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【愛の◯◯】7年前の如き服装の「恩師(かれ)」と

 

院に進学してからはジーンズを穿くのを控えていた。『カジュアル過ぎて、研究を突き詰めていく立場に相応しく無いんではないか?』と思ったから控えていたのだ。代わりにスカートを穿いてキャンパスに行く日も増えた。だけど、ジーンズを穿き過ぎたからだろうか、スカートの感触が身に馴染まない日の方が多かった。ジーンズは相応しく無いし、スカートは馴染まない。現在のわたしは学業よりも穿いていくモノで苦労している。

『たまには良(い)いか……』と思って本日はジーンズ穿(ば)きでキャンパスに来ている。親友の羽田愛を招くのもジーンズ穿きの強い後押しになった。もしロングスカートなんか穿いて行ったら、『どーしたのよぉ。さやかがさやかじゃないみたいじゃないのよぉ』みたく満面の笑みでからかわれてしまうかもしれないし。

 

そんなワケで、某・駒場なキャンパスの某所にて、羽田愛を眼の前にして、ジーンズで椅子に腰を下ろしているのである。

丸テーブルにわたしが置いているのは麦茶のペットボトル。同じテーブルに愛が置いているのはホットコーヒー入りの紙カップ。もちろん砂糖やクリームなどは注入されていない。コーヒーの「濃さレベル」をMAXにしてから購入ボタンを押しているのをわたしは目撃していた。例によって、である。

『ちょっぴり寝不足なのよね~』などと言いながらストロングなホットコーヒーを楽しんでいた愛だったのだが、中身の残り少なくなった紙カップをとんっ、と置いたかと思えば、

「ねーねー、同じ話を繰り返すみたいではあるんだけど……」

即座に、

「まーた、『実習中にカツ丼調理しちゃいましたよ事件』のお話ですか」

とわたしはピシャリ。

「そのお話は『お腹いっぱい』だからっ」

嘘偽り無き本音である。同じ話題を何度も提供されたら飽きてしまう。

それに……『あの男性(ヒト)』が、『事件』の主要登場人物なんだし。

わたしにとって都合が悪いのも、『お腹いっぱい』の理由なのだ。

しかし、

「えぇ~~っ。いいじゃないのよ~~っ」

と愛は言うコトを聴いてくれず、

「夜になったら、荒木先生に、会いに行くんでしょ~~~?」

と、白昼堂々、『あの男性(ヒト)』の実名を出してきて、その上、

「さやかに知らせられてない『荒木先生のマル秘情報』、まだまだあるんだからあ☆」

とフザけ続けるから……前のめりになって頭部を叩いてやりたくなってくる。

 

× × ×

 

お返しに、

『あんたとアツマさんは、どーなの!? 『わたしたち』なんかよりも、ずーっと昔から、『カンケイ』を育み続けてるでしょ!? 『しかるべき段階』になってるとしか、思えないんですけどっ!!』

と言ってやろうかと思った。

でも、結局言えなかったし、折檻(せっかん)も出来ずじまいに終わってしまった。

わたしにとって都合が悪過ぎる話題が収まった後も、

『このキャンパスに隣接してる某・国立大学法人付属高校って、中はどんな感じなのかな? さやかは、入ったコトあったりする!?』

だとか言って無邪気にはしゃぎ続ける愛が憎らしかった。

そして、去り際になって、

『ベストを尽くすのよ~~!! 水曜日だから、『ベストを尽くし過ぎる』のは、NG大賞だけど!!』

だとかフザけたコトを言いながら手を振ってくる愛も、やっぱり憎らしかった。

 

× × ×

 

『5倍にして『仕返し』してやる……!!』

そう決意しながら井の頭線に乗り込んだ夕暮れ時のわたしは誰がどう見てもピリピリとしていた。

しかしながら、短時間の乗車で到着した下北沢駅のホームを踏んだ途端に、わたしのピリピリは急速に緩和され始めたのだった。

 

あの男性(ヒト)は約束の時刻になっても姿を現さなかった。でも大して焦らなかった。不安も無かったし、不満も無かった。10代の頃と比べて「せっかちレベル」が10段階ぐらい下がっているし、社会人たる彼の都合を最優先するのは当たり前のコトだって認識しているんだし。

10分遅れで彼が来た。仕事帰りの彼が来た。フォーマルとカジュアルのちょうど中間みたいな装い。教え子だった頃にしばしば眼にしていたような装いだったから、胸がくすぐったくなって苦笑いがこぼれてしまう。

「遅れてごめんよ」

と彼。

「謝る必要ありませんから」

とわたし。

わたしはそれから、

「今日の先生の服装、7年前を思い出しちゃいます」

とやや小声になって、言ってみる。

「7年前? ずいぶんピンポイントだね。ま、青島さんは賢いから、7年前のコトもすぐに思い出せちゃうのか」

って、荒木笙(あらき しょう)先生は言うけど、

「先生先生。わたしのコトは、『名前』で。」

と、ためらうコト無くわたしは要求。

「あぁ……。ごめんなさいだな。『青島さん』じゃなくて、『さやかさん』って呼ばなきゃな」

嬉しさが湧き上がるわたしは、

「よくできました」

とホメてあげてからすぐに、

「そ-ですよ。笙(しょう)先生の言う通り、わたしは賢いし、記憶力も抜群なんです」

「……さすがは、未来の東大教授」

もーっ。

そんな風なコト言うのなら、視線を傾けないで言ってきてよ。

誠意を見せてほしい。わたしと視線を合わせて言ってほしい。

だけど、

「気が早いですから」

と、今日いちばんの微笑みで、わたしはたしなめてあげて、それから、

「ゆっくり歩こうよ、先生」

と、タメ口で告げてあげて、

「ゆっくり歩いても、予約の時間にはじゅうぶん間に合うから」

と言いつつ、彼の腕を掴んでいく。

 

 




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