明日美子(あすみこ)さん以外のお邸(やしき)メンバーが皆(みな)外に出ているので、広大な『リビングA』を3人だけで思いのままに使うコトができる。
3人というのは、わたしとアカちゃんとさやか。
アカちゃんは、わたしから見て右斜め前のソファに腰掛けて編み物をしている最中。さやかは、わたしから見て左斜め前のソファに腹這(はらば)いになって読書をしている最中。
「編み物や読書に没頭してるのを邪魔するみたいで、悪いんだけど――」
声を発するわたしは、
「温めていた『提案』があるの。耳を傾けてくれたら、嬉しいわ」
アカちゃんの編み物の手がピタリと止まり、
「どんな提案を温めていたのかしら? たぶん、楽しいコトの提案なのよね?」
さやかの読書の手もピタリと止まり、
「もしかして、『女子会』の提案だったり?」
おー。
さやか、するどい。
みすず書房のハードカバーを手放したさやかの方を向き、
「どうしてわかったのさやか。ずいぶんと冴えてるじゃないの。ビンゴよ。わたしとアツマくんのマンションで『女子会』を開きたいの」
「愛(あい)ちゃんとアツマさんのマンションのお部屋を会場にするのね! 広いお部屋だし、女子会の会場にも最適よね」
これは、アカちゃんからの声。
「愛は、もう幾つ寝ると卒業だし、社会に出るし――今のうちに、女子会で盛り上がっておきたいんだよね」
これは、さやかからの声。
「そーよ。そーゆーコトよ。年度が新しくなったら、女子会でパーッとやる時間とか、なかなか確保できなくなっちゃうもの」
さやかに向かってわたしは答える。
「定員何名とか、もう決めてるの?」
とさやか。
「まだ決めてない。アカちゃんの言う通り、広い部屋だから、わたしとアツマくんを除いても10人は入れると思うけど」
「だったらさ」
身を起こしていきながら、さやかが、
「定員10名にしよーよ。できるだけ多人数でやった方が、絶対に楽しいよ」
わたしは迷うコトも無く、
「わかった。そうする。まず、あすかちゃんは確定ね。あすかちゃんで1人埋まるから、残り9人」
「わたし、ここで参加表明する。参加する以外の選択肢、無いからね」とさやか。
「わたしも参加表明するわ。さやかちゃんと同じ。不参加で愛ちゃんとアツマさんをガッカリさせたくないもの」とアカちゃん。
「一気に3人埋まっちゃったな……あと7人、か」
両手の指を折りながら言うわたし。
「候補、たくさん思いつくでしょ? 片っ端(ぱし)から連絡してみるんだよ」
ソファ座りの姿勢になったさやかが促してくる。
わたしの眼の前の長テーブルにはわたしのスマートフォン。
「大井町侑(おおいまち ゆう)がね」
わたしはわたしのスマートフォンに眼を寄せながら、
「ほんとーに好都合なコトに、今日、お仕事お休みなのよ」
「水曜日なのに?」とさやか。
「水曜日なのに。」とわたし。
「社会人もいろいろなのよ。休日が変則的になるコトだってあるわよ。現に、わたしだって、昨日と今日をお仕事お休みにしてるワケだし」
アカちゃんが言ってきた。なるほどナットク。わたしとさやかは未だ学生身分だから、社会と社会人の事情に疎くて、『水曜日なのに』と思わず言ってしまった。だけど、いろいろなのよね、働き人(びと)のスケジュールも。
「侑ちゃんにテレフォンしてみたらどうかしら? 愛ちゃん」
微笑みながら促してくるアカちゃん。
「忙しい休日になってなかったら良(い)いんだけどね」
含みのあるコトを言いつつ、わたしはわたしのスマホに右手を伸ばす。
× × ×
『その女子会は、いつ頃を予定してるの?』
スマホの向こうから訊いてくる侑に、
「今度の3連休辺(あた)り」
と答えるわたし。
「今日休めるってコトは――もしかすると、3連休にも勤務があったりしちゃう?」
わたしから訊いてみると、
『大丈夫よ。3連休もゆっくりできると思うわ』
それはなにより。
音楽業界の忙しさの度合いはわかんないけど、とにかく、侑も来てくれそうで、ひと安心だ。
……だけど、侑はたぶん、3連休にタップリ時間があるのよね。
女子会は1日で終わる。となると、残る2日に余裕が生まれる。
生まれた余裕を有効活用するのなら、侑は、おそらく……。
『……愛? わたし、会話を途切れさせてほしくは……』
スマホから、戸惑い混じりの声が出てくる。
「ゴメン。たのしいコトを考え始めちゃってた」
たのしく謝るわたし。
続けて、
「ねえねえ。女子会の時間を引いても、『あなたの時間』はタップリとあるワケでしょ?」
と、たのしく言っていく。
『……話の方向、逸らしてない?』
疑問の籠もった声が耳に届く。
侑が眉間(みけん)を険しくし始めているのが眼に浮かぶ。
想像力がくすぐられて、たのしい気分。
だから、
「約束してるんじゃないの? 『行く』って」
と、探りのコトバをスマホ目がけて放ってみる。
『何が言いたいのか……わからないんだけど』
侑のココロがふるふると震え出しているのを感じ取る。
わたしは『容赦』という概念を所有していないので、
「あれれ~? てっきり思い込んでたんだけどな~~? 約束、結んでるって。アパートで缶詰めになって漫画家修行してる、あなたの大切なオトコノコと――」
× × ×
さやかのお説教がようやく終わったトコロだった。
新田俊昭(にった としあき)くんとの◯◯を探りたくて、侑を揺さぶっていこうとした。だけど、わたしの間近で通話を聴いていたさやかは、突っ走るわたしを許してくれず、わたしの揺さぶりに『待った』をかけてきた。
わたしにとって消化不良だった通話の終了後、さやかのお説教を食らわされる羽目になったのだった。
お説教の間ずーっと腕組みしていたさやかが、腕組みをようやくほどき、
「さっきみたいなコト、女子会の時に言っちゃダメだよ。もし、あんたの口から『新田くん』って名前が出てきたら、その瞬間に、お仕置きだから」
「厳しいのね、さやかも」
お説教を食らわされたけどダメージはそれほどでも無いわたしが、そんなコトバを返したら、
「厳しくない!!」
と叫ぶように言い返されちゃった。
「アカ子からも何か言ってやってよ。わたしだけじゃ愛を制御できないよ」
自分とは逆サイドのソファに優雅に腰掛けるアカちゃんに視線を伸ばしながら、さやかが請う。
「愛ちゃんを叱るのは、さやかちゃんにお任せよ」
ニッコリニコニコのアカちゃんが期待を裏切ってくるので、さやかがショックを受けたような表情になる。
さやかの期待を見事に裏切ったアカちゃんは、優雅な姿勢は崩さずに、わたしにカラダを向けてきて、
「定員10名なんだから、それなりに規模の大きな会になるんだし――」
と言ってから、ニッコリニコニコのレベルをさらに上昇させて、
「『飲み物』は、たくさんあった方がいいわよね?」
アカちゃんが言う『飲み物』の正体ならわかり切っているから、わたしは思わず苦笑い。
「わたしを『飲み物担当』にしてちょーだいよ。バラエティに富んだボトルの数々を、運んできてあげるから……!!」
アカちゃんが案の定な状態になっているから、苦笑いするしかない。
わたしの背後にいるさやかの顔は見れないけど、呆れ顔になっている確率は100%に限りなく近い――!!