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【愛の◯◯】親友の彼氏の変貌をまだ受け入れられず……

 

南米大陸に渡る前とのハルくんの違いを上手く説明できる自信が無い。

アカちゃんなら上手く説明できるのかもしれない。アカちゃんはハルくんの恋人なんだから。

アカちゃんほどハルくんと距離が近くないわたしには、『以前との差異』を表現する良いコトバが浮かんでこない。

ハルくんの恋人であるアカちゃんは現在席を外している。応接間でハルくんと2人きりでの向かい合い。心細い。

再会した瞬間に派手過ぎるリアクションを彼に対して示してしまった余波がまだある。彼に対して堂々となるコトができない。眼が泳ぐ。胸の鼓動の速さが焦りを表している。

「アカ子は真面目だよね。『愛ちゃんがコーヒーカップを床に転がしちゃったのはわたしの責任だから』って言って、自分で床をキレイにして、自分でカップを洗いに行って」

やっぱりハルくんの声が低くなっている。わたしの知るハルくんは声にこんなに渋みが無かった。まるで声変わりがもう1回到来したかのようだ。

「そっそーよねっ。アカちゃんは、わたしより、何倍もマジメ。あなたも薄々気付いてるんじゃないの? 見た目からは考えられないほどに、わたしの性格に難があるって」

「『見た目からは考えられないほどに』ってフレーズ、くっつける必要あったかな」

笑いながらハルくんがツッコミを入れた。豪快な笑顔だ。こんなに勢いのある笑顔を見るのは初めてだ。南米諸国でどんな体験をしたっていうの。ちょっと様変わりし過ぎなんじゃないの?

驚きの連続のわたしは、

「すっ、スペイン語は、どーなの??」

とコトバを何とか絞り出すが、

「『どーなの??』だけじゃ、質問の意図が分からない」

と彼に鋭く言われてしまう。

わたしは、自分のスカートを過剰なまでに掴みながら、ココロを整えるためにスウゥ……と息を吸って、

「南米(あっち)だとスペイン語を使う必要が出てくるでしょう? ブラジルだったらポルトガル語だけど、あなたはブラジルには滞在しなかったって聞いてるし。わたしが知りたいのは、南米(あっち)での生活を経て、あなたのスペイン語がどこまで上達したのかってコト」

「よくぞ訊いてくれた」

すぐにハルくんは応答した。自信に満ちた表情。やや前のめりになるカラダ。

彼のカラダが前のめりになり始めるのを察知した途端に、冷え気味のわたしのカラダが強張り始める。

「おれ、来年度から復学するんだけど――」

そう言ってから一旦間(ま)を作った彼は、口元の笑みを増して、

「それまでは、スペイン語教室でガッポリ稼ぐんだ」

が……ガッポリ……!?

「今年の上半期の時点で目処(メド)が立ってたんだよ。11月になった瞬間に講師デビューだ。授業のコマがガッツリ入ってるから、南米(むこう)で生き抜いたガッツを発揮して、ガッポリ稼いでやるんだ☆」

後頭部を右手でポリポリ掻きながらも、ハルくんは、不必要なほどにチカラ強く宣言するのだった……!!

 

× × ×

 

「ハルくんを甘く見過ぎてたわ、わたし。あんなにサヴァイヴ能力があっただなんて」

『愛ちゃんの認識を飛び超えるほどサヴァイヴ能力があったんだから、日本(こっち)に帰って来れたんだし、スペイン語講師の仕事もスムーズに手に入れられたのよ』

モニターにウィスキーグラスと共に映っているアカちゃんのコトバにわたしは頷く。水曜夜のWEB通話。ほぼ昨夜の反省会である。

「……アカちゃん」

わたしはモニターの親友をジッと見て、

「昨夜(ゆうべ)のわたし、ダメダメだった。恥ずかしいトコロを何度も見せちゃったわよね、あなたにも、あなたの彼氏にも。半年分ぐらい空回りしちゃってたかもしれない。申し訳無かったわ」

と謝り、溜め息をつく。

『ハルくんが『大きくなってた』のが、あなたを過剰にテンパらせちゃった原因だったのかもしれないわね』

「『大きくなってた』……?」

『気付かなかったかしら? 日本時代より、ひと回りぐらい大きくなって、彼、帰ってきたのよ』

それって。

身長とか体重とかの値(あたい)が……増えたってコトよね。

「ハタチを過ぎてから、そんなに成長するモノなの?」

まだ疑わしいわたしだけど、

『わたしはね、彼にもう一度成長期が来た!! って思ってるの』

とアカちゃんに主張される。

『ナットクできないかしら? できないのなら、再び彼を間近で見てみるしか無いわねえ』

「……もう1回『間近で見る』前に、ナットクしたいかな」

わたしはアヤフヤに応答するしかない。

ここで、雑な足音。

わたしはリビングの丸テーブルにノートPCを置いてアカちゃんと通話をしていたのだが、食器の片付けを終えたアツマくんがキッチンからリビングに移動してきたのである。

アツマくんに見下ろされる丸テーブルの『わたしたち』。

ムスーッとわたしは彼を睨むけど、

「外的な要因もあったんちゃうんか? タフな環境で揉まれたから、あいつのフィジカルも自然と育っていったって思うんやが」

「アツマくん!!!」

彼の口ぶりに過敏に反応せざるを得ないがゆえに大声を発するわたしは、

「東京生まれ東京育ちのクセに関西弁を中途半端に使って勝手なコト言わないでよ!!! どーゆーつもりなの!? 女子同士の会話にズカズカ割り込んできて」

しかもあなた、さっきまでの会話をチャッカリ耳に入れてたってコトなのよね!? 『地獄耳』ってコトバはあなたのためにこそあるコトバなのね!?

その場に腰を下ろすアツマくんに視線という名のナイフをグッサリと突き刺す。わたしは視線という名のナイフを持っている……。

「アカ子さぁん。おれの意見、どうだろうかぁ」

異常なまでに気の抜けた声を出す彼氏に鉄拳制裁を何発施してやるべきだろうかと思った。

なのに、

『とっても的を射てると思いま~~す☆ 流石としか言いようが無いです、アツマさん♫』

と言うアカちゃんの可愛らしい声に、一旦握り締めた右拳が萎え始める……。

 

 

 




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