明日美子(あすみこ)さんのベッドに真っ先に乗る。ベッドの中央で脚を伸ばす。
アカちゃんがわたしの右サイドに腰掛け、さやかがわたしの左サイドに腰掛ける。
「2人とも遠慮気味ね。わたしみたいにベッドに飛び乗ったっていいのに」
アカちゃんもさやかも足裏を床にピッタリ付けているがゆえのわたしの発言だった。
「別に遠慮してるワケじゃないわよ」とアカちゃん。
「わたしも、遠慮とかそーゆーのは無いから」とさやか。
ホントかな。
「――さやかは、明日美子さんのベッドで寝るの、初めてよね? アカちゃんは既に経験済みだけど」
そう言って左サイドに目線を送るわたし。
「初めてだけど、緊張とかは全然無いから」
さやかは、そう応答しつつ、視線をわたしに寄せてくる。
それからさやかは、
「愛(あい)は、経験豊富なんだよね。この空間で明日美子さんの優しさに包まれたコトが、何度も――」
「キワドいセリフは禁止よ」
わたしはすぐにたしなめて、さやかを制御しようとするけど、
「だって、疑いようも無いじゃん、あんたにとって明日美子さんが『もう1人のお母さん』的な存在なのは」
まあ、さやかの言う通りではある。
わたしの母が産みの親なら、明日美子さんは育ての親。
「わたしも、さやかちゃんと同じ認識」
右サイドのアカちゃんがさやかに追従(ついじゅう)して、
「愛ちゃんのみならず、わたしたちにも愛情を振りまいてくれるから、彼女をいつも尊敬してるわ。アツマさんも尊敬してるし、アツマさんのお母さんの明日美子さんも尊敬してるの」
「わたしも尊敬してる。アカ子と同じく」
両サイドの親友女子から同じ意見がやって来た。アカちゃんも明日美子さんをリスペクト、さやかも明日美子さんをリスペクト。
――当たり前か、リスペクトするのも。
× × ×
既に点(とも)っていないLED照明。
暗闇の中で、右サイドのアカちゃんからの体温と左サイドからのさやかの体温を味わっている。
アカちゃんの体温が濃厚に感じられるようになってきた。
アカちゃん、身をグングンと寄せてきてる。
くっつきたいのかな……と思ったら、右肩に感触が芽生えてきた。
わたしの右肩とアカちゃんの左肩が、触れ合うというレベルでは無くなってくる。
右手指にもアカちゃんの感触。わたしの右手を左手で包もうとしているみたい。
「仕事疲れでもあるの? そんなに甘えてくるってコトは」
わたしは訊くんだけど、
「仕事疲れなんか無いわよ」
とアカちゃんはすぐに答えて、
「甘えたいのは、愛ちゃんの言う通りだけれど」
と言い添える。
「13歳になっちゃったみたいじゃないの。ホントは23歳なのに」
苦笑を混じえて言うわたし。
「あなたがそう言うのなら、そうなんでしょうね」
アカちゃんは、どこかで眼にしたような言い回しをしてきたかと思えば、
「まるで13歳と化してても、実年齢は23歳なんだから――アルコール飲料が摂取可能なワケで」
と、彼女の大好物のアルコール飲料に言及してきて、
「摂取可能なワケなんだけれど――こういうシチュエーションで眠るのは確定してたんだから、自制して、このお部屋に来るまでにお酒をあまり飲まなかったのよ」
左サイドから、さやかがすかさず、
「結構飲んでたじゃん、そう言うけど。夕食のダイニング・キッチンでも瓶ビール2本空(カラ)にしてたし、そのあとのリビングでもハイボール缶3本を凄いスピードで飲み干してたし」
と、指摘の弓矢をアカちゃん目がけて放ってくる。
わたしの右手をギュゥッと握り始めるアカちゃんが、
「あのねえさやかちゃん、『序の口』って分かる?」
と、声を尖らせる。
「大相撲のいちばん下のランクのコトでしょ?」
軽やかにコトバを返すさやかに、
「そのコトを言ってるんじゃ無いから。さやかちゃんにしては、賢くないわね……」
とアカちゃんはお返事。
あんまりピリピリしちゃダメよー、アカちゃん。
× × ×
茶番劇の名残りも薄れかけたトコロで、
「さやか? 今の時点なら、まだ『問題』は無いんだけど」
と言いながら、左サイドのさやかにカラダを向けてみる。
「えっ……。なんなの、その発言の意図は」
さやかの声に惑いが露出する。
わたしよりスタイルが良くてクールでサバサバしているコトに定評がある青島(あおしま)さやかなんだけど、ときどき、こんな風に、可愛い戸惑いを隠せなくなる。
「さやかの『寝相(ねぞう)』のコトをわたしは言ってるのよ」
そんなコトバを投じていくわたしがいる。
悪い子だ。わたしって、ホント悪い子。
悪い子なんだけど、動き出した口は止めず、
「『寝相』に難があるがゆえに――ベッドの横に転がり落ちちゃうか、わたしのカラダに濃厚に密着しちゃうか、そのどちらかになっちゃうと思うの」
「ちょちょっとっ!」
急激に慌て出すさやかが、
「わたし、もうコドモじゃないんだよ!? 小学生でも中学生でも高校生でもないんだし、あんたが言うみたいな恥ずかしいコトなんか、やらないからっ」
少しも慌てたりなんかしないわたしは、
「それ、神様に誓える?」
「あのねぇ愛っ、神様に誓うとか誓わないとか、そんな問題じゃないでしょっ」
さやかは、そうツッコんだあと、
「マトモになってきてるんだから、わたしの寝相……」
と言い張る。
言い張りはするんだけど、なぜか、声はショボくれ気味。
そんな親友女子を、
「じゃあ、結べるよね、約束。『ベッドから落下したり親友のカラダを束縛したりしません』って、お姉さんと約束できるよねえ?」
と、容赦無く揺さぶっていく。
少しの間(ま)のあとで、
「……いろいろ言いたいコトが生まれてきてるんですけど。あんたの性格の悪さのせいで」
と不平アリな声を発するさやか。
本当に不平不満を抱(いだ)いているらしく、わたしのお腹の上辺(うえあた)りをポコッ、と叩いてくる。
× × ×
「こういうのって、いいわよね」
仄(ほの)かなる眠気の兆しを覚えながら、両サイドの親友女子に向けて言う。
「ダブルベッドに3人で寝るのが、まず、スペシャルな感じがする。さっきまでのやり取りも、女子校時代に戻ったみたいで、やっぱり、スペシャルな感じがした」
「スペシャルスペシャルって……。愛、あんたって、そんなに語彙(ごい)が貧しかった?」とかいう声が左サイドからしてくるんだけど取り合わないで、
「暖房を稼働させないで正解だったわ。あなたたちが両側から温めてくれるのが、スペシャルに嬉しい」
『スペシャル』というワードをわたしが連発したのがツボにはまったのか、クスクスとお上品に笑う声が右サイドから聞こえてくる。さすがはアカちゃん、社長令嬢。笑い声までお上品だ。
「愛ちゃん? 温まってるのは、あなただけじゃないのよ? わたしのカラダとココロだって、ホッカホカで、ポッカポカよ」
「アカ子まで、ヘンテコなコトバづかいになるなんて……」という声が左サイドからやって来るが、取り合おうとする素振りも無さげなアカちゃんは、
「さやかちゃんも、ホッカホカでポッカポカになってきてるんでしょう? はぐらかしたってムダなんだから☆」
と、もてあそびコトバを飛ばしていく。
アカちゃんのコトバ通りなんである。
濃厚に触れてきてはいないものの――青島さやかという親友の熱は、本人が思うよりも強く、わたしの全部に浸透してきているのである。
浸透してくるさやかの熱は、女の子っぽい熱。