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【愛の◯◯】アイスカフェオレのお釣り小銭を

 

「期末テスト」という概念が高校生には存在する。学期末の定期試験が無い高校があったら是非とも教えてほしいぐらい一般的な概念である。

「期末テストムード」がおれの学校で高まっていた。今週に入ってからずっと授業時間が少し短縮されている。期末テストに向けての措置(そち)である。『授業を短縮してあげたからその分自学自習に勤(いそ)しみなさい』というコトである。もっとも、いつもより早めの放課後になった後もクラスの半分以上は勉強もせずダラダラとしている。まだ2年生なのだから3年生と違ってテスト前の緊張感が薄いのだと思う。

本日のおれも、クラスの半分以上の人間と同様に、早めの放課後突入後に直ちに自学自習を開始するコトは無かった。

おれが来ているのは校舎の外の自販機コーナーだ。

自学自習は家に帰ってからでもいい。クラブ活動が停止されているワケでは無いので、タカムラかなえが『期末テスト開始の前日まではガンガン活動をやっていくよ!!』と言っている。つまりは放課後にやらなきゃいけないコトはクラブ活動であるというワケだ。

タカムラかなえの勢いについていくにはエネルギーが必要である。だから自販機の飲み物でエネルギーを蓄えるのである。エネルギーを蓄えるための飲み物は糖分多めのモノが相応しい。具体的には大きめの缶に入ったアイスカフェオレなどである。『まだ血糖値を気にするような年代であるはずも無いし、1週間に1回はここのアイスカフェオレが飲みたい』というお気持ちなのであった。だから、自販機コーナーの右から2つ目の自販機の前に立ってアイスカフェオレのボタンに右人差し指を伸ばそうとしているトコロ、だったのだが、

『オオーッ、豊崎三太(トヨサキ サンタ)じゃーないか!!』

という叫び声めいた声がおれの背中に突き刺さったので、右手を思わずポケットの中に入れてしまう。

『面倒くさいコトになってきたぞ』という自覚が急速に強まりながらも、叫び声めいた声を上げた張本人に振り向いてやるコトにする。

スッキリとした美少年が間近に立っていた。変(ヘン)な叫び声を上げるようなヤツだとは思えない美少年ぶりだ。

「神出鬼没か、高垣交多(たかがき こうた)」

そうコメントするおれに、

「フルネームで呼んだのは、ぼくがフルネームで呼んだのに応えてくれたんだな!?」

という高垣の声が迫ってくる。

「ま、そんなトコだ」

短く応答するおれに、

「嬉しいなあ。トヨサキ、今日のきみは、いつもよりも律儀なんだな。フルネームでの呼び掛けにはフルネームで……。そういう配慮はささやかな配慮に見えるかもしれないが、そういう配慮ができるチカラが、後々(のちのち)になってきっと、きみ自身の助けになってくれるのだ。誇っていい。自信を持っていい。きみ自身は気付かないかもしれないが、『優しさ』こそがきみという存在の『根(ね)っこ』なのだ。すなわち! きみのアイデンティティの75%以上を構成しているのが、『優しさ』という成分なのだ! きみがきみのアイデンティティを本当の意味で認識するのはまだ先のコトなのかもしれない。しかし、トヨサキよ、きみという存在のアイデンティティの大きな面積が確実に『優しさ』で覆われているんだよ。この事実は、ぼく1人だけが確信しているワケじゃない。もう少し、もう少し周りのクラスメイトなどを注意深く観(み)てみたらどうだろうか。案外、距離の未(いま)だ近しくないクラスメイトであっても、きみという人間の『本質』を見抜くコトができているのかもしれないよ……」

あのぉー。

高垣くーん?

おれ、自販機のアイスカフェオレのボタン、早く押したいんですけど??

日が落ちるまで拘束して解放してくれないとか、やめてね??

 

× × ×

 

尋常ではない高垣の尋常ではない長ゼリフ。しかし、おれに対して言い放たれた『優しさ』というコトバが、脳裏に妙にこびり付いた。

 

「トヨサキくんあり得ないよ。罰金払ってよ」

活動場所である【第2放送室】の中。おれの真正面のタカムラかなえが腕を組んで仁王立ちしている。

『KHK(桐原放送協会)』の活動に遅刻した。遅刻をタカムラかなえは咎(とが)めていた。

言い訳できなかった。たしかに、高垣の出現というイレギュラーな事態はあった。しかし、高垣を遅刻の言い訳にするコトはできないと思った。

だから、

「わかったよ」

と、素直に、素直過ぎるぐらいに、タカムラかなえに向けて、答えて、応えた。

『優しさ』

という響きが、頭の中に残り続けていた。

そんなおれは、ジワジワとうろたえ始めたタカムラとの距離を詰め、制服ズボンのポケットに入れていたアイスカフェオレのお釣り小銭を取り出した。

「ほれ、罰金だ。足りなかったら、後日(ごじつ)分割払いするから」

目線が下向きになってしまった同級生女子に、小銭を乗せた右手のひらを差し出した。

何も言えない同級生女子が、そこにいた。

 

 




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