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【愛の◯◯】おれはペシャンコのサンドイッチの具材だ

 

買ってきた食料品その他(た)をあるべき場所に次々と入れていく。俊敏さや筋力の強さ「だけ」には自信があるので少しも苦にならない。

収納は粗方(あらかた)終了できた。俊敏さや筋力の強さを褒(ホ)めてもらいたくて、『どんなもんや……!』と、ダイニングテーブルの椅子に横並びに座っている愛とあすかへと振り向いてみる。

が、しかし。

愛とあすか、両者ともに、冴えない空気がカラダから溢れ出しそうになるかの如(ごと)くに、下向き目線でヘターッ、とヘタり込んでいる。

「なんやねんおまえら。テンションが全然上がらへんやないか」

そう言い放たれて、愛が、

「気持ち悪い関西弁モドキで言うのはやめて、アツマくん」

と、下向き目線を持続させたままに、怒る。

怒るとはいっても、弱っちい声でしか怒れないのであったが、

「わたしのサークル、関西出身でホンモノの関西弁が使える子が少なくとも3人も居るのよ? 今のあなたのニセモノ関西弁は、浅まし過ぎるニセモノ関西弁だわ」

おれは、落ち着きを保って、

「そうやって反抗できるエネルギーぐらいは残ってるみたいだな」

やや目線を上げる愛は、

「『反抗』って……あのねえっ」

おれから見て愛の左隣に座っているあすかも、愛に倣(なら)うが如くに目線をやや上げて、

「なんでバカ兄(あに)は自分の恋人を大事にできないの!? ほんとのほんとで意味分かんないよ」

喚(わめ)く妹を余所(よそ)に、おれは静かに椅子を引き、静かに椅子に腰掛け、ふたりに向けて平等に眼差(まなざ)しを送り届ける。前もって座る椅子を中央に寄せていたので、ふたりの御様子(ごようす)を均等に観(み)るコトができる。

「あすか」

落ち着きを少しも欠いていないおれは、妹の名を呼び、

「自分の恋人を大事にできないバカがいるワケ無いだろ、バーカ」

テンプレートの如くに、妹は目線を一気に上げ、両手に握り拳(こぶ)しを作りながら顔面を紅潮させるが、

「そして、自分の妹を大事にできないバカもいるワケが無い」

と告げるコトで、おれは妹を絶句させるコトに成功する。

ここで、兄妹のやり取りに眼を向けていた愛が、

「たぶん、気付いてるんだね……。アツマくんは」

と、さっきとは打って変わった声のトーンになって言い、

「わたしもあすかちゃんも、抱えてる問題があって、だから、外で買い物してた時も、マンションに帰ってきた今も、元気で明るいトコロを、アツマくんに見せるコトができてない」

と言ったかと思うと、おれの顔から眼を逸らす。

あすかも、おれの顔を見てくれなくなり、両膝方向に視線を下げ、無言状態に陥(おちい)る。

 

× × ×

 

教員採用試験の出来(デキ)が思わしくなかったのを引きずっている愛の「元気パラメーター」は、好調時の25%に過ぎないんではないかと思われる。当然のコトながら、「ふたり暮らし」の片割れとして、口から吐かれる弱音などに耳を傾けてやっているし、食事当番のほとんどを担当してやっているし、横浜DeNAベイスターズの試合中継を観るのにも最初から最後までつきあってやっている。

しかしダメージの大きさ故(ゆえ)に、「元気パラメーター」が好調時の約25%からなかなか動かないのである。パートナーとして、「長期戦」になる覚悟ならばできている。一次試験の結果を突きつけられるのは避けられない。突きつけられる瞬間のカウントダウンは既に始まっている。愛の元気のパラメーターを一気に引き上げるよりも、一次試験結果発表による更(さら)なるダメージをできるだけ軽減させる方が現実的だ。試験に落ちて泣くのならば、おれが着る服を幾らでも濡らしてやる。大切なのはもちろん、悲しみの先の立ち直りだ。如何におれのパートナーを、迅速に、適切に、立ち直らせてやるか。

 

現在、普段は離れて暮らしているのだから、あすかの「変調」の詳細を読み取るのは難しい。「変調」したからには、その「理由」が必ずある。だが、『最近のおまえ、なんでそんなに変なカンジになってるんだ?』みたいに訊いてしまったら、その瞬間に膝裏を蹴り飛ばされてしまうコトだろう。おれの妹は、激しい。激しくて、荒いから、言うコトを容易には聴いてくれないし、ズレた訊き方をしてしまうと肉体言語をしばしば食らわされてしまう。

ただ、「変調」の「裏側」に横たわっているモノやコトは、実の兄貴であるが故に、おぼろげながらイメージ可能になってきている。

おそらくは――人間関係的な◯◯、だと思われる。

その◯◯に関係する当事者の名前の「絞り込み」も、おれの中で進行している。実の兄貴であるが故に妹の人間関係的な事情を推し量り易(やす)いが故に、かなり易々(やすやす)と特定が可能になってしまうのだ。

しかし、おれは、おれの妹の粗暴・凶暴な側面だけではなく、傷つきやすく悩みやすい側面も、十二分に理解してやれている。だから、妹のデリケートさを120%尊重して、兄貴として、あえて「踏み込まず」、あえて「踏みとどまる」。

