お料理は美味しかったけど、別々のワインを飲んでいた。わたしは赤ワインを、利比古(としひこ)くんは白ワインを。『カップルなのに、どうしてワインボトルを共有してないんだ!?』って周りから奇異に見られていたかもしれない。
お食事のあとのショッピングでも微妙にすれ違っていた。利比古くんのアドバイスを借りるには借りたんだけど、あまり反映させずに、半ば自分勝手に商品を購入してしまっていた。
ショッピング後に夜の某・都市公園に入ったんだけど、ギクシャクしながらのお散歩になってしまった。わたしのコートと利比古くんのコートは1回も触れ合っていなかったと思う。
× × ×
12月24日の夜を引きずりながら、12月25日の夕方の街を歩いていた。
憂さ晴らしがしたかった。
利比古くんに不満を直接ぶつけるのは、怖い。
当事者の男の子に不満をぶつける代わりに、どーでもいい男のヒトに攻撃的になって、スッキリとしたかった。
攻撃対象に指定した『どーでもいい男のヒト』が働いているお店は、着実に間近に迫っている。
× × ×
「きみがおれたちの店にやって来るなんて、ホントーに珍しいな」
戸部(とべ)アツマさんは呑気に言いながらお冷(ひ)やを置く。
アツマさんは呑気に笑いながら、
「クリスマスだから、珍事(ちんじ)も起こるんだろーか」
と言ってきて、わたしに暴力的な衝動を芽生えさせる。
わたしは、ヘラヘラしているアツマさんではなく、長方形のテーブルに視線を刺して、
「クリスマスブレンドと、パンケーキ2(ふた)皿」
「2(ふた)皿ぁ~?」
とペラペラな声で言うヘラヘラなアツマさんに対して、
「2(ふた)皿!!」
とわたしは叫ぶ。
周りのお客さんに気をつかう余裕は無かった。
背後の席から小さなクスクス声(ごえ)が聞こえた気がして、こめかみが痛くなった。
× × ×
クリスマスブレンドはちゃんとした味で、しかもハチミツにバターの溶けたパンケーキにすこぶる合う。
悔しかった。
わたしはカフェ『しゅとらうす』のひとり娘、アツマさんはカフェ『リュクサンブール』の従業員……。商売敵(がたき)なのだ。
クリスマスブレンドとパンケーキの悔しさは拭えないが、まだ、『アツマさんの仕事ぶりを観察する』という『責務』がある。
ホールスタッフのアツマさんが接客ミスを犯す回数を正確にカウントしたかった。
ところが、彼は、なかなか飲み物をこぼしてくれないし、なかなかお皿を割ってくれない。
ヘイトとストレスが蓄積される。
× × ×
ヘイトとストレスが蓄積された結果。
わたしは、仕事上がりのアツマさんを、陽の落ちた寒い街に連れ出していた。
『寒月(かんげつ)』の2文字が相応しい月を見上げながら歩いていたら、
「もう、クリスマスも、『店じまい』だな」
と右横のアツマさんが言ってきた。
「クリスマスが『店じまい』って、なんですか。日本語は、用法を正しく守って使ってください」
わたしがたしなめると、
「面白い言い回し、するんだもんな~」
と彼は気色悪く言ってきて、
「今日の川又(かわまた)さん、絶好調じゃね?」
と、より一層気色悪いコトバを吐いてくる……!!
我慢できなくて、アツマさんの脇腹をハンドバッグで殴打する。
唐突な行為かもしれないけど、『リュクサンブール』の席についていた時から、ハンドバッグで殴打する準備はできていた。
「ウオオーッ、川又さん、いつも以上にバイオレンスじゃねーかっ」
やっぱり、アツマさんは、痛がらない。
キモい。
「そうですよバイオレンス度MAXですよっ!! わたし、アツマさんを痛めつけたくて寒空の下に連れ出したんですからっ!!」
「なんかあったんかー? そこまでサドになっちまうってコトは」
……わたしはノータイムで、
「マルキ・ド・サドがどの国の作家なのか知りもしないクセにっ」
と言い放ちながら、アツマさんの左足の甲をチカラいっぱい踏みつける。