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【愛の◯◯】大親友に対してまだまだ「上手にできる」余地があるから

 

まだ午前中である。大学院のゼミで使うレジュメを整理整頓しながら、スマートフォンで葉山(はやま)むつみ先輩と通話中なんである。

羽田愛(はねだ あい)が昨日(きのう)葉山先輩のお家(うち)を訪問したコトが通話のメインテーマで、葉山先輩の方から繰り出される『報告』にわたしは真剣に耳を凝(こ)らしていた。

『青島(あおしま)さんがちょっぴり『やいちゃう』かもしれないけど……』

と先輩が意味深に言ってきたので、

「『やいちゃう』? もしかして、『嫉妬(しっと)』の『妬(と)』の『妬(や)いちゃう』ですか?」

『当たり当たり大正解。『嫉妬(しっと)』の『妬(と)』、ジェラシージェラシー』

いったい何(なん)なのだろう。

『とある『スキンシップ』をしたのよ。『とある葉山むつみのスキンシップ・レベル5(ファイブ)』ってトコかしらねぇ』

なんですか、それ。

……焦(じ)らすような感じだし、葉山先輩、相当強烈なスキンシップをわたしの親友に施したのかもしれない。

レジュメに触れていた指が停(と)まってしまう。スキンシップの中身を打ち明けるであろう葉山先輩に対して、身構える。

『ハンドマッサージ』

どんなスキンシップをしたのかをアッサリと教えてくる葉山先輩がいた。

彼女のハンドマッサージによって羽田愛の手はホグされてさらに柔らかくなったんだろうけど、スマートフォンを掴んでいる現在のわたしの右手には余分なチカラがどんどん加わってきてしまっている。

 

× × ×

 

葉山先輩が、愛に、ハンドマッサージだなんて。

ズルい。

『ズルいよ』だとかタメ口で先輩に反発するコトなんて、絶対にしようとは思わないし、できないと思うけど。

 

午後から青島家(あおしまけ)を訪れてきた愛。

愛が葉山先輩に施されたというハンドマッサージには言及しないとココロに誓って、

「来週ね、『読書会』と『勉強会』やるんだよ。葉山先輩が中心になって運営してる会だから、彼女との午前中の通話の中で、その打ち合わせもしてたんだ」

と言った後で、読書会・勉強会それぞれの詳細を、わたしの部屋の本棚を背にして体育座りみたいになっている大親友に伝えていく。

詳細を伝えられた愛は、2つの会の存在自体が初耳だったので、

「いつの間に……」

と驚いてから、わたしに対しても葉山先輩に対しても不満顔になる。

たしかに不満顔ではあるけど、とっても可愛らしい不満顔だから、

『わたしなんかには絶対の絶対にマネできない表情だな……』

と思うと共に、楽しい気分がどんどん膨らんでいく。

「どうしてわたしに知らせてくれなかったの」

愛の不満げな声がわたしの胸をくすぐるけど、

「あんたは、卒業論文に専念するほうがいいから。そう簡単に、何万文字も文章が書けるワケも無いでしょ? いろんなトコロに顔を出し過ぎて、肝心の卒論が書けなくなったら大変でしょ。あんたを大学6年生にはさせたくないってコトだよ、よーするに」

「それはわかるけど」

愛は、まだ不満げな声音(こわね)で、

「葉山先輩だって、大学受験が控えてるじゃないのよ。25歳の受験生として共通試験や2次試験に臨むっていうのに、そういう寄り合いの中心人物になってるヒマなんてあるの?」

