夜。邸(いえ)に『プチ帰省』して、リビングに入ったら、七夕竹(たなばただけ)が飾られていた。
『7月7日だもんな……』と思いながら七夕竹を眺めていたら、程無くして、アカ子さんが姿を現した。
リビングのカーペットに着座した30秒後、ロングサイズの缶ビールをアカ子さんは飲み始めた。飲み始めて10秒と経たない内に、空(から)になったビール缶を彼女は小(しょう)テーブルに元気良く置いた。非常に彼女らしい飲みっぷりである。
『流石はアカ子さんだな……』と思いながら彼女を眺めていたら、程無くして、梢(こずえ)さんが姿を現した。
ソファに着座した3秒後、
「アカ子ちゃん、おつかれ~~」
と梢さんはアカ子さんに声をかけた。
「梢さんこそ、お疲れ様です♫」
明るく言いながら、アカ子さんは2本目のロング缶ビールを右手で持ち上げ、一気飲み同然の勢いでグイグイ中身を飲み干していく。
「アカ子ちゃんは、たまんないなあ」
そうコメントする梢さん。
光の速さで2本目ロング缶ビールを空にしたアカ子さんが、梢さんに流し目を送り届ける。
梢さんから見て左斜め前のソファに座っているおれは、目前でカーペット座(ずわ)りのアカ子さんの流し目に、僅かな不穏を感じ取る。
アカ子さんと梢さんが一緒になる機会は、まだそれほど多くない。
互いの理解がじゅうぶんで無いから僅かな不穏が生まれてしまうのかもしれないが……社会人同士、社会人に相応しい「飲みュニケーション」をしてくださいね。
× × ×
ロング缶ビールを6本消化したアカ子さんがおれを見上げてきた。
『おれの飲むピッチが遅いから、煽(あお)ってくるんではないか……?』と、不安を抱きながら缶チューハイを握るおれに、
「愛ちゃんは、やっぱり『おやすみモード』なんですね。採用試験を受けた直後だから、マンションで『おやすみモード』になるのも、しょーがありませんよね」
と、アカ子さんがコトバを投げかけてくる。
煽られなかったから安堵しつつ、
「だな。しょーがないよな。『おつかれモード』で『おやすみモード』だ。マンションの部屋でゆったりゆっくりさせてやりたかったから、連れて来なかった」
と応えるおれに、
「優しい。アツマさんはやっぱり、愛ちゃんの最高の恋人ですね♫」
と、ベタボメのコトバを返してくる、愛の大親友のお嬢さま。
この光景を見ていた梢さんが、
「アツマくんとアカ子ちゃん、呼吸合ってるね」
と指摘する。
7本目のロング缶を手から離さない黒髪ストレートのお嬢さまは、何故(なぜ)かどーーん、と胸を張って、
「わたしはアツマさんの妹分なんですから☆」
と発言。
「アツマくんには、実の妹のあすかちゃんがいるのに?」
とやり返す梢さんを見て、おれは少しヒヤリとする。
「あすかちゃんには及ばないけど、妹分なんですっ☆」
と、アカ子さんは笑顔を崩さない。
「強いねー、アカ子ちゃん。強いってのは、いろんな意味で。流石は大企業の社長令嬢といったトコか」
梢さんがこう言うからおれはハラハラするが、アカ子さんは気持ち良さげに7本目を飲み干していくだけであった。
こん、と7本目を小テーブルに置いてから、飾られている七夕竹にアカ子さんは視線を移す。
「七夕の夜だから、ロマンティック気分で、ビールもいつもより『ロマンティックに美味しい』です」
ビールのお味について謎めいた形容をしたかと思えば、黒髪ストレートの社長令嬢は七夕竹に視線を向け続けながら、
「七夕のイベントといえば、『七夕まつり』。『七夕まつり』の本場といえば、もちろん宮城県仙台市」
『いったいどんな方面に話を持っていきたいのやら……』と疑念のおれは、缶チューハイを飲むピッチが上がらない。
ここで視界に入ってきたのは、前のめり姿勢になる梢さん。
前のめり姿勢の梢さんは、ソファ座りながらも、アカ子さんに迫っていくような勢いをおれに感じさせる。
不穏の度合いがそこはかとなく増してきたので、缶チューハイを握るチカラが強くなってしまうおれ。
「私は、仙台よりも、福岡かなー★」
明るい声で、梢さんは、仙台から福岡へと、強引に話をねじ曲げていこうとする……!!
梢さん梢さんっ、幾らアナタ『西日本大好きっ子』だからって、無理やり福岡の話題に持っていこうとするのは、無理があり過ぎるような気がするんですけど!?
おれに叱られたいの!? 『西日本大好きっ子モード』が発動し過ぎてあまりにも目に余るようだと、おれ、叱っちゃいますよ!?
「福岡? それは、福岡県のコトですか? それとも、福岡県福岡市のコトですか?」
微笑み爆弾炸裂のアカ子さんが、まっすぐ梢さんを見据えながら問いかける……!!
「ヤダな~~。福岡県福岡市に決まってんじゃーん。仙台市と福岡市、政令指定都市同士をぶつけ合わないと、釣り合いがとれないでしょぉ~~~?」
『泥沼』の漢字2文字がおれに覆いかぶさる中で、
「アカ子ちゃんって東京生まれ東京育ちだよねぇ? なのに、仙台市に『こだわり』がありそうなのは、やっぱし、アカ子ちゃんのお父さんの会社の工場が仙台近郊にあるから??」
と梢さんがソリッドなコトバを飛ばしていき、
「よくご存知で~~。梢さん、知識が西日本オンリーじゃ無かったんですね! 初めて知りました! てっきり、ト◯タの本拠地よりも西にしか関心が無いかと思ってた!!」
とアカ子さんがやり返す……!!