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【愛の◯◯】『姉貴分』にどうしてもなり切れないけど

 

右隣にあすかちゃんが寝転んでいる。あすかちゃんの部屋のベッドの中。拭い切れない暑さを弱冷房が和らげてくれているし、右隣のわたしの妹分の温かみも絶妙に心地良い。

暗闇の中で、

「おねーさん、『ホエール君』、要りますか?」

と訊いてくるあすかちゃんの声が聞こえてくる。

『ホエール君』。あすかちゃんが大好きなマスコットキャラクターのぬいぐるみのことだ。吠えているクジラをデフォルメしたキャラクターだから、『ホエール君』。あすかちゃんはホエール君ぬいぐるみを少なくとも2つ所持していて、ホエール君『1号』、ホエール君『2号』……と号数を付けることによって区別している。

あすかちゃんのキモチはありがたいんだけど、

「今夜はホエール君無しでも大丈夫よ」

と答える。

わたしの安眠のためにホエール君ぬいぐるみを提供したい……。そんなあすかちゃんのキモチは本当に優しくて温もりに溢れていると思う。

たしかに、ホエール君ぬいぐるみを抱き締めながら寝るのなら、入眠も早まるかもしれないし熟睡感も増すかもしれない。でも、

「ホエール君を頼っちゃうほど弱ってないから、わたし」

「『頼っちゃうほど』?」

「うん。採用試験の結果を知った直後のわたしだったら、ショックが大き過ぎて、あすかちゃんと一緒のベッドでも、ホエール君ぬいぐるみを2つ抱き締めないと眠られなかったかもしれないけど。あれから1ヶ月以上経過して、ダメージもほとんど癒えてるから」

少し間ができた後で、

「そうかもしれないですけど、おねーさんは普段、兄貴とのマンション暮らしなんだし、ホエール君をギュッとできる機会、なかなか無いんだし……」

「それは次回のお楽しみよ、あすかちゃん」

そう告げた後で、

「ワガママ聴いてよ、わたしはあなたの『姉貴分』なのよ?」

 

× × ×

 

目覚めた瞬間に、あすかちゃんのカラダの感触がカラダ全体に馴染んでいるのを感じ取った。

失敗しちゃった。『姉貴分』になり切れなかった。

ホエール君を抱き締める代わりに、あすかちゃんを抱き締めちゃっていた……!!

強く抱き締めていたわけではないのは名残りの感触で確信できた。カラダの全部をわたしのカラダで包み込んでいたわけではないのも察知できた。

でも、『姉貴分』になり切れずに無意識に妹分に頼り切っちゃった悔しさが大きくて、右隣の彼女から身を離した後で、過剰に縮こまってしまう。

むずがゆい悔しさ。

あすかちゃんは起床済みで、

「おねーさん、わたしにずーっとひっついてたでしょ」

と言ってきて、わたしのパジャマの背中部分を冷や汗で湿らせる。

「ホエール君を素直に受け取ってたら、『こんな事態』にはならなかった気がするんだけどなーっ☆」

イジワルなあすかちゃんに、わたしは、

「『事態』とか言わないで……。恥ずかしいから」

と反発するけど、

「弱さを隠し切れないから、ひっついちゃう。おねーさんのそーゆートコロ、ほんっとーにカワイイ☆」

とトドメのヒトコトを食らっちゃうから、降参せざるを得なくなる。

起き上がり、雑然とした栗色ロングヘアを手櫛(てぐし)で雑に梳(と)かしつつ、

「とっても久々ね、あなたに抱きつきながら眠っちゃってたこと」

「そんなに久々でもない気もしますけどね?」

「久々は、久々なのよっ」

「ウワッおねーさん反抗期だ」

ジトッ……とした横目を右隣の妹分に寄せつつ、

「10年近く前。わたしが14歳の時。あすかちゃんがすごく頼もしかった夜があった。あなたは忘却してるかもしれないけど、わたしは忘却してない。ホームシックがやって来たわたしを、あなたは文字通り温めてくれた」

ニコニコニッコリとするばかりの妹分への「ジト目レベル」を上げながら、

「ときどき気になるの。14歳だった時のわたしの画像、あなたがどれだけ保管してるのか」

「中2の11月から、中3の11月まで」

「そうね。誕生日が11月14日だから」

「たくさん保管してないわけないじゃーないですかぁ」

即答のあすかちゃん。

流石ね。慕ってくれてるだけあるわ。大量に保管してるのも当然よね。度を越すくらい大量だと、叱ってあげなきゃならないキモチが膨らんできちゃうけど。

「保管先は?」

とりあえず訊いたら、

「いろいろでーす♫」

と、まさに弾むようなお答え。

わたしより少し遅れて身を起こしたあすかちゃんに、カラダを向ける。

あすかちゃんのおフザケを咎める、つもりは全然無い。

だんだんと、わたしより少し背が低くてわたしよりかなり胸の大きい彼女めがけて身を傾けていき、

「そういうおフザケなあすかちゃんもわたしダイスキよっ」

と、早口で言うと同時に――。

 

 




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