具体的な◯◯を掘り下げたりはしない。最大限に優しく接してやるのだけが務めだ。

兄貴ってのは、そういうモンだろ。

 

× × ×

 

リビングに腰を据える場所を移した。横長のソファの中央に腰を下ろし、テレビの電源を入れたりなどはせず、手前のテーブル上の置き時計を時折確認しながら、軽く腕を組み、ダメダメなふたりのために、夕飯を作ってやる前段階(ぜんだんかい)の「策」を、ひたすらにネリネリと練り続けた。

……スキンシップ。

こんなのは「策」でもなんでもないのかもしれない。『困ったら、スキンシップかよ??』みたいな声がどこかから聞こえてこないでもない。とりわけ、このブログを長く閲覧されている方ほど、『困ったらスキンシップ発動』で半ば強引に事(こと)を収めたケースを何度もご覧になっているコトだろう。

大切な存在で愛情を存分に注いでやるべき存在であるからといって、すぐスキンシップを行使するのは安直(あんちょく)の謗(そし)りを免(まぬか)れないだろうし、過剰なスキンシップになってしまうなら、客観的に見て気持ち悪いし、過剰なコトをしてしまったおれ自身も後悔を拭えなくなる可能性は高いだろう。

だが、安直の謗りを免れなかろうとも、選択するのはやはり、スキンシップをおいて他に無い。

ただし、「バランス」を重視する。目に余るスキンシップは確実に逆効果だ。上手い具合に「バランス調整」をして、デリケートなおれの恋人とデリケートなおれの妹を、明るい方面へと導いてやる。

 

午後5時25分。あまり悠長にしている時間は無い。

横長ソファの中央のおれは、ダイニングテーブルにおいて未(いま)だ微妙過ぎる状態であるデリケートな女子ふたりの方面にカラダを傾けて、

「ふたりともよく聴け」

と声を発し、それから、

「おれの要求を呑(の)め」

と要求し、それからそれから、

「こっちのソファに来て、おれの両サイドに座って、おれを『サンドイッチ』しろ」

と告げる。

おれに視線を寄せていきながらも戸惑いまくり始める愛が、

「さんど、いっち……??」

と、青ざめた声を出す。

「そーだよ」

おれは愛に頷(うなず)き、

「愛、おまえはおれの左サイドに来るんだ」

愛は一瞬、息を呑むようなリアクションを見せてくるも、眼をよろよろと泳がせた後で、弱々しくも美しい顔を再びおれの顔面へと向けてくれて、

「左サイドに指定した……意味って」

おれは即刻、

「なーんとなくだ」

と返答。

せっかくの美しき顔をしかめたかと思えば、直後に俯き状態になってしまう愛。

しかし、『すうっ……』という息を吸う音が耳に届いてきた2秒後、愛はとうとう、椅子から腰を浮かせてくれた。

俯き気味なのが持続しているのは惜しいが、

「あなたって、痛々しいぐらいチャランポランだけど」

と言いつつも、

「わたしたちのコトが気がかりなんだってキモチは、伝わってきたわ。根拠は、示すコト、できないけど」

と、おれの要求と想いに理解を示してくれる。

「根拠なんて、思い浮かべられる方が、不自然なんだからさ」

穏やかに柔らかに優しくおれは言い、

「歩いてきてくれよ、こっちまで」

と、穏やかに柔らかに優しく、お願いする。

 

× × ×

 

「おいコラどーした、妹よ」

ふにゅーん、とした愛の右肩の感触を左肩で受け止めながら、おれは、どちらかというと玄関ドアの方に顔を傾けてしまっているあすかを、軽く叱ってみる。

あすかは、左手を左頬(ほほ)に密着させ、頬杖。顔の向きが玄関ドア寄りで無くなったのは評価ポイントである。

体力ほどではないが視力も割りと自慢できるおれは、あすかが眼を閉じたのに気付く。左腕で頬杖をつきながら、おれたちに歩み寄っていくべきか考えているというワケだ。

ただ、

「悩みこむ必要もねーだろー。早いとこ、『サンドイッチ』を完成させてくれよー」

おれの再びの要求にあすかは若干ピリピリとなって、

「ウザいんだけどっ」

だがしかし、1ミリメートルも動じぬ兄貴のおれは、

「ウザいのならば、幾らでも圧力をかけたっていい、潰れるほどの圧力でも全然許すから。――だから、こっちで、おれを全力で挟(はさ)み潰して、『サンドイッチ』を完成させてくれ」

妹は、

「完成させてくれ完成させてくれって、それしか言えないの、お兄ちゃんは!?」

と叫ぶけど、

「いいよ、もう!!!」

と、ダイニングテーブルを両手で殴打しながら、ついに立ち上がって、

「日頃の鬱憤(うっぷん)全部、お兄ちゃんを押し潰すコトで、解消するから!!!」

とまた叫んで、

「それでお兄ちゃんは大満足なんでしょ!??! 『ペシャンコのサンドイッチの具材』になっちゃうコトで!!!!!」

と、より一層絶叫するのであった。

 

 

 




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