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【愛の◯◯】感慨深いから、寝息の妹に、エールを。

 

中ジョッキを勢い良く卓上(たくじょう)に置いたら、

「兄貴、ジョッキ置く時に勢いつけ過ぎ」

と妹のあすかにたしなめられた。

おれは、

「置くチカラは、おれなりに加減してるんですけどね」

しかし妹は、

「説得力無さ過ぎるでしょ。これだから兄貴は……」

出たーーっ。

『これだから兄貴は……』。おれと会う機会が10回あるとして、その内9回は発してくるセリフ。

「なっなにニヤけてんのっ。キモ過ぎるよ兄貴。『公共の福祉』ってコトバ知らないんじゃないの!? ここは居酒屋で、沢山のヒトが飲み食いしてるんだよ!?」

金曜の夜の居酒屋は大いに賑わっていた。あすかの言う通り、『サシ飲み』の最中(さなか)のおれたち兄妹の周囲では、沢山のヒトたちが飲んだり食ったり。

ただ、おれがどれだけニヤけたって、周囲のお客さん方(がた)はどーせ見てないだろうし、迷惑なんかかからない。『公共の福祉』とはちょいと大げさ過ぎるんでねーの、妹よ。

「兄貴に大学で日本国憲法を学ばせとくべきだったよっ」

そういうセリフを吐いてから、サシ向かいの妹は生ビール中ジョッキをごくんごくんと飲んでいく。

ジョッキを置くチカラがおれのジョッキを置くチカラよりもだいぶ弱く感じる。『ジョッキ置く時に勢いつけ過ぎ』と言ってきたが、勢いをつけ過ぎないジョッキの置き方を実践してるというワケだね。

ところで、

「なんでおまえ、店内でも帽子被ってんの?」

MLBチームっぽい野球帽を被っているあすかが一気に慌て始めて、

「い、『イケン』じゃないからっ、居酒屋で帽子被るのは」

「『イケン』ってなんぞ?」

「『憲法違反じゃない』ってコトだよっ」

あーっ。

違憲立法審査権の『違憲(いけん)』ね。

幾ら教養に乏しいおれでも、それぐらいは理解できるぞよ。

 

× × ×

 

あすかが野球帽を被り続ける理由は有耶無耶(うやむや)のままになってしまった。

『野球帽から下に伸びてる黒髪が、ここ数ヶ月間で、かなり長くなってる』という指摘は、ココロの中だけに閉じ込めて、決して繰り出さないようにしておく。

……それはさておき、

「なぁ妹よ。利比古(としひこ)は、どんな感じなんだ? 共同生活者として、あいつの様子を聞かせてくれよ」

言った途端に妹はゴホゴホォ!! と、むせ始めた。

「なんやねんそのリアクション。突然そんなリアクションされても困るねん。それこそ、『公共の福祉』的な……」

「うるさいエセ関西弁自重しろっバカ兄貴っ」

「バカ兄貴とはなんだー、バカ兄貴とはー」

「……」

『アホアホ兄貴』とか言われた方が可愛げがあったのだがそれはさておき、あすかが一気に俯いて押し黙ってしまった。

またかよ。

『またかよ。』と心中(しんちゅう)で呟いてしまうのを抑え切れない。このトコロずーっと、おれの方から利比古の名前を出した途端に、妹の様子がおかしくなってしまうのだ。

おれは、両手の指でテーブルの端っこ部分を軽く軽く叩きつつ、こんな風になってしまった妹にどう対処すべきかを考える。

考えた結果、

「鶏つくね串(ぐし)を5本オーダーしたら、少しは『報告』してくれるだろうか」

「……鶏つくね串?」

「おまえ鶏つくね串が好きだっただろーが。5本全部おまえに食わせてやるから、その代わりに『報告』してくれんか?」

狼狽(うろた)える妹に、

「鶏つくね串5本と『利比古レポート』で、等価交換だっ!!」

と言い、元気良く右手を握って親指だけを上に突き上げる。

しかし妹は、

「今日の兄貴おぞましい言動ばっかり。心底キモい」

と、狼狽えに呆れが混ざった表情で……!

 

× × ×

 

退店後に近くの都市公園にやって来た。いわゆる「涼(すず)み」というヤツである。すっかり暗くなったにもかかわらず、ほんの少し汗ばむぐらいの気温だ。それでも、団扇(うちわ)などで扇(あお)げば、暑さを和らげるコトができる。

抜かり無きおれは団扇をシッカリと携帯していた。右横を歩くあすかは団扇を持っていないようだが、「配慮」して、『お兄ちゃんが扇いでやろうか?』などといったセリフは出さないでやっておく。

しばし歩行していたら、

「嬉しかった。全額払ってくれて」

と、意外な感謝が、妹から贈られてきた。

おれは、

「兄として当然のコトをやったまでだ」

すると妹は、

「デート、みたいだよね」

おっ?

それは、つまりは、

「おれを、店のお代(だい)を全額支払ってくれる彼氏に見立てるってか」

妹は、

「そうとも言う」

ここで、本当に都合良く、街灯の光が妹に当たる。

予想通り、妹は兄の方を向いていない。

「……ベンチがある」

呟く妹がいた。

ホントだ。数メートル先にベンチ発見。しかも、2人掛けサイズ。

「わたし、少しだけ、飲み過ぎちゃったかも。ちょっとだけ、座りたいかな」

そう言ってくる妹がいた。

 

腰掛けてから数分後にはもう、妹はウトウトとなり始めていた。

右サイドから妹がカラダを傾けてくる。妹が攻略対象の美少女ゲームなどプレイしたコトがあるワケも無いし、そもそも美少女ゲーム自体を一切プレイしたコトが無い。したがって、少しも動揺しない。

おれの右肩に妹の頭部がくっつく。

「利比古くん……。」

そんな声が聞こえてくるまでに然程(さほど)時間はかからなかった。

 

おれは、純粋に、感慨深いのである。

帰国した利比古があの邸(いえ)で暮らし始めてから、5年が過ぎている。

おれと愛(あい)は2年前から都内某マンションで『ふたり暮らし』になったが、利比古とあすかは邸(いえ)に残り続けている。寝起きしたりする部屋も変わっていない。利比古ルームとあすかルームの距離感に全く変化が無いというコトだ。

……ただ、互いのお部屋の距離感に変化は無くても、互いの距離感に大きく変化が生じているのは、もうほとんど隠し切れておらず。

ここで言う「距離感」というのは、ズバリ、キモチとキモチの距離感であり、異性同士という点においての距離感である。

あすかを知っている人間や利比古を知っている人間の中で、「悟っていない」人間の方が、もはやかなり少数派だろう。

 

夢の世界に突入したあすかの寝息が間近で聞こえ続けている。

兄のおれは、兄として、

「この先どうなるのかは、当事者のおまえたち次第だぞ?」

と、チカラ強きエールを贈る。

 

 

 




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