紙コップに入れた三ツ矢サイダーを飲み、室内を眺め回す。
打ち上げの賑わいが増してきている。何の打ち上げかと言うと、『KHK紅白歌合戦』の打ち上げである。
『なんですかそのパクリ企画みたいな名前のイベントは……』と呆然とした顔で言われちゃうかもしれないけど、高校生が学校という枠の中で開催したイベントだから許してほしい。
放送部のわたしは『KHK(桐原放送協会)』のメンバー2人を陰ながら支えただけ。この学校には『KHK(桐原放送協会)』という突拍子もないネーミングのクラブ活動があるんです。ウチの学校、自由なので。
今は、放送部ルームの中。『歌合戦』に協力した放送部員がお部屋を埋め尽くし、ワヤワヤとしている。立食パーティ的に、お菓子を食べたり、ジュースを飲んだり。
ほとんどが、女子。というより、放送部ではなく『KHK』所属の『彼』を除けば、みーんな女子である。
『女子に囲まれて恥ずかしいかもしれないけど、ギャルゲーの主人公みたいな状態になってるんだから、嬉しいキモチもきっとあるよね……』
ココロの中で、トヨサキ三太(サンタ)くんに、そっと問う。
わたしは『KHK』の2人に静かに接近していく。
タカムラかなえちゃんとトヨサキ三太くん。2人とも椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合っている。
かなえちゃんが紙コップの中身をくいっ、と飲む。両肩に僅かに触れるぐらいの黒髪ストレートが微かに揺れる。
かなえちゃんがちょうど紙コップを置いたタイミングで、今度はトヨサキくんが紙コップを持つ。短く切った髪。トヨサキくん史上ベスト3に入るぐらいさっぱりとしている。きっと、今日のために散髪に行ったんだろう。
トヨサキくんが紙コップを置くのとほぼ同時に、
「わたしたち、成長したよねえ」
と、微笑をたたえつつ、かなえちゃんが言う。
「成長?」
『成長』というコトバの意味合いを問うトヨサキくんに、
「去年より、スムーズな段取りで進められたじゃん?」
と応答するかなえちゃん。
『段取り』とはもちろん、今日の『歌合戦』の段取りのコトだ。
「段取りがスムーズだったのは、オトナになった証拠。2年生の2学期終わりのわたしたちは、オトナの階段、順調に上(のぼ)れてる」
かなえちゃんは言うのだが、
「おまえにオトナっぽさを感じたコトは皆無なんだが」
とトヨサキくんに言い放たれてしまうから、急激に顔を苦くする。
面白くなってきたーっ。
面白いシチュエーションを間近で味わいたくて、椅子を持ち上げ、2人の間近まで運ぶ。
その椅子に腰を下ろして、脚を組んだら、
「菊乃(きくの)先輩、トヨサキくんを、懲(こ)らしめてくださいっ」
と、かなえちゃんが喚くように言ってきた。
わたくし寺井菊乃(てらい きくの)は、かなえちゃんに満面の笑みを向けるけど、
「『イヤだ』って言ったら――どうする?」
と、敢えてイジワルな態度を取る。
「は、は、薄情ですっ」
困って惑うかなえちゃんは、
「菊乃先輩なら、100%、わたしを助けてくれるって思ったのにっ」
とアタフタして言う。
とってもかわいい。
けど、
「タカムラおまえ、先輩にすぐに助けを求めてんじゃねーか。17歳の女子だとは思えんな」
と、トヨサキくんが、鋭利なツッコミを。
かなえちゃんの顔が赤くなる。可愛さレベルが上がったから、わたしはとっても楽しくなる。
× × ×
約10分間かけて落ち着きを取り戻したかなえちゃんであった。トヨサキくん、かなえちゃんが落ち着きを取り戻すまでジッと待ってあげていて、偉いね。
顔の赤みが取れたかなえちゃんだったけど、
「……わたしも、菊乃先輩みたく、ツインテールにしてみよっかな」
と意表を突くコトバを発してくる。
トヨサキくんは、穏やかに、
「模倣してばっかりじゃ、オトナにはなれないぞ」
とたしなめながら、紙コップにペットボトル緑茶を注いでいく。
「『模倣』とか、カタいコトバ、使わないでよ……」
かなえちゃんは反発するけど、
「ガッカリさせちゃうかもだけど、かなえちゃんには、ツインテールは似合わないと思うな」
とわたしに言われてしまうから、目線を急速に下げていってしまう。
「おれも、菊乃先輩に同意だな」
ピシリ、と言うトヨサキくん。
「どんな根拠があっての同意なのっ」
かなりの早口でかなえちゃんは問うけど、
「ツインテール当事者の菊乃先輩が『似合わない』って言ってるんだから、それが根拠だ」
とあっさり答えられてしまう。
「ナットクできないよ」
黒髪ストレートのままが絶対ベストな後輩女子は、下向きに、ショボショボとコトバをこぼす。
だが、
「おれは、今の長さの黒髪ストレートが、いちばん似合ってると思うぞ?」
とトヨサキくんが結構なインパクトのある発言をしたから、後輩女子の顔は急激に上昇していく。
賑やかなざわめきが収まった、気がした。
たぶん、トヨサキくんのインパクト発言に皆(みんな)が耳を奪われたんだろうけど、ふたたび、それぞれがそれぞれのコミュニケーションに戻っていった。
わたしは、トヨサキ三太くんの顔をジックリと見てあげる。
それから、
「トヨサキくん、そーゆーコトも言えるようになったんだねえ。度胸が付いたんだ」
とホメてあげるんだけど、
「でも、度胸が付き過ぎて、かなえちゃんを唖然呆然とさせちゃった。……かなえちゃん、しばらく『戻ってこれない』かな」
というコトバも、キチンと付け足しておく。
トヨサキくんがわたしから眼を背けた。
かなえちゃんのカラダとココロの発熱も、伝わってきたんだと思う。