いや、別に国語辞典の裏の世界とか、そういう話ではありません。そんなん、知りませんし^^;
うら(裏)をとる
って言いますよね。「英辞郎に載っている情報は必ず裏をとろう」とか。この慣用句が各種の国語辞典ではどう書かれているかという話です。そして、結論から先に言っておくと、
『例解新国語辞典』のすばらしさ
が端的にわかる事例でした。それ以外にもいくつか、国語辞典の個性がよくわかるサンプルが集まりました。
※箱のデザインが違うだけです。お好みでどうぞ。
そして、この春からは『例解新国語辞典』をオンラインで使えるようになりました。記事の最後のほうに書きます。
1. 研究社 新和英大辞典から
まず、基準点を設けるために『研究社 新和英大辞典 第5版』を確認しておきます。「うら(裏)」のような多義語になると、この辞典の国語辞典らしさ――語義の分類と整理のすばらしさ、それに合わせた的確な英語例文――が際立つからです。
うら【裏】(ura)
3〔情報などの裏付け〕confirmation; evidence; support; backing; corroboration.
裏を取る∥obtain supporting evidence
それを記事にするからにはちゃんと裏を取れ.∥If you are going to write an article on it, ⌈get the facts [find out whether it's really true].
語義◎・用例◎です。
「情報などの裏付け」と説明し、それに合わせて「記事の裏を取る」という用例をあげているので、これなら使い方が十分にわかります。ところが、これと同じくらいきちんと語義と用例がそろっている国語辞典は意外と少ないことがわかりました。以下、語義または説明と用例について、◎、○、×の評価(主観です)を付けてみました。
2. 日国と三大中型国語辞典
●『日本国語大辞典 第二版』(ジャパンナレッジ収録)
語義×・子見出しの語義△・用例×
まず、意外にも「裏付け」の意味の「裏」が載っていません。しいてあげるとすれば、
うら 【裏・裡】
〔一〕おおわれたり囲まれたりしている、物事の内側や内面の部分。
(2)物事の表面にあらわれないところ。隠れているところ。
(3)外部からは簡単にうかがうことのできない部分。また、内に秘められた物事。
あたりが近そうな気もします。この辺の延長にある使い方と思われているのでしょうか。しかし、この意味の用例は載っていません。慣用句「裏を取る」は、子見出しとして載っています。
うらを取(と)る
証拠を捜して、供述などの真偽を明らかにする。
「供述など」という部分が気になります。「など」というのは辞書の記述によくある表現で「ほかにもあるよ」と言っているのですが、『新和英大』が「情報など」と広めに説明しているのと比べると、少しもどかしく感じます。また、対応する用例も示されていません。きっと、第三版ではよくなるのでしょう。
さて、ここからは三大中型国語辞典つまり『広辞苑』『大辞林』『デジタル大辞泉』を見ていくのですが、やはり「など」表現を使いつつも警察関係の語義や用例が目立ちます。
●『広辞苑 第七版』
語義○・子見出しの説明◎・用例△
うら 【裏】
〔1〕表面と反対の、隠れている方(にあるもの)。↔表。
⑥裏づけ。「供述の―をとる」
裏を取る(子項目)
証拠を探して事柄の真偽を確かめる。裏付けを取る。「アリバイの―」
語義分類の階層が親切です。子見出しも含めて、意味はよくわかります。用例は、親見出しでも子見出しでも、警察関係の文脈だけでもの足りません。
もちろん、用例というのはあくまでも代表例であって、それ以外の使い方がないと言っているわけではないのですが、もっと一般的な使い方があるときは、やはりそれも、というかそれをこそ載せてほしい。
●『大辞林 第四版』
語義○・子見出しの説明○・用例△
うら【裏】
⑨裏付け。証拠。
裏を取る(子項目)
(警察・報道関係などで)供述や情報などの真偽を確認する。裏付けを取る。「自白の―・る」
親項目は最小限ですが、「情報などの真偽」と書いているので、いちおう警察関係の文脈に限らないと理解できそうです。それでも、用例はやっぱり警察関係。
●『デジタル大辞泉』
語義○・子見出しの説明△・用例△
うら【裏】
10 裏づけ。証拠。【D大辞泉】
裏を取る(子項目)
確かな証拠や証人を捜し出すなどして、供述・情報などの真偽を確認する。裏付けを取る。「犯人の自白の―・る」
