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【愛の◯◯】小泉さんの様子が悪い意味で◯◯

 

メロンソーダを味わっている葉山(はやま)むつみさんに共通試験明けのくたびれは感じられない。

お邸(やしき)。午後2時台。『リビングC』。

葉山さんを時折チラ見しながら、タブレット端末でWikipediaを閲覧していた。『利比古(としひこ)くん、キミはまたWikipedia読みに耽(ふけ)っているのかね? 読書だとか、そういう情報摂取の手段はアタマに無いのかね』という風な『天の声』が降り注いできそうなのは、自覚しています。

Wikipediaで摂取しているのは、例によってテレビ局の情報。好きなモノは好きなのだから仕方が無い。

高知さんさんテレビさくらんぼテレビは同時に開局したんだな。是非とも憶えておかなきゃ』とか思っていたら、

「利比古くん、今日もイケメンねぇ☆」

という賞賛のコトバが飛んできた。

飛ばしてきたのはもちろん葉山さん。

向かいのソファの彼女を見る。

モノトーンなトップスの彼女は、濃厚な緑色のメロンソーダが泡立つグラスを長テーブルに置き、

「『イケメン』って言われると、どのぐらい、嬉しい?」

と訊いてくる。

答えづらいなー。

「そりゃあ嬉しいですけど、『どのぐらい』と訊かれると、困っちゃいますね」

無難に応答したら、

「もしかしたら、『イケメン』って言われ慣れてるから、嬉しさの度合いも下がり気味なんじゃないのかしら」

んーーっ。

『言われ慣れてる』……ねぇ。

そもそも、

「ぼく、『イケメン』って言われる頻度、それほどでも無いんですよ? 『イケメン』ってカタカナ4文字自体が、古くなってきてますから」

ぼくがそう言うと、葉山さんは苦笑混じりの微笑で、

「それは否めないのかもね。わたし、『2000年生まれなのに、コトバづかいがまるで昭和の女性みたいになっちゃってる』って自覚があるから、ついつい、古臭いコトバを言っちゃうんだけど」

ぼくも苦笑を少し混じえて微笑し、

「――葉山さんは、葉山さんでいいんだと思いますよ」

と言ってあげる。

「ほおぉ」

葉山さんは感嘆したのか、

「利比古くんも進歩してるのね! 今のコトバは、進歩の証拠だわ」

 

× × ×

 

高知さんさんテレビさくらんぼテレビについての理解を深めるよりも3段階ぐらい大事なコトがあったので、タブレット端末を長テーブルに置く。

葉山さんが来訪したら相談したいコトがぼくにはあったのだ。

キッカケは、『昨日の一件』だった。

「あのですね、葉山さん。小泉小陽(こいずみ こはる)さんのコトなんですけど……」

切り出した瞬間、葉山さんのストローを持つ手が止まった。

2杯目のメロンソーダの入ったグラスを長テーブルに置く彼女に、

「昨日、小泉さんとビデオ通話したんですけど、ハッキリ言って、様子が変(ヘン)でした」

と伝える。

「やっぱり、なのね」

某・女子校中等部からの小泉さんの親友である葉山さんがそう言った。心当たりが葉山さんにもあるのだ。

「良かったら、昨日のビデオ通話の時のコト、詳しく聴かせてもらえないかしら」

と葉山さん。

「分かりました」

とぼく。

 

× × ×

 

「通話が終盤に向かうにつれて、小泉さんの声のギザギザ度合いが増していったんです」

とぼくが言ったら、

「そうなっちゃうのよね……」

と、今にも溜め息をつきそうな表情で、葉山さんが応えた。

それから葉山さんは、

「一昨日(おととい)、小泉と街で会ったわ」

と、ぼくの顔面をホメてきた時とは全然違う真面目な声で打ち明けてくる。

「『共通試験バッチリだった』って報告をしてあげたかったの。でも、あの娘(こ)の顔を駅で見た瞬間に、報告する気分じゃ無くなってきて……」

とシリアスに言い、

「メイクの仕方にも違和感があったし。大学入学時のメイク覚えたての頃に逆戻りしたみたいだった。それと、コーディネイト。女子校高等部の頃の私服に逆戻りしたみたいで。小泉はね、高等部時代にわたしたちと外で遊ぶ時とか、余所行(よそゆ)きのファッションに関して何かを勘違いしてるような服装の取り合わせが目立ってたのよ」

女子のメイクのコトは当然分からないし、女子の余所行きコーディネイトの最適解なんていうのも分かるはずが無い。

だけど、一昨日の出会いの時に葉山さんが戸惑いを覚えたのは、声のトーンで伝わってきた。

 

× × ×

 

「予定時刻よりだいぶ早く解散するコトになっちゃって。『帰ろっか』って小泉から言ってきたの。このままカフェに留まり続けても生産性が無いコトはわたしも理解してたから、首を縦に振った。カフェを出てから駅近(えきちか)のお店で買い物するコトになってたんだけど、その予定も自然消滅した。小泉が気乗りしないってわたしは分かってたし、わたしが気乗りしないって小泉もたぶん分かってたから」

ここまで話してから、いったんコトバを切り、モノトーンなロングスカートに両手を置いた。

葉山さんによる小泉さんの描写によって小泉さんの異変がリアリティたっぷりに伝わってきたので、ぼくの背すじは過剰なまでに伸びている。

葉山さんは、いったん両眼を閉じて大きく深呼吸してから、また眼を開き、ぼくを見据えて、

「あの娘、もしかしたら、わたしの京大受験なんかに構ってられない状態なんじゃないかしら?」

と告げる。

その直後、不安げな表情になって、

「抱えてる問題、ありそうだったから……。少し後悔してるの、『どうして、駅の改札前で別れる時に、労(いたわ)りのコトバを言ってあげられなかったんだろう』って」

 

 




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