「いきなりなんで松尾芭蕉なんだ、タカムラ?」
「あれ。トヨサキくんよく知ってたねえ、これが芭蕉の句だって」
「一般常識レベルでは?」
「そっかな。同じ高校生でも、知らない子がかなり居ると思うけど」
「知名度の話は別として、放送開始直後に芭蕉の句を引用した意図は何なんだ」
「だってそーゆー季節だし。『五月雨(さみだれ)』って、梅雨の時の雨のコトだし」
「でも今日は雨降ってないよな」
「……」
「おいコラッ。ジト目でおれを見てくるな」
「最上川は、山形県なんだけどさ。この句の『最上川』を別の川に変えてみたら面白くない?」
「原作改変かよ」
「五月雨を あつめて早し 『隅田川』」
「……山形の最上川よりも身近な東京の川を持ってきたってか」
「だよ」
「もっとも、隅田川流域は、おれらの学校からはかなり遠いけどな」
「トヨサキくん、細(こま)か過ぎるし、五月蝿(うるさ)過ぎ」
「はぁ!? 急に罵倒してきやがったな、しかも俳句みたいなリズムで……!!」
「え、なんで瞬間湯沸かし器みたいになってるの」
× × ×
「はい、この放送は、『ランチタイムメガミックス』というお昼の校内放送です。旧校舎の【第2放送室】から校内津々浦々(つつうらうら)にお送りしております。先程のオープニングナンバーは、とある先生からのリクエスト曲でした。THE YELLOW MONKEYの90年代後半の楽曲でしたが、どうだったでしょうか?」
「『どうだったでしょうか?』と言われても、聴いてるヒトが反応に困るだろ」
「トヨサキくんはなんで浅ましい発言ばっかしなの!? あと3回ヒドいコトを口走ったら、このスタジオから追い出すよ!?」
「いいや、おまえが何と言おうと、おれはここから出ない。なぜなら……」
「ま……真顔で前(まえ)のめってこないでよ。いったいなんなのいきなりなんなの」
「放送部の寺井菊乃(てらい きくの)副部長に、お手紙を手渡された」
「!?」
「昨日、ある場所の廊下で彼女に偶然出遭ったんだ。そしたら、『良いタイミングだからこの場でキミに手渡しとくよ』って言われて」
「ちょちょちょ、ちょちょい待って」
「なんだよ、慌てふためき過ぎじゃね?」
「いったいどんなコトが書かれてる手紙だったの。公共の電波で発表してもOKな内容なの」
「公共の電波で発表してもOKじゃなきゃ、読み上げるワケなんかねーだろ。タカムラにしては頭悪いなぁ」
「ぐぐ……!」
「時間も限られてるしさっさと読み上げるぞ。内容は、年度が変わってからの『ランチタイムメガミックス』の感想だ。
『トヨサキ三太(サンタ)くん、タカムラかなえちゃん、2人とも、学年が上がってからよく頑張ってるね。『ランチタイムメガミックス』の質もどんどん向上してると思うよ。特にかなえちゃんは、強烈なリーダーシップでトヨサキくんをグイグイ引っ張っていて、スゴいよね。『トヨサキくんには絶対に主導権を握られたくない!!』ってキモチが150%伝わってくる。わたしなんか到底構わない『負けん気』の強さだな……』」
× × ×
「リスナーの皆さんお気づきでしょうか? タカムラの口数が急に少なくなりました。おそらく、菊乃センパイのお手紙でベタ褒(ぼ)めされたがゆえの無口なんだと思われます」
「……無口じゃ、ないから」
「タカムラが過剰に強がっているので『おたよりコーナー』はおれ単独で進行していきます。
――バカだなおまえも。無言で紙を投げつけてくるおまえは、もう見飽きた。
――皆さん、タカムラかなえは、数学の授業での抜き打ちテストの答案を投げつけてきたかと思えば、おれの反対側を向いておれに背中を見せてきてしまいました。きっと、敗北を認めたんでしょう。
というわけで、おたよりコーナーです!!
まずは、ラジオネーム『素直さこそが、道を切り拓(ひら)く』さんから。
おいおいタカムラよ、今のおまえに200%相応しいラジオネームじゃないか」