親見出しは最小限。子項目の慣用句のほうは、「など」書きしてはいるものの、やはり警察っぽい説明。用例も同様です。
3. 一般的な小型国語辞典
ここからは、小型辞典に入るのですが、いずれも語義 and/or が警察関係ばかりで大同小異です。やや特徴的なものだけ紹介し、残りは星取り表を示すだけにします。
●『新明解国語辞典 第八版』
語義×・子見出しの説明○・用例×
うら【裏】
三 隠されていて、表から△見えない(分からない)所や事柄。「―を返せば/事件の―に潜む真実/―には―がある〔=内情が複雑で真相がつかめない様子〕」
裏を取る
〔警察や報道などで〕実際の証拠によって、供述・情報などの真偽を確かめる。
ここに載せたのは、少しでも近そうな語義というだけで、はっきり「裏付け」とする語義はありません。過剰なくらい詳しいのが身上の新明国としては異例です。「裏を取る」は子見出しになっています。慣用句でようやく語義が広がりますが、用例はありません。
●『新選国語辞典 第十版』
語義△・子見出しなし・用例△
うら【裏】
⑥〘俗語〙うらづけ。「―を取る」 【新選 十】
この意味の「裏」を「俗語」と書いているのは、これだけでした。
●『岩波国語辞典 第八版』
語義△・子見出しなし・用例△
うら【裏】
①人の目から隠れた方の面。表。
㋐物の正面・表面・前面と反対側の面。うしろ側。「―口」「足の―」「―通り」
㋑裏㋐となるもの。
「服の―」「―を取る」(証拠を探して真偽を確かめる。→うらづけ)。
裏付け
裏付けること。また、その確かな証拠。「―のない理論」 「―捜査」。また、活動の基盤となる経済力や人材。「資金の―のない計画」▽もと、裏打ち①の意。
岩波国語は、やはり語義の分類が独特です。アの意味の「裏となるもの」という、なかなか含みのある表現を採用しています。
また、これだけは関連語の「裏付け」を載せました。「もと、裏打ち①の意」とあるのがめずらしかったので。
●『三省堂国語辞典 第八版』
語義○・子見出しの語義○・用例△
●『現代新国語辞典 第七版』
語義○・子見出しなし・用例△
●『明鏡国語辞典 第三版』
語義△・子見出しなし・用例△
●『現代国語例解辞典 第五版』
語義△・子見出し○・用例△
4. 例解新国語辞典
そして、いよいよこれです。
●『例解新国語辞典 第十一版』
語義◎・子見出し◎・用例○
うら【裏】
④確かめること。
|例| 裏をとる。裏づける。
裏を取る
相手の言ったことが正しいかどうかを、実際の証拠にあたってたしかめる。もともとは、警察関係の人や記者のあいだで使われる言いかた。
ご覧ください。この隅々まで行き届いた語釈と例文、そして補足を!
親項目の「うら」の意味は、あっさり「確かめること」。他のどの国語辞典にもない幅の広さです。人によっては、「あいまいすぎ」と感じるかもしれませんが、わたし自身は、この幅のとり方に英英辞典を引いたときと共通する気持ちよさを感じます。例文では、しっかり「裏をとる」も「裏づける」を取り上げています。
そして子見出しの慣用句です。警察関係に限定しない説明を加えたうえで、しかもこの言葉の履歴もちゃんと書き添えています。つまり、きちんと今の使い方を優先的に示したうえで、なお歴史的な変化に言及しているわけです。控え目にいって、最強じゃありません?
さて、この最強の国語辞典が、この春から三省堂のオンライン辞書サービス「ことまな+」に収録されました。
書籍を持っていればわかるクイズに答えると使えるようになります(書籍と連動するオンライン辞書サービスでは定番)。率直に言ってインターフェースはいまひとつなのですが、ブラウザー上で使えるだけでもう歓喜です。
5. おまけ、日本語新辞典
入手が困難なので、おまけ扱いとしますが、念のために『日本語新辞典』からも引用しておきます。
●『日本語新辞典』
語義◎・子見出し◎・用例◎
うら【裏】
⑦述べられた事柄の真偽を判断するための証拠となるもの。裏付け → 裏を取る。
裏を取る
(警察や新聞記者の用語から)証拠を捜して、供述や論述の真偽を確かめる。裏付けをとる。|例| アリバイの裏を取る/裏を取らずに記事を書くな。
いかがでしょうか。現行で最強の『例解新国語』をさらに上回る充実度です。語義と用例、子見出しの語義と用例、すべて文句なし。「~記事を書くな」という例文を採用しているのは、『新和英大』のほかだとこれだけです。
この名辞典が手に入らなくなっているというのは、本当に残念ですが、だからこそ、『例解新国語辞典』はほんと、おすすめです。