります。
『リーダーズ英和辞典』の初版が1984年、こちらの『現代英和辞典』の刊行が1976年なので、「リーダーズ」に引き継がれるまでの短命の辞書だったとも言えます。しかし、「リーダーズ」シリーズの礎を作ったのがこの一冊であることは間違いありません。それを、この辞書の「まえがき」で確かめたいと思います。
「まえがき」より
この辞典は,対象を主として大学生および一般社会人に限定し,扱い易い一冊本の限られたページ内で,できる限り多くの語彙と語義とを正確に提供することを基本方針して編集されている.
一般読者(general readers)向けで、とにかく語数の多い辞書。まさに「リーダーズ」の祖です。ただし、大英和辞典のような方針はとらないとも書かれています。
いわゆる大辞典はその性格上,網羅的であることを要求されるために,実用的には価値の疑われる情報のために,少なからぬスペースを割くことを余儀なくされているのが実情である.
この方針が貫かれているからこそ、その系譜に連なる「リーダーズ」シリーズに至るまで、翻訳するときまっ先に引いてみる辞書のひとつになるのですよね(皆さんがそうとは限りませんが、少なくともわたしはそうです)。これに続く部分がこれです。
こうしてみると,学習辞典の煩を厭い,大辞典の非実用性にあきたらない読者層が 必ず存在するに ちがいない.本辞典はそのような人たちの要求に応えようとするものである.
(下線は引用者)
この下線部が、何ともすばらしいと思いませんか? 最近はあまり見られなくなった(と思う)伝統的な対句表現です。『リーダーズ英和辞典』の初版から8年前に、やや古めかしいこういう日本語を見つけると、うれしくなります*1。
続いて、この辞典の特色が箇条書きされています。
- 綴り字・発音ともに米語を優先
- 収録語彙は約12万2千
- 専門語、新語、卑語、複合話を多数収録
- 話源の記載は割愛、発音表記は独自に簡略化、語義分類の番号を少なくした
- 接頭辞・接尾等・連結形を数多く採録
- 同意語・反意語・関連話を示す
- usage labels を充実
- 〈 〉括弧を用いて 連結などを明確に示した
- 日豪関係の発展に鑑み,オーストラリア英語を充実
このうち、1と9には時代を感じます。3のうちの複合語については、こう書かれています。
d)従来とかく閑却されがちで,一般利用者に物足りなさを感じさせることの多かった複合話を重視し,特に2語(あるいはそれ以上の)見出しを豊富に採り入れた.
「とかく閑却されがち」のあたりも、やはり文章がやや古風です。半世紀以上前の辞書の「まえがき」ともなると、こういう格調のある日本語にも出会えたりします。
余談
ということで、今でも中古で手に入ると思いますが、機会があればぜひ手に取ってみてください。絶妙の厚さ(約4cm)に収まっていて、とても扱いやすいのです。三省堂の「コンサイス」などもだいたいこういう厚さですね。左手だけで楽に持てて、右手でパラパラっと引くことができます。旧ブログでも書いたように、わたしはこれをたぶん中学生の終わり頃から使い始め、大学に入ってからもしばらく使っていたはずです。そのときの感触を今でも覚えています。
あの頃は、引いた単語は片端から吸収できてたんだろなぁ、たぶん……
ちなみに、アルクさんが1983年5月に刊行した『英語の辞書カタログ』裏表紙には、研究社の辞書ラインアップとして、まだ『現代英和辞典』が載っています。『リーダーズ英和辞典』初版が出るのがこの翌年です。
このカタログでも、「現代の新聞・雑誌や一般書に出てくる語は、ほとんどまにあうように企画された辞書である」と紹介されています(p.75)。
*1:考えてみると、1973年というのはもう半世紀以上も前です。歴史を振り返ってみれば、50年もあれば日本語の様子がだいぶ変わっていてもおかしくないわけですよね。そこからさらに50年前は1923年ですし。