と言い、

「わたし、センパイにちょっとムカついちゃってる。今度会った時は、『どーして黙ってたんですか!?』って問い詰めちゃってるかも」

と零(こぼ)す。

それから、俯き顔になっていって、体育座りのロングスカートの裾あたりに視線を注ぎ込み始めるけど、

「……でも、わたしを『大学6年生にさせたくない』ってキモチは、素直に受け容れるわ」

と言ってくれて、

「来月に卒業旅行する以外は、スケジュールは『卒論最優先』がベストだって、わたしも思うし」

とも言ってくれる。

自分のベッドに座り続けて自分の大親友の「体育座りぶり」を味わい続けているわたし。

でも、上から目線になっちゃっているし、今の距離感だと、『愛を突き放し気味かも?』と若干思っちゃったりもしちゃうから、

「ごめんね、いろいろと」

と告げた2秒後に、ベッドから立ち上がって、静かにしかし着実に愛の前まで歩み寄って、一気に腰を下ろしてみる。

ロングスカートの裾に凝り固まっていた視線がほぐれ、俯いていた顔が徐々に上昇していく愛が、

「さやか……? 『ごめんね』って言ってくれるのは嬉しいんだけど……『いろいろ』って、いったい、どういうイミ……?」

わたしはすかさず、

「あちゃー、忘れちゃってるのかー」

と、戯(おど)け気味に言ってから、

「今年に入ってから、妙(ミョー)なこと言って、ずいぶんあんたを掻(か)き乱しちゃったでしょ?」

と言いつつ、前のめりになっていって、

「年頭(ねんとう)の、『もう、結婚しちゃいなよ』発言だとかさぁ」

と、愛の記憶を喚(よ)び起こそうとする。

愛の美しい眼が丸く大きくなり、

「それって、わたしと、アツマくんのっ」

着ている服が着ている服に触れる寸前まで接近しているわたしは、

「それそれ。それだよそれ。もしかしたら、アツマさんとの結婚を促したみたいになっちゃったのが、あんたに重圧(プレッシャー)を与えてるのかもしれないなー、って反省する時も、少なからずあって。『いろいろ』の具体例の中の1つは、そのコト」

「……」

と無言にハマりこんでしまう愛を、超至近距離で目の当たりにする。

うろたえさせちゃったか。

「上手にできる」余地があるってコトだな、もっと。

大親友に対してのキモチの示し方が、まだまだ未熟だってコトだ。

ホントに申し訳無いって思う、カラダが密着寸前の大親友に対して。うろたえさせた罪がある。

申し訳無さ100%だし、罪も滅ぼしたかったので、「敢えて」……というかなんとゆーかで、

「戸惑ったりうろたえたりのあんたも、すごく可愛いんだけどさ」

と言うと同時に、わたしの上半身で愛の上半身をギュムッ、と包み込んで、

「もっとリラックスしてほしいし、リフレッシュしてほしい。本日のわたしのシゴトは、あんたをリラックスとリフレッシュの状態にするってコト。わざわざ家(ウチ)まで来てくれたんだもん……わたしの、当然の務めだよ」

絶賛上半身包み込まれ中の愛が、

「『リラックスとリフレッシュの状態』って、なによ。日本語文法として、どうなの? 日本語として、甘くない?? 例えば、『リラックスさせて、リフレッシュさせる』って言い換えた方が……」

わたしは、問答無用で遮って、

「日本語文法なんかよりも、あんたって存在の方が1億倍大切だから」

と告げて、背筋をすりすり、と擦(さす)っていく。

愛が、

「さやか……。荒木(あらき)先生じゃ、マンゾクできなくなったっていうの」

って、ワケの分かんないコトを言うから、

「わたしの恩師で現・恋人の名前は、今のこの場に一切かんけーないっ」

とたしなめて、

「久々に聴いてみる? わたしの、ヴァイオリン演奏。音楽は、間違い無くココロとカラダに効果抜群だしさ」

愛はためらってしまうから、「お返事」をなかなか絞り出せない。カラダの温もりをわたしのカラダに浸透させてくるだけ。

背中をポンポンポン、と3回軽く叩いてあげたわたしは、

「わたしがヴァイオリン弾くと、かえって強張(こわば)っちゃうか。ちょっぴし残念。……そーだそーだ、それなら、音楽鑑賞するのに切り換えだ。青島家の膨大なオーディオ・ライブラリーの中から、あんたがお望みの音源を――」

「ぼっ、膨大!? アルバム5万枚あるとかじゃないと、『膨大』だなんて……」

うるさいねー。

「押さえてるトコは、押さえてると思うよ? ――1人でいいから名前出してよ、あんたが気になってるミュージシャンを」

愛が、またしても「絞り出せなくなる」から、沈黙の秒数を脳内でカウントし始める。

20秒カウントしたタイミングで、

「……おーねっと、こーるまん」

と、弱々しき声が、大親友から。

オーネット・コールマンだね、フリージャズだね。

任せなさい。

実は、ここ1ヶ月ぐらい、わたくし青島さやかも、フリージャズがマイ・ブームなんだよねっ……!!

 

 




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