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【愛の◯◯】猫背を見逃す代わりに◯◯

 

「あんたはせっかくハンサムなんだから、猫背で歩かないのよ」

弟の背中に向かってそう言いながら、川沿いの遊歩道を歩く。

弟の利比古(としひこ)の歩みがピタリと止まった。わたしの忠告を真面目に受け止めてくれているらしく、背すじをやや伸ばしてくれる。

立春(りっしゅん)はとっくに過ぎている。暦の上では春なのである。本日は2月としては気温がやや高く、お散歩日和。遊歩道を進む中で、梅の花が膨らみかけている木を見つけるコトもできた。

わたしの弟は、わたしよりも季節の移り変わりに敏感じゃないと思う。

だけど、春の兆しの陽射しが弟の髪をキラキラ輝かせるのを見ると、季節感に対する鈍感さとか、もうどうでも良くなる。

まだ立ち止まっている利比古の髪が絶えず煌(きら)めきを放っている。わたし譲りの地毛(じげ)の色。1ヶ月ぐらい散髪に行っていないらしく長めの髪。

微かに耳に届いてくる川のせせらぎ。弟の髪の煌めきと一緒になって、スゴい相乗効果を生み出している。

良(い)い気分が胸いっぱいに広がっているわたしは、弟の背後に一気に歩み寄る。

背中の中心に柔らかな視線を伸ばしたあとで、背中の中心に柔らかな右手パンチを与えてあげる――。

 

× × ×

 

「今日のこの時間帯に渡すのにちょうどいいように、あんたのためのチョコを作ったのよ」

姉弟2人だけの空間となっているマンション部屋。ダイニングテーブル。向かい合って着席して利比古に告げるわたし。

「そんな時間どうやって作ったの!?」

大げさなリアクションで利比古は言い放つ。背すじが伸びてるのは良(い)いコトなんだけどね。

わたしは、コーヒーカップの把手(とって)を右親指と右人差し指で挟み、約90度回転させてから、

「時間ぐらい、幾らでも作れるわよ」

と余裕に満ちた応答をする。

「でも、昨日とか、仕事休みのアツマさんと一緒に過ごしてたんじゃ……」

両肩にチカラが無くなってしまった利比古が、萎縮したような声で言う。

椅子の背もたれに背中をペッタリくっつけているのは評価できない。

だけど、咎めたいキモチよりも、イジっていきたいキモチの方が勝つから、

「たしかに、彼にベッタリベタベタしてたかもね~~。だけど、彼とベッタリベタベタしながらでも、チョコは手作りできるのよ☆」

と言い放つ。

利比古の両頬が赤く染まり始める。

わたしの発言の強引さにツッコんでくる兆しも無く、照れ顔。ちょっぴり意外。

 

× × ×

 

チョコを賞味したあとでリビングのソファにてテレビ画面を凝視し始めた利比古。日曜のこの時間帯の地上波は、競馬中継ぐらいしか面白いコンテンツが無い気もするけど。利比古がみんなのK◯IBAを視(み)るとも思えないから、どのチャンネルを画面に映しているのかちょっとだけ気になる。

しかしそんなコトよりも遥かに気になるのは、利比古の現在の姿勢だ。遊歩道を歩いていた時とほぼ同様の、猫背。テレビに向かって前傾姿勢になりたいキモチは分かるけど、ソファ座りの猫背は歩いている時の猫背よりもさらに見栄えがしない。

そういう猫背、良くない。そういう猫背、ダメゼッタイ。

わたしは、キッチン横の冷蔵庫の間近に立ち、腕を組み、だらしない弟に視線を差し込む。

ただ、腕組みは短時間でほどいてあげる。

猫背に対して『良くない』『ダメゼッタイ』というキモチがあるのは確かだけど、『見逃してあげたい』というキモチの方が上回る。

1日遅れのバレンタインデー。チョコを贈ってあげるだけでは終われない。さらなるサービス精神をプレゼントしたかった。弟を愛する姉としてのサービス精神をプレゼントしたかった。

弟のコトがダイスキだから、見逃してあげる。

その代わりに……。

 

× × ×

 

密着寸前になって弟のセーターを見ると、生地のフンワリとした感触がわたしの地肌にまで伝わってくる。

わたしはわたしの本日のコーデを少し悔やむ。外が春めく気候だからってシャツもカーディガンも薄手過ぎたかもしれない。フンワリしたワンピースとモコモコのアウターを合わせたりとか、そういうコーデだったら弟のコーデと釣り合っていたかもしれないのに。

悔やむ……がゆえに、強烈なスキンシップを左隣の弟に施したくなる。

行き当たりばったりな思考回路かもしれないけど、わたしらしさ満点のスキンシップで弟の感情を揺さぶりたいキモチを抑え切れない。

眼にも止まらぬ速さで弟の右腕にわたしの左腕を絡める。

ソファの上で、絡み合い、繋がる。

「……なにしてんの」

不満半分・困惑半分。弟の発する声はそんな声。

弟が呈示した疑問に答えるキモチなど少しも無く、

「わたし、春本番に向けて頑張るから。あんたも、春本番に向けて頑張りなさいよ」

と、鼓舞していく。

少しの間(ま)が置かれたあとで、

「頑張るって、なに? それと、春本番って、いったいどんな……」

と遠慮気味な声が左サイドから聞こえてくるけど、答えてあげる気なんて姉のわたしには少しも存在していない。

 

 




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