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【愛の◯◯】トレーナー・お寿司・CD

 

右手に持ったトレーナーと左手に持ったトレーナーを見比べている。

「色って大事よね」

半分はヒトリゴトのように言う。右手のトレーナーは白色、左手のトレーナーは赤色。どっちの色が彼氏に似合うだろうか?

右手のトレーナーの白色から受けるのは爽やかな風のようなイメージ。左手のトレーナーの赤色から受けるのは燃えたぎる炎のようなイメージ。

だったら……。

「アツマくんにはやっぱり、メラメラと燃えてもらわないとね」

わたしはそう言ってから、彼氏たるアツマくん目がけてぐい、と左手を差し出していく。

「『赤い方のトレーナーを推してる』って解釈でいいんだな?」とアツマくん。

「そのとーり」とわたし。

ここで、わたしの右斜め前に、あすかちゃんがヒョイッ、と顔を出してきて、

「わたしは、こっちだなー」

と言いながら、わたしの右手から白色のトレーナーを奪う。

どういうコトなのあすかちゃん。

わたしの審美眼が間違ってるっていうの。

「あっ」

そんな風に軽く声を発してから、あすかちゃんは、

「おねーさん、『自分の彼氏のトレーナーを見極める眼に間違いがあるはずも無い』って思ってそうな顔になってる」

……食い込んでくるあすかちゃんの指摘に痛みを覚えながらも、耐えて、

「どうして、あすかちゃんは、赤のトレーナーより、白のトレーナーを、推すのかなあ? 明確な、根拠が、あるんでしょ? だから、そんなに、自信をもって、白を――」

「おねーさぁん」

ニヤつきながら遮ってくる可愛くないあすかちゃんは、

「テンパり過ぎですからぁ☆」

 

× × ×

 

「おまえまだ納得して無さそーな顔してんな」

右隣に座るアツマくんが言ってくる。

わたしはボショリと、

「あなたがあすかちゃんの推しの方を選んだからでしょ……」

右隣から、彼氏の左手の感触。

右肩をサワサワと撫で、慰めてくる。

「切り替えろ、愛(あい)。せっかく寿司を食いに来てるんだからな」

某・商業施設2Fにてアツマくんのトレーナー等(とう)を購入したあと、わたしたち3人は1Fの回転寿司店に移動していた。

ほとんど均一価格の有名チェーンとは一線を画した回転寿司店である。

もっとも、諸般の事情により、お寿司がレーンにほとんど回ってないんだけどね。

小皿に醤油を入れながら、

「選んだからには、大切に着なきゃダメよ。汚したりしたらタダじゃおかないんだからね。白いトレーナーなんだから、十二分に注意して……」

「おねーさん、おねーさん。もう1段階ぐらい、兄貴に対する信頼レベルを上げたっていいじゃないですかぁ」

あすかちゃんのツッコミに耳こそ貸すものの、コトバを返してあげたりはせず、お皿が回らなくなってしまったレーンの上のタッチパネルを操作し始める。

わたしはいきなりハマチを3皿オーダーした。

「ウワッ、おねーさんってば、大胆で豪快」

いつもならば愛くるしいほど可愛いはずの妹分をわたしはジンワリと睨み始める。

「愛よ。紋甲イカを2皿頼んでくれ」

右隣の彼氏に従い、言われた通りにタッチパネルを操作。

そのすぐあとで、あすかちゃんがタッチパネルに指を伸ばし、

・えんがわ

とろサーモン

・甘エビ軍艦

を1皿ずつオーダーする。

俊敏な指の動きは評価できるけど、

「あすかちゃんは、いつまでも、甘エビ軍艦なのねえ」

言われた張本人は余裕が感じられる苦笑いで、

「どーゆー表現ですか、それ」

わたしはすかさず、

「20代女性らしくないってコトよ。わたしはね、『あすかちゃんもずいぶん〝成熟〟したわよね……』って実感してるのよ? なのに、あなたは、およそ10年に渡って変わるコト無く、わたしの眼の前で、甘エビ軍艦を開幕のネタとして選択して……」

――言い終わる前にハマチ3皿がすごい速度でわたしたちの席まで到着した。

大好きなハマチに邪魔された。悔しい。

「正しい口の動かし方ってもんがあるだろーが、ばーか」

諫(いさ)めるアツマくんが右腕を軽くパンチしてくる。ムカつく。

 

× × ×

 

コーヒーでも飲みながらひと休みするのにうってつけの時間帯に差し掛かった。

3人のオーダーした飲み物がやって来た直後に、わたしはわたしの購入した書籍をテーブル上に積み上げていく。

「おぎょーぎが悪い。おまえらしくも無い」

回転寿司店の時と同じく右隣の席に居る彼氏からのたしなめを完全に無視して、

「ハードカバーばっかりだから、積み上げても安定感抜群ね」

と言い、少しも音を立てるコト無くホットかつブラックなコーヒーを啜(すす)る。

眼前(がんぜん)の席のあすかちゃんは、カップを口に近付けて少し冷ましたあとで、ホットカフェラテをぐーっと飲んでいく。

それから彼女は、カップを置いた数秒後に、某・レコード店の袋をトートバッグから取り出して、袋の中身たるCDをヒョイヒョイヒョイ……と卓上に重ねていく。

「……おまえまで、おぎょーぎが悪くなっちまうのかよ。お兄さんとっても哀しいぜ」

アツマくんの妹は元気にスマイル。アツマくんのボヤキを一切意に介していない。

賢妹愚兄(けんまいぐけい)を象徴してるような構図ね、まるで……と苦笑いしていたら、

「全部、レコードじゃなくてCDだから、積み上げても安定感はなかなか出てきませんけど」

と言いつつ、あすかちゃんがあすかちゃんの笑顔をわたしに向けてきて、

「おねーさんだったら、ひと目見ただけで、積み上げたアルバムひとつひとつの『価値』、分かってくれますよね?」

もちろんよ。もちろんだわ、あすかちゃん。

あなたが今回購入したアルバムは、全て20世紀にリリースされたモノ。

21世紀生まれのあなただからこそ、見極めの鋭さが購入品の選択に如実に出ている。音楽に対するあなたの真摯な向き合い方が、生まれる前の音源の価値を精確に測るのを助けている。……つまり、あなたは間違った買い物を一切していないってコト。

深くうなずいてあげる。

やっぱり以心伝心で、あすかちゃんは、より一層あすかちゃんらしい笑顔をわたしに示してきてくれる。

右隣の誰かさんにも見習わせたいモノだわ。いろいろと……ね。

 

 

 




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