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【愛の◯◯】バースデー前夜の愉しい嘘

 

6月が始まってから1週間を過ぎたが今日は晴れていた。現在は午後9時過ぎだ。邸(いえ)のわたしルームでおねーさんと2人。一緒にお風呂に入ったばかりでおねーさんはまだバスタオルで髪を乾かしている。手伝ってあげたいという衝動をグッと抑え込む。

湿り気を含んだ栗色の髪が世界でいちばん美しいおねーさんが、

「あすかちゃん、CD聴こーよ」

「髪乾(かみかわ)かしのBGMですか?」

「まあそんなトコ。あなたのお誕生日の『前夜祭』がしたい、ってキモチもあるんだけどね」

それはステキだ。

わたしの誕生日のためにおねーさんが『前夜祭』を開催してくれる。おねーさんに抱きつきたいぐらいわたしは嬉しい。

だけど、とりあえず、

「どんなCDがよろしいんでしょーか?」

「そうねぇ」

バスタオルを動かす手をいったん止めて、おねーさんは、

「2000年代の、下北系かな~」

『わたしのストライクゾーンど真ん中だ……!!』と思いつつ、ニヤけ顔になり、

「『ロキノン系』とも言い換えられる系統ですね?」

おねーさんも本当に可愛く小悪魔的にニヤけて、

「あたり」

と答えるのであった。

 

× × ×

 

わたしやおねーさんが小学校に入るより前の楽曲を聴きまくった。1988年産まれのヒトが10代後半だった時期の楽曲が約8割を占めていた。なにゆえに「1988年」なる西暦を持ち出してきたのかは今はどーでもいいとして、

「『前夜祭』、ホントーに楽しいんですけど、盛り上がり過ぎたら、眠れなくなっちゃいそうな気もする」

おねーさんはわたしの発言を承(う)け、

「あすかちゃんの言う通りね。あと少しで日付も変わるし、さっさとベッドに入っちゃいましょーか」

と言い、

「あと少しで日付が変わるから、あすかちゃんバースデーのカウントダウンしたいってキモチもあるんだけど」

「カウントダウンより熟睡ですよ。明日(あす)の朝に備えましょーよ。その方がベターですよ」

「――そうよね。ベターだし、きっとベストよね」

 

わたしが先に掛け布団の中に入り、それからおねーさんがわたしの左横に入ってきた。

わたしは、リモコンでLEDを完全に消し、枕の後ろにリモコンを置いた。

被(かぶ)るように掛け布団を引き寄せる。1人で寝る夜とは違う温かみを引き寄せたかった。

腕を元通りにしたら、おねーさんがわたしの左手に自分の右手を重ねてきた。

驚くよりも嬉しかったわたしが、

「なにか『想い出話』でもしたいんじゃないですかー?」

と訊けば、

「どーしてわかったのよ」

と答えてくるから、

「おねーさんとは、出会った時から『以心伝心』なんだし」

と答え返したら、

「またまたまたぁ」

最高かつ最強に美しき苦笑い顔がわたしには容易に思い描ける。こそばゆいけど心地良いