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【愛の◯◯】妹分を抱き寄せた後の、食卓での『包み込み』宣言

 

「おねーさん、このコーヒー美味しい」

あらー。

「味の違いが分かるのね。あすかちゃんの『コーヒー吟味能力』が向上していて、わたしとっても嬉しいわ」

「『コーヒー吟味能力』って」

あすかちゃんは苦笑するけど、

「あなたのお兄さんよりは、絶対、味の違いが分かるようになってるからぁ」

とわたしは言ってあげる。

「そう?」

と、あすかちゃん用のマグカップの中に視線を落とすあすかちゃん。

彼女は少しコトバを溜めてから、

「わたしも、嬉しい。バカ兄(あに)に勝てて」

と言って、微笑む。

わたしは当然微笑み返す。

温かな時間と空間が産まれてくる。

 

× × ×

 

あすかちゃんが午後を過ごす相方になってくれる喜び。アツマくんは当然お仕事だが、わたしは留年大学生で長期休暇中だから時間がありあまっている。来年以降のコトは分からないけど、こんなに長い休みがあるのはおそらく今が最後だろう。それは、あすかちゃんも同じ。わたしが留年したが故に、同時に卒業するコトになる。わたしと違って来年以降の進路が定まっているあすかちゃんにとっても、長い休暇はこれが最後になる。だったら、2人一緒に時間を埋めない手は無いじゃないの。マンションの部屋に呼んで、長期休暇の午後を楽しく過ごす……それ以外の選択肢は無かった。今日のスケジュールが互いに空白なのは前もって共有していたしね。

わたしより7ヶ月遅く産まれてわたしより5.5センチ身長が低いあすかちゃんだけど、ファッションセンス皆無と言ってもいいわたしよりも今日の装いはとってもファッショナブルだ。ファッションセンス皆無であるが故に、『どの部分がどうファッショナブルなのか』を上手く説明できないのが悔しい。

両肩にかかるぐらいの髪はわたしより大分短い。栗色の髪のわたしと違って黒髪のあすかちゃん。わたしより髪の手入れが断然行き届いていて黒髪がツヤツヤと光っている。そしてその黒髪の先端あたりが軽く縮れている。その縮れた箇所に、わたしは彼女の『オトナ』を感じ取る。

左腕で頬杖をつきながら、ダイニングテーブルの真向かい席のあすかちゃんに半ば見惚(みと)れていた。

マグカップ内のコーヒーをくいっ、と飲み切るあすかちゃんが、マグカップを置いた途端に、

「おねーさん、今日も、わたしより100倍美人」

と言ってくれる。

「またまたー。あすかちゃんだって、オトナでステキじゃないのよー」

とわたし。

「どこらへんが?」

とあすかちゃん。

「上手く言語化できない。言語化できたら、苦労しないんだけどね」

そう言っちゃうわたしに対して、

「『上手く言語化できない』とか、そういうライトノベルのキャラクターみたいな言い回しは、おねーさんには似合わない気もするけど」

と彼女は言うけど、

「『上手く言語化できないトコロ』もひっくるめて、わたしはおねーさんがダイスキ」

と言ってくれて、抱きかかえるようにマグカップを両手で掴むのだった。

 

× × ×

 

リビングのソファに移って、テレビを視ていた。ケーブルテレビのローカルニュース番組。同じ内容を同じチャンネルで繰り返し再放送していて、ケーブルテレビ故のローカルなチープさが味わい深い。

