わたしの学校も夏休みに突入した。教員だから生徒みたいに休めるワケじゃないけど、肩の荷は下りている。
ニッポン全国土曜の朝である。土曜の朝。略せば『ドアサ』。この略称はどのくらい定着しているんだろうか。インターネット上のアニメ番組実況界隈では古くから使われていた略称らしい。ただ、わたしはたしかにテレビオタクなんだけど、アニメ・特撮・ドラマはウィークポイントだから、実況界隈でどれだけ『ドアサ』という「ミーム」が見られるのかはよく把握していない。
アニメ番組が不得意であるが故に、土曜の朝のテレビ東京にチャンネルを固定させるコトも無く、チャンネルを次々と変えていく。「ザッピング」というコトバは今も浸透しているんだろうか? もしかすると、このままテレビの存在感が薄れ続けていったなら、「ザッピング」というコトバが通じなくなるかもしれない。よくないなー。
リモコンから一旦手を離し、ソファの背もたれにだらしなく背中を委ね、ふと、こう思った。
『葉山むつみは、もう起き上がってるかなあ?』
わたしはわたしの女子校時代の同期のコトを気にかける。
葉山むつみのライフスタイルだと、昨日の夜遅くまでネット麻雀に興じていたせいで、いまだにベッドでお眠り状態になられているかもしれない。
だけど、葉山はああ見えて案外真面目だから、来年の『お受験』に向けて生活を規則正しくしようとしていて、ネット麻雀も夜更かしも自制して、もう起き上がって勉強机で参考書を開いているのかもしれない。
『お受験』とは、大学受験のコトだ。わたしたちよりも7年遅れで大学受験に臨む。しかも志望校は、京都府のあの国立大学法人。
7年遅れの大学受験。葉山のコトをよく知らない人だったら、『今まで何をしてきたのか』って思っちゃうかもしれないな。
でも……『どうして7年間も怠け続けて、自分の将来から眼を背けていたのか?』って誰かが言うのを聞いたら、わたし、怒っちゃう、確実に。
生き方を批判するのは自由だけど、生き方を非難したり否定するのは自由じゃないよ。
『どうして怠け続けていたのか?』『どうして眼を背けていたのか?』なんて、中傷と変わんないコトバだと、わたしは思う。
……さて、個人的な意見は程々にしておいて、ソファから立ち上がり、小さめのダイニングテーブルに置いていたスマートフォンを覗き込む。
葉山むつみからの連絡は特に無し。代わり(?)に、同じく女子校同期の八木八重子(やぎ やえこ)から、『海の日に江の島にシラス丼食べに行かない!?』というLINE通知。
『わたしと距離が近い男の子からなんにもお誘いが無かったら、つきあったげるよ』と、少しイジワルな返事をした。
既にカーテンを開け放っている窓際に立ち、今年の春から実践しているストレッチでカラダのコリをほぐす。
ストレッチの後で、夏のお陽(ひ)さまにカラダを温めてもらいながら、
『葉山は、幸せだよね。『距離がとっても近い男の子』とずーっとラブラブなんだもん』
と思いつつ、苦笑する。
葉山は、女子校を卒業した直後に、鎌倉(かまくら)キョウくんという幼馴染の男の子と感動の再会を果たした。爾来(じらい)、濃密なおつきあいを、今日(こんにち)に至るまで継続している。
キョウくんとの◯◯や◯◯をあんまり突っついたら、バチが当たっちゃいそうだな。
もし、葉山の眼の前で、
『キョウくんにパジャマ姿を目撃されても、冷静さを保つコト、できるようになったかな?』
なーんて言っちゃったら、葉山は真っ赤になって喚き出すかもしれない。
例えば、こんな感じで。
「小泉はわたしをどこまでコドモ扱いするつもりなのかしら!? 冷静になれないワケも無いでしょう!? 落ち着いて彼に向き合うコトぐらい、できるわよっ!! 今年の秋でわたし25歳になるのよ!? 四捨五入したら、30よ!? 三十路(みそじ)よ!? 繰り返すみたいだけど、あなたが思うほど、わたしは幼くなんかないからっ!!」
……ずいぶんと長ゼリフだが、『わたしの口から』『実際に声に出して』『葉山のモノマネをしてみた』。
土曜の午前中からなにをやってんだか……って感じなんだけど、ね。