……中学生時代だった、初めての恋愛の経験をしたのは。
人生初の男女交際が、中学1年の時だったのか、中学2年の時だったのか、中学3年の時だったのか。明確な記憶はあるけど、敢えてここでは伏せておく。
初めての告白体験。私から告白したんじゃなくて、男子の方から告白してきた。いきなり私に向かって一気にカラダを近付けてきて、私のコトが女子として好きなんだという感情を吐き出してきた。
私はどうにか対応したはずだけど、冷静さは半分以下になっていたと思う。男子(あっち)が告白してきた瞬間のなんとも言えない感触が、今でも微かに私の中に残っている。
怖かったのかもしれない。『告白が来る』というのはある程度覚悟していたはずなんだけど、いざ告白が来てみると、直後の15秒間ぐらいは『告白された事実』を受け入れられずに狼狽(うろた)えていた気もする。怖かったから、棒立ちになった脚がふるふると震えていたのかも。
私の身長はあの時何センチだったっけ。160センチを超えていたのは確実だけど。
夜だった。リビングD(仮)だった。
薄れかかっている思春期前半の恋の◯◯を思い出しながら、あすかちゃんが惣菜パンをむしゃむしゃ頬張っているのを眺めていた。
思春期前半の恋の回想もひと段落したから、向かい側のソファで惣菜パンを胃袋に突っ込んでいるあすかちゃんに、やや前のめり姿勢になって視線ビームを送ってみた。
私の視線ビームにあすかちゃんが気付く。あすかちゃんの手も口も止まる。紙パックコーヒー牛乳で惣菜パンをなんとか流し込む。恐る恐るといった感じで私の方にカラダを向けてくる。怖がらなくてもいいのに。
「梢(こずえ)さん……。やっぱり、良くなかったですか」
とあすかちゃん。
「なーにが?」
と私。
「晩ごはん、みんなと一緒に食べなかったのが……」
あーっ。
そりゃあ、気にしてないわけないよねー、この子。
みんなと一緒になるダイニング・キッチンを避けたから、良心を痛めてるんだ。
「あすかちゃんは、悪くないよ」
本心を伝える私。
「過剰に抱え込んでほしくないし」
とも伝えておく。
あすかちゃんは俯き加減の姿勢を継続。
可愛いんだけど、
「抱え込んでほしく、ないからさ」
と言い、伸ばす視線のジットリ感を強めて、
「利比古(としひこ)くんに対して、モヤモヤしたり、こんがらかったりしてるキモチがあるのなら、吐き出してごらんよ」
と、告げてみる。
私なりの、ギャンブル。
すっごく大仰にあすかちゃんが仰(の)け反(ぞ)った。
なぜか胸元で腕を組む。怯えているというより、ドキドキしているみたい。体温が「うなぎのぼり」なのが顔を見れば分かる。私が『利比古くん』という名前を声に出した瞬間に、彼女のココロの中のとある「スイッチ」が入ったみたい。その「スイッチ」が入ってしまったから、ココロのコントロールが急激に失われてきている。
今夜、この子が寝付けなくなってしまったなら、完全に私の責任だな。落ち着かせる方法を考えるべきか。
……にしても、この子、恋をした経験がそれなりにあるはずなのに、この混乱ぶりは、ちょっと意外だ。
利比古くんの存在が大き過ぎて、突っつかれたら、コドモみたいになっちゃうんだろうか?
『ピンチへの対応力、私より上なのかもしれない』って読みもあったんだけど。
あるいは、『利比古くんだけは別』なのか。
つまり、『現在(いま)のあすかちゃんは、利比古くんとの関係にまつわるコトに触れられた時だけは、触れられた途端に、大ピンチ状態に急変してしまう』という、可能性。
もし、そのぐらい、利比古くんが、『トクベツ』なのなら。
私……ぶっちゃけ、『心ゆくまで、楽しんでみたくなっちゃう』。