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【愛の◯◯】旅先での『出会い』はミアちゃんにも

 

学生会館5階ラウンジで旅の思い出を話しているのは城(じょう)ミアちゃんだ。わたしが高知旅行をしていたのと同じような時期に東日本各地を見てまわっていたという。

ミアちゃんが自分に課したルールは『特急や新幹線には決して乗らない』というモノだった。『時間のかかる旅』がコンセプトだったし、特急や新幹線は速すぎて旅の風情が出てこないし……というのが主な理由。『わたしは原則ゆっくり進むタイプだから』とミアちゃんが苦笑混じりの微笑で言ったのが印象的だった。乗り換えのために駅のホームで1時間以上列車を待っていたりもしたけど、さほど苦にならなかったそうな。

常磐線からわたしの旅はスタートしたんだけどさ」

そう言ってから、ミアちゃんは嬉しそうに、

常磐線の車内で、『出会い』があったんだよねえ」

気になるから、

「どんな『出会い』!? 最高に好みなタイプのオトコのヒトを車内で目撃したとか!?」

と身を乗り出して訊いてみたら、

「そういう『出会い』じゃないよ」

と右手をヒラヒラ振りながらミアちゃんは言って、

「愛(あい)ちゃん、『クロスシート』ってわかる? 列車の席の種類なんだけど」

「わかんない」

わたしが素直に答えたら、

「対面式というかなんというか、乗客同士が間近で向かい合って座るタイプ。……画像見せた方がわかりやすいよね」

ミアちゃんのスマートフォンに映る画像を見て、わたしは「クロスシート」の何たるかを把握する。

そして、

「こういう席で、あなたは『誰か』と出会ったのね」

と言うと、ミアちゃんが、

「そーゆーこと。年下の女の子がね、真向かいに座っていてね」

「どれくらい年下なの? 女子高校生だったとか?」

苦笑のミアちゃんは、

「JKじゃないよ。少し前までJKだったみたいだけど」

「そういう情報を得られたってことは、相当親密になったってことよね」

「うん。順を追って話してみる」

 

× × ×

 

ミアちゃんの方からその女の子に声をかけた。ミアちゃんは最初、クロスシートで文庫本を読んでいたんだけど、真向かいの女の子が特になにもしていなかったのが気になってきた。車窓を眺めるでもなく、抱えたリュックに視線を落としていたという。

女の子がそういう姿勢を長時間崩さなかったから、気になる度合いがどんどん上昇していき、その結果、

『これ、食べない? 糖分補給した方がいいと思うんだ、水戸に着くまでまだ時間かかるし』

と声をかけ、豊富に用意していたお菓子の中から某・板(いた)チョコレートを差し出してみた。

その娘(こ)は、差し出された時、驚きと戸惑いを見せていたけど、ミアちゃんの右手の板チョコに視線を注ぎ込んだ後で、自らの右手をすうっ……と伸ばしていった。

 

中嶋小麦(なかじま こむぎ)ちゃんという女の子だった。フルネームの表記まで知っているのは、下車した水戸駅のホームでいわき駅行きの列車を待っている間に連絡先を交換したから。

中嶋小麦ちゃんは、いわき駅まで乗り通すのではなかった。途中駅で降りて、「美味しいパン屋さん」に行きたかった。

『すごいね、パン屋さんを求めて、こんなに遠くまで旅するなんて』

乗り継いだ車内で、素直に感心してミアちゃんが言うと、クロスシートの真向かいの小麦ちゃんは、

『甘ーいパンが、世界でいちばん大好きな食べ物なんです』

と照れ笑いしながら打ち明けた。

そして小麦ちゃんは、『鄙(ひな)びている』という形容の当てはまる小さな途中駅で常磐線を降り、ミアちゃんと別れたのであった。

 

× × ×

 

わたしは高知で太刀川(たちかわ)ヒカリと出会い、瞬く間に「親友」となった。

ミアちゃんは常磐線車内で中嶋小麦ちゃんと出会った。まだ列車の中で関わっただけの段階だけど、連絡先を交換したってことは、互いに大切な存在になるステップをこれから踏んでいくということなんだろう。

旅に出れば、『出会い』がある。見知らぬヒトが見知らぬヒトでなくなる出来事は、案外少なくないのかもしれないわね。もちろん、わたしやミアちゃんの経験を安易に一般化はできないけど……。

 

マンションに帰宅したわたしは、リビングの奥深くの小テーブルにノートパソコンを乗っけて、高知旅行の『おさらい』の文章を作成することに取りかかり始めた。旅行記的な文章は帰京した翌日の土曜日から書き始めた。ヒカリとの出会いの他にも書きたいことはいろいろあった。完成したらプリントアウトして「カタチ」として残したい。

 

× × ×

 

夕食後もわたしはキーボードを叩いていた。タッチタイピングの不得手(ふえて)に苦しみながらも、旅行2日目の夕方まで書き進めていく。

帯屋町(おびやまち)商店街の『ひろめ市場(いちば)』の入り口前でヒカリと合流したところまで記述を及ばせようとしていた時だった。

背後に不穏な気配。リビングの奥底と言ってもいいこのスペースまで濫(みだり)りにやって来てはいけない……そんな風に彼氏には口を酸っぱくして言っているのに、彼氏はその戒(いまし)めをいとも簡単に忘却してしまう。

「わたしの後ろに立つなんていい度胸ね」

タイピングを中断してモニターを見つめながら、

「あなたにはこの画面は見せないわよ?」

と撥(は)ねつけていこうとするけど、

「いや、この地点から見下ろすと、画面がチラチラ見えちまうんですけど」

と、アツマくんが地球でいちばんデリカシーの無いことを言うから、

「デリカシー皆無発言はやめて。わたしのこの作業がデリケートな作業であるのを理解して」

「デリケートぉ?」

わたしをかなりムカつかせる声音(こわね)で言ってくるアツマくんに、

「デリケートかつプライベートなんだから。15秒以内にここから離れてくれなかったら、明日の朝ご飯、作ってあげないんだからっ」

しかしアツマくんは社会人とは思えない呑み込みの悪さで、

「オイオイますます気になるじゃねーかよ」

と言ったかと思えば、浅ましくも、自分の気配をわたしの背中により一層近づけてきて、

「おれ、気になりまーす!!」

と、ぜんぜん可愛くなんかない軽薄(ケーハク)な声音でわたしを猛烈に挑発してくるのである……!

小テーブルを両手で叩くと同時にガバッ!! と立ち上がるわたし。

彼氏に振り向き、大きくて強靭(きょうじん)な胸板に視線の刃(やいば)を突き刺すわたし。

無言で、自分の両手のひらを彼氏の胸板にぶつけていくわたし。

「どこまでふざけるワケ!? ノートPCであなたのカラダを打ち砕きたくなってくるじゃないの」

ヘラヘラを持続させる彼氏が、

「おれを破壊するためにノートPCを武器にするってか。おれが破壊される前にノートPCが破壊しちまうよな? おまえがおまえのバイトの報酬で買ったPCだから、『煮るのも焼くのも好きにせよ』だが――」

と、放言(ほうげん)。

うるさい……!!!

 

 

 




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