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【愛の◯◯】圧倒的に翻弄するドコロではない年上の女性(ヒト)

 

茅野(かやの)ルミナさん。おれの出身大学の先輩の女性(ヒト)だ。

久々のルミナさんの来訪だった。『仕事納めも済んだし、戸部(とべ)くんのお邸(うち)で楽しく過ごしたいんだよ』といきなりの電話で言われたから少しビビった。

今、真向かいのソファに彼女は腰掛けている、のだが、何しろ久しぶりの「ご登場」であるのだから、少し説明しておきたい。

ルミナさんはおれの2学年上だった。おれが所属していた音楽鑑賞サークル『MINT JAMS(ミント・ジャムス)』のサークル室の間近に、『虹北学園(こうほくがくえん)』という児童文学サークルのサークル室があった。『虹北学園』の主力メンバーがルミナさんだった。

おれたちの『MINT JAMS』とルミナさんたちの『虹北学園』は単にサークル室の距離が近いだけでは無かった。

山田(やまだ)ギンさんという男子学生が『MINT JAMS』の中核を担っていた。重要なのは、茅野ルミナさんが山田ギンさんと幼馴染の関係だったコトだ。

ルミナさんとギンさんは、2人いっしょに幼稚園からエスカレーターを上(のぼ)り、大学に内部進学していた。縁(えん)は切っても切れず、所属サークルの物理的な距離も近かった。ゆえに(?)、ルミナさんは、ギンさんの居る『MINT JAMS』のサークル室に頻繁に殴り込みをかけてきていた――。

「……ちょっとちょっとっ、戸部くんっ」

あ。

やべっ。

ルミナさんについての説明の世界に浸っていたら、真向かいのルミナさんから呼び掛けられてしまった。

いかにも『たまりかねた』といった感じで、

「あたしの方にもっと視線向けてよっ。せっかくこーやって向かい合ってるんだからさー」

おっしゃる通りだ。

だから、おれは彼女にまっすぐ向いて、

「ルミナさんのお勤め先を『説明』したいところだったんですけど、『そっちの世界』に浸っちまうのは良くないですよね」

ルミナさんが型通り顔をしかめて、

「あたしの勤め先を『どこ』に向かって説明するの。あと、『そっちの世界』ってなによ」

「こっちの話です」

おれは応答する。しなやかに応答できただろうか?

 

× × ×

 

ムーッとした感じのルミナさんの眼つきが持続している。気の強いタイプの先輩女子だったので、想定の範囲内だ。

このまま優位に立ちたかったのだが、

「あたし、今日は存分に楽しみたいの」

と、若干謎めいた発言をルミナさんが。

『存分に楽しみたい』って言いますけど、目的語が欠如してますよね……?

彼女の幼馴染かつ『ベストなパートナー』たる山田ギンさんの近況が聞きたかったのに、段々、聞ける雰囲気じゃ無くなってきてしまってるぞ。

「久々に邸(ここ)に来たんだから、味わい尽くしたいの」

ですから、『何を』……? 目的語は……?

気付けば、ムーッとしていたルミナさんの眼つきが、次第に柔らかくなってきている。

ほぐれていく眼つきが、優しくなった。

『もっと視線向けてよ』という要求通りに視線を向け続けているおれに、ふんわりと微笑するルミナさんが食い込んでくる。

ギョッとしたあとで、ドキッとなる。

戸惑いがおれの心身に染み込む。

なぜなら……ルミナさんの今の微笑が、ルミナさん史上1位を争うほどに、オトナっぽかったから。

肌がシットリと見えるだけではなく、やや短めの黒髪もシットリと見える。

年上の女性のオトナっぽい姿に弱いおれは戸惑いを拭えなくなる。1日中拭えなくなったら、マズい。

「なんだなんだー」

微笑を広げていくルミナさんは、

「そんなにドギマギしちゃって、コドモじゃーないの」

とからかってきて、

「そんなに年上のオンナに弱過ぎだと、この先社会人としてやっていけないぞ~?」

と翻弄してくる……!

 

× × ×

 

クールダウンのためにダイニング・キッチンに逃げた。冷蔵庫からボトルコーヒーを取り出し、2つのグラスに注いでいく。冷たいコーヒーはルミナさんの所望だった。大学時代、『冬はあったかい飲み物しか飲みたくない』と言っていた記憶がある。それなのに、12月30日の本日、彼女は冷たい飲み物を所望。おれの認識以上に気まぐれなのか!?

 

トボトボと『リビングC』に帰ってくる。前のめり姿勢なルミナさんが視界に入ってきた。前のめり姿勢といっても無邪気なところは見せていない。彼女の顔には年上女性の余裕が溢れている。おれは負けるしか無くなる。

「おまちどおさまでした……」

弱くなったオトコの声を出してルミナさんの手前にグラスを置こうとする。

そのとき。

「手つきがあやしいね、『アツマくん』」

とルミナさんが言(げん)を発してきたから、グラスの中身をぶちまけそうになってしまう……!!

中身をこぼすまいと死力を尽くしてグラスを置く、のだが、

「ルミナさん、い、い、いま、おれを、『アツマくん』、って」

「いけないのォ? 名前呼びだと」

免れがたく口ごもってしまう。

可愛がられている。ルミナさんに『アツマくん』と呼ばれたのは生まれて初めてだ。全身がギュイギュイ締め付けられ、特に胃袋の辺りが強く締め付けられる。圧倒的に翻弄されているドコロでは無くなる。

 

× × ×

 

気ままで気まぐれなルミナさんが突然ソファから立ち上がり、

「あたし、ピアノが弾いてみたくなっちゃった☆」

とか言ってくる。

唖然呆然のおれに、

「アツマくんまさか、あたしがピアノ弾けるの忘れてないよね!?」

「……忘れては、いませんが」

「だったら許可してよ。許可してくれるでしょ? この邸(いえ)の立派なグランドピアノ、使わせてよ」

ぐんぐん歩く先輩女子が、おれの眼の前まで来てしまった。まさに仁王立ちといった感じだ。顔こそ、明るい笑顔ではあるのだが……。

「『許可します』のヒトコトすら言えないの!? アツマくんは今まで何をしてきたの!?」

明るい笑顔で罵倒してくるルミナさん。

怖い。

「それはそうと!!」

ルミナさんは、何故か両脚の幅を広げて、衰えない勢いでもって、

「あたしが今日イチバン、アツマくんから訊き出したいコトがあるんだけどさぁ!! ――分かる? 感付いてたり、する!?」

おれは……寒々となりながらも、

「おれの……パートナーの、コトですか」

ルミナさんは光の速さで、

「大当たり。愛(あい)ちゃんだよ愛ちゃん。あの娘(こ)について、根掘り葉掘り……」

 

 




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