睡眠はしっかり取った。あすかちゃんとしっかり向き合わないといけないと思ったから。
利比古(としひこ)くんがお邸(やしき)に不在な時間帯を選んで訪問したのだ。彼の居ない間(あいだ)にあすかちゃんに言いたいコトは言っておきたい。彼の居ない間にあすかちゃんと真剣にコトバを交わしたい。
だけど、あすかちゃんに元気が感じられない。ベッドに腰掛けてわたしよりも高い位置にいる彼女の目線は下向きだ。もしかしたらわたしと違って寝不足なんだろうか。寝不足じゃないにしても何か都合の悪いコトがあったりしたんだろうか。
「あすかちゃん」
親友女子の名前を呼び、
「口数、少ないね。なにかあったの? 心配事とかあるのなら、打ち明けてよ。受け止めるから」
と言う。
親友女子の目線が少し上がる。恐る恐る目線を上げたように見えたから、気になった。
あすかちゃんのコトバを待つ。
なかなかコトバを発してくれない。
その上、目線を微妙に逸らしてくる。
「わたしの顔面見るの、イヤなの」
敢えて『攻め』に転じて言ってみた。揺さぶらなければ時間は過ぎていくばかりなのだ。動揺させてでも状況を進展させたい。
「何の変哲もない顔面だから、しょーがないのかもね。美人でもなければ可愛くもないし。髪型も中学生みたいなショートボブで、一切染めてないんだし」
攻めるがゆえに敢えて自己卑下してみたら、
「なんでそんなコト言うのっ。何の変哲もないのは、わたしだって同じだよっ」
というコトバが返ってきた。
眼を逸らしたまま顔を赤らめてしまう。『失言してしまった……!』という意識が強いみたい。わたしは傷つかないけど。
眼を逸らすのをやめてわたしに向き合ってくれる。顔は依然として上がり切っていないけど。
「……ゴメンナサイ。ヒドいコト、言った」
彼女はしおしおと声を出す。
攻めに攻めるわたしは、
「もっと自信を持っていいと思うよ?」
萎(しお)れかけの彼女は、
「……たとえば、どこに」
「自分のカラダに。」
わたしがそう言い放った瞬間、
「ななななにゆーの、ほのかちゃん!?!?」
と叫ぶと共に、彼女が顔を一気に上昇させた。
『スケベな女子で、ゴメンね』とココロの中で優しく呟きながら、
「こっちは154センチで、そっちは155センチ。……身長ほとんど変わんないのに、スゴいよね」
と言う。
明るく言ったつもりだけど、悔しさみたいなモノが声に混じってたとしたら、ゴメンナサイだな。
あすかちゃんの眼は逸れなくなったけど、話がどんどん横に逸れちゃってきてる。
……ゴメンナサイだな。
× × ×
あすかちゃんがダイニング・キッチンからアイスクリームを運んできてくれた。わたしはチョコチップクッキーアイスを1つ食べ、あすかちゃんはバニラアイスを2つ食べた。
巷(ちまた)に溢れているアイスクリームとは1段階も2段階も違うアイスクリームだったから入手経路を訊いてみたら、あすかちゃんが語り始めた。
あすかちゃんのアイスクリーム語(がた)りで時間を消費してしまったから、肝心な『あのコト』に触れる時間が無くなった。
「わたし、そろそろ帰るね。『約束のお時間』はもう少し先だけど」
カバンを持ちつつ腰を浮かせてそう伝えたら、
「ごっごめん、わたし……アイスクリームのコトで、突っ走り過ぎちゃった」
と、あすかちゃんが慌てだした。
彼女の慌てぶりを眼で味わいつつ、
「いいんだよ」
と言ってから、数秒間の空白を作って、
「マジメな話は、また今度」
わたしのコトバが強く響き過ぎたのか、あすかちゃんの視線がユラユラとなる。
揺らぐ彼女を見下ろして、
「次にこのお部屋で会う時は――『生産性』、増やしたいね」
もちろん、『生産性』とは、『話の生産性』のコト。
× × ×
肝心なコトを先延ばしにしたみたいになっちゃったな。
仕方ないか。
わたし、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった。反省。
帰りの電車。ドア付近に立って窓外(そうがい)の景(けい)を見つめながら、わたし1人だけの反省会を始める。
わたしがお行儀悪かった点を列挙していく。
6つ目のお行儀悪かった点を振り返っていたら、わたしが降りる駅の1つ前の駅に停車した。
ドアが再び閉まる。電車が加速を始める。窓外に夕日の色が兆している。
『不甲斐ないや』
とココロの奥で呟いてから、
『『正々堂々と勝負する』って、約束したのに。このままだと、今年中に勝敗がつかないよ』
という呟きをココロの奥に浸透させる。
周りの乗客に気付かれないようにこっそりと苦笑する。
……自己嫌悪も混じるから、この苦笑はかなりビターだ。