葉山(はやま)先輩は、『女子会』への参加は無理だろうな……と思いつつも、一応電話をかけてみたら、やっぱり『参加できない』とのコトだった。
二次試験に臨む僅か数日前が『女子会』の開催予定日なのだから、無理なのは仕方が無い。
『参加できないお詫びに、ビデオレターを送ってあげるわ』
葉山先輩がそう言ってきてくれたコトが凄く嬉しかった。
センパイが送ってくれるビデオレターは、女子会の会場に彼女が居ない淋しさを帳消しにしてくれるコトだろう。
『体調、崩さないでくださいね。万全の態勢で、京都の受験会場に向かってくださいね』
優しさを籠めたそんなコトバを届けて、わたしは通話を締めくくった。
きっと、大丈夫。慣れない京都での入試だけど。
わたしも東京から見守ってるし、何より、幼馴染兼恋人の鎌倉(かまくら)キョウさんがセンパイの付き添いで京都に居てくれるんだし。
葉山先輩の次に、葉山先輩の同期たる小泉小陽(こいずみ こはる)さんに電話をかけた。
凄く申し訳無さそうに、
『ホントにゴメン……。羽田(はねだ)さんと戸部(とべ)くんのマンション部屋、見てみたいって思いはある。だけど、いろいろと立て込んでて……』
と言われた。
『『立て込んでる』ってコトは、お仕事がハードだってコトですよね?』
気がかりになりながら、高校教師たる小泉さんに問い掛けたら、
『……だいたいあってる』
という答えが返ってきた。
小泉さんの声音が、お仕事以外の問題もあるんじゃないかという疑念をわたしの頭の中に過(よ)ぎらせた。
小泉さんの声がいつもの小泉さんの声じゃなかった。だから、小泉さんがいつもの小泉さんじゃないように感じられた。
一抹の不安の種をわたしの中に置いて、小泉さんは『それじゃ、また……』と通話終わりの挨拶をしたのだった。
× × ×
「葉山先輩も小泉さんも不参加確定で、八木(やぎ)さんにまで不参加の意向を示されたら、ショックが拭えなくなっちゃうトコロだったんだけど」
そう言いつつご飯茶碗を置いてから、
「ハッピーなコトに、八木さんはオッケーを言ってくれたのよ」
真向かい席のアツマくんもご飯茶碗を置き、
「意外だな。八木八重子(やえこ)が、おれたちのマンション部屋に足を踏み入れるのに前向きになるとは」
「あなたにとっては、厄介な大学時代のサークルメンバーかもしれないけど」
汁椀(しるわん)を両手で持ちながらそう言って、
「女子校時代の先輩、1人は参加してほしかったから――八木さんが前向きになってくれたのが、とっても嬉しかった」
とキモチをこぼして、汁椀を口へと寄せていく。
汁椀を卓上に置いたあとで、わたしは、すき焼き風煮物を食べているアツマくんを見据えながら、
「参加の約束を結んだ通話が終わってから、八木さんから着信がやって来たの。親しい友だちを誘ったら快諾(かいだく)してくれた、ってコトを伝えてきてくれたんだけど……いったい誰が快諾したんだと思う?」
いったん箸を置いたアツマくんの眉間が少し険しくなる。
やや間(ま)が置かれたあと、
「思い浮かぶのは、星崎姫(ほしざき ひめ)だが……。八木八重子とはサークル時代からの仲良しコンビだからといって、あの星崎がスンナリ承諾するか? あいつ、この部屋におれが住んでるのを思い浮かべただけで拒絶反応を示しそうだという認識なんだが」
あのねー。
「あなた、星崎さんと知り合ってから相当長いでしょ? ヒドい誤解をどこまで持ち続けるつもりなのよ」
「おまえがそう言うってコトは……星崎のヤツ、この部屋に乗り込んでくるのか」
どーしてそんなにビミョーな顔つきを見せてくるのっ。
「何が目当てなんだ。あいつ酒飲みだから、上級で高級な酒を漁(あさ)るのが主な目的なんじゃないのか」
また、浅ましい誤解を……!
× × ×
『ごちそうさま』を言ったあとで、コーヒータイムに突入する。
コーヒータイム突入後、わたしは真っ先に、
「星崎さんの参加を八木さんが伝えてきた15分後に、今度は藤村(ふじむら)さんから着信がやって来たのよ」
藤村杏(あん)さんとの間には高校時代からの縁があるアツマくんが、眼を丸くし始める。
わたしは、ブラックかつホットなコーヒーを口に含み、絶妙なバランスの苦味(にがみ)を楽しむ。
それから、
「藤村さん、明るく元気な声で、『星崎さんに女子会誘われて、即刻OKした!!』って」
と、真向かい席の彼氏に報告する。
眼にも口にも戸惑いが生じている彼氏が、
「……疑問点が、複数」
と情け無い声を漏らし、
「まず、この部屋に来るのを藤村が即決した点。次に、星崎が藤村を誘った点」
と言いつつ、情け無くも目線を下降させて、
「藤村こそ、『拒絶反応』アリアリだって思ってたし。それに、星崎と藤村の『繋がり』も不可解だし」
すかさず、
「あなたは2つの点で、ヒドい男子だわ」
というコトバを送り込み、
「『『拒絶反応』アリアリ』だなんて、藤村さんのキモチを全然理解してない。これが1点目。星崎さんと藤村さんが『繋がった』キッカケをわたしが話してあげたはずなのに、忘却してる。これが2点目」
と、彼氏のヒドい点を具体化していく。
そしてそれから、
「藤村さんのココロの移り変わりも想像できない。星崎さんと藤村さんの結び付きも意識から消え去ってる。ペナルティを課さずにはいられないわ」
× × ×
で、『食器の片付け&キッチン磨き』のペナルティを課した。これでも甘い方だ。
大きな本棚の前に立ち、西洋史関連書籍の背表紙が並んでいるのを眺めていた。
水道水の音が止んだ。
アツマくんの気配がわたしの近くにやって来る。
足音の立て方が、彼のいい加減な性格を象徴している。
「そういう歩き方が、『大ざっぱ』って思われちゃう原因になるのよ」
彼の方に眼を少し寄せてあげながら、彼を批判する。
「『大ざっぱ』って、なんだよ」
彼は不満そうだ。
「もっと丁寧な暮らしを心掛けないと。わたしはね、あなたのカノジョとして、他の女の子の前でもキチンとしてほしいって思ってるの」
彼氏と向かい合う姿勢を整えて、彼氏の胸元を目指して一歩踏み出す。
「来たるべき『女子会』の中に、あなたは唯一の男子として混じり込むんだから」
そう告げて、
「今のままじゃダメ。『女子会』の空気に打ち負かされないように、もっとキチンとしなさい」
と叱りつつ……彼氏の背中に両手を当てて、彼氏の胸元を引き寄せていく。
強くてたくましい胸元にオデコを押し付けながら、
「定員10名よ。わたしを除いて、女子10名。わたし以外に10人の女の子とあなたは渡り合うコトになるの。呑まれてほしくない、あなたのカノジョとして」
と告げ、
「城(じょう)ミアちゃん、いるでしょ? ミアちゃんにはまだ連絡してないけど、絶対絶対、OKを出してくれるわ」
と伝える。
それからそれから、
「定員が着実に埋まっていく。あなたの猶予(ゆうよ)もどんどん無くなっていく。今この瞬間から、キチンとする度合いを上げてほしい。――育てたいのよ、女の子に対する誠意を」
「『誠意』だとか、ずいぶんと抽象的で観念的な……」
とかどうでもいいツッコミをしてくる彼氏に構わず、
「わたしを包み込むコトから始めるのよ。そこから『誠意』を育てていくの」
と言いつつ、上半身を抱き締めるチカラを強めて、
「10秒以内に、あなたのカラダで、わたしを包み込むコト! 実行できなきゃ、寝る前にスクワット200回」
と強く言う。
「……ペナルティになってねーぞ、スクワット200回。たかがスクワット200回で、おれに疲労を与えられるはずも無い」
彼氏の口から、トンチンカンなコメント。
わたしの要求通りの行動をしてほしいんですけど……!!