「あすかちゃん、『うまくできてる』かしらねえ」
そう言って、アツマくんに微笑みかけてみる。
ダイニングテーブル真向かい席のアツマくんが微笑み返してくれる。
具体的な表現を用いなくても、わたしとアツマくんは通じ合える。
通じ合えて嬉しいから、カラダが温まる。暦の上では春なのを再認識する。
昼食後のコーヒーは、まだ1杯目を飲んでいる最中だ。
わたし専用のコーヒーカップには、熱くて黒い液体が3分の1程度残っている。
ニコニコしながら右手指をカップの把手(とって)に伸ばす。カップを優しく引き寄せて、少しも音を立てるコト無く啜っていく。
「17歳の女の子の味ね」
アツマくんが購入した豆をアツマくんが挽いて淹れたコーヒーの風味をそう表現してみる。
「恋愛に少しだけ慣れてきた17歳の女の子みたい」
自由奔放な比喩を用いてみるわたし。
「なーんだ、そりゃ」
若干の呆れを含ませた声をアツマくんが出してくる。
彼の顔が今週いちばんステキな笑顔になっていて、喜びがわたしに到来する。
× × ×
3杯味わってから立ち上がる。
「あすかちゃんの健闘を祈りながら、わたしはあなたに『渾身の本命チョコ』を渡すコトにするわ」
やや眼を細くして、アツマくんを見下ろす。
彼は、座ったまま、
「なんやねん、『本命チョコ』って」
とエセ関西弁を繰り出しつつ苦笑する。
「またあなた、関西弁未満の関西弁を濫用してる」
わたしはわたしの彼氏を口では批判するけど、今日は普段よりも、彼氏のエセ関西弁が気にならない。
「『関西弁未満の関西弁』なる表現は、いかがなモノか」
彼氏による軽いツッコミも気にならない。
「早く立ち上がってよ。わたしが立ち上がったんだから」
促す。
「あなたが立ち上がってくれないと、本命チョコ渡す気になれないし」
そう言って、彼氏の起立を促進する。
がばり、と音がするかの如くアツマくんが立ち上がった。
177センチだったか178センチだったか忘れたけど、アツマくんの背丈は、やっぱり魅力的だ。
× × ×
リビングカーペットに胡座(あぐら)のアツマくんが、わたし特製の渾身本命チョコを1個つまみ、口に寄せていく。
「食べたからには、わたしの言うコト聞いてもらうわよ」
間近のカーペットに優雅に腰を下ろすわたしは、チョコを咀嚼(そしゃく)するアツマくんを見つめながら要求する。
「どーせ、『おれのカラダにひっつきたい』とかなんだろ」
とアツマくん。
「するどいわね」
とわたし。
「するどいんだけど、『ひっつきたい』というより、『包み込んでほしい』」
と補足するわたし。
「……わたしの体型って、あなたにとって、包み込み甲斐のある体型なんじゃないかな」
ワザと視線を下げ、ワザと甘い声を出してみる。
身長160.5センチで、体重40キロ台。
高身長でもなんでもないけど、カラダのバランスには自信がある。
間近の彼氏ほどにはアスリートじゃないけど、わたしだって日常的に鍛えているんだから。
やや視線を上げ、彼氏のたくましき上半身を見つめてみる。
甘い匂いと一緒に包み込まれたい。
彼の傍らにはチョコがあるから、包み込まれる時、甘い匂いが絶対漂ってくる。