2人して映像にツッコミを入れまくったりして楽しんでいたら、20分枠のローカルニュースはあっという間に終わってしまった。

わたしはリモコンを操作して、ライブカメラの映像をひたすら流している情報チャンネルに切り替える。

その直後、

「おねーさん、あのね……」

と、左サイドから柔らかい声。

「どーしたの?」

とわたしは訊くけど、あすかちゃんは口を閉じてしまう。

あすかちゃんの右の手の甲にわたしは左の手のひらを置いてあげる。

それから優しく、

「胸の奥になにか『つっかえたりしてる』んじゃないの? 吐き出せば、ラクになるかもしれないわよ?」

あすかちゃんは、

「『つっかえてる』と言えば、『つっかえてる』。だけど」

と言って、

「おねーさんがわたしの手に手を重ねてくれたから、そのスキンシップだけで、じゅうぶん」

あらあ。

それはそれは。

「――もっと、スキンシップの度合いを強めてもいいかな?」

あすかちゃんの横顔に眼を寄せながら訊いてみるわたしを、

「今のスキンシップだけでも、満足ではあるんだけどね……。でも、ご自由に」

とあすかちゃんは受け入れてくれる。

すぐさま、わたしはわたしの左肩をあすかちゃんの右肩にニュム、とくっつける。

「あすか。わたしは365日24時間、あすかの味方だからね」

左肩で右肩を温めながら、敢えて、呼び捨て。

「おねーさんがコンビニエンスストアになっちゃったな」

と言っちゃう『あすか』に対して、

「街のほ◯とステーションよりも、もーっとホットなステーションなんだから」

と応え、

「それだけ、あすかのコトが大事だってコトよ」

と言った後、左腕を彼女の左肩まで伸ばしていって、思うがままに、抱き寄せる。

 

× × ×

 

「あすかちゃんを何度も呼び捨てにしちゃったのよ」

夜7時過ぎ。ダイニングテーブルには夕食がずらりと並んでいる。真向かい席にはあすかちゃんではなく、あすかちゃんのお兄さんのアツマくん。

「いいんでねーの? そういう愛情表現も」

そう言ってから、アツマくんは茄子の煮浸(にびた)しを頬張る。

「そーよね。わたし、あすかちゃんのコト、どこまでも好きになる。だから、呼び捨てになってまで、全力で愛情を行使する」

麦茶を飲んだアツマくんが、

「おまえの名前じゃないが、愛(あい)故(ゆえ)の呼び捨てスキンシップ……ってか」

「よく分かったわね、わたしがあの子に全力でスキンシップしたって」

「だって、おまえとあいつの関係だし。2人で寄り添えば、そーゆー流れになっていくだろ」

ふうん。

「ただ、おれとしては――」

意味深(いみしん)めくトーンのコトバを一旦切ったと思えば、お吸い物をずずっ……と啜って、お椀を置いた直後に、

「ときどきケンカになっちまって、険悪な雰囲気になるおまえら2人も、捨てがたいんだがな」

彼のコトバを承(う)けて、わたしはあまり間を置かず、

「10代の頃のわたしたちとは違うのよ? もうお互いコドモじゃないんだから、睨み合ったり怒鳴り合ったりするコトなんて、永遠にあり得ないわ」

「そーゆーもんなのか?」

「あなたって、親しいはずの若い女の子同士が不穏なムードになるのを見るのが、そんなに好きだったの?」

と軽く挑発し、

「そういう趣味(シュミ)は、ちょっと『いただけない』わねぇ」

とまた軽く挑発し、

「食後の食器片付け、あなたに全部押し付けてあげるわぁ☆」

とイジめてみる。

いささか困り顔の彼氏は、

「今日は、仕事場で、大量の食器を洗っていて……」

とモゴモゴ言うけど、

「延長戦よ☆」

と情け容赦無く告げるわたしは、

「食器を全部片付けてくれたら、あなたに120%のサービスをしてあげるから!」

とも、告げてあげる。

「120%ってなんぞ」

いささか呆れ気味な表情の彼氏だけど、構わず、

「120%の、『包み込み』」

と、わたしは表現。

「『包み込み』って、おれのカラダを?」

そんな彼氏の問いに首肯したら、

「昨夜(ゆうべ)も包み込まれた気がするんですけど」

と言われるけど、少しも構うコト無く、

「わたしのHUG(ハグ)は、24時間年中無休だから。しかも、コンビニエンスストアなんかじゃ手に入らない愛情を、あなたに供給してあげられるんだから」

と伝えていって、それから、

「こんな贅沢、他には存在しないわよ。受け止めて、理解してちょーだいな☆」

と、またもや語尾に『☆(星)マーク』を付けてしまいながらも、美しき笑顔を、ジックリと、真向かいの大好きな彼に見せてあげていく……!!

 

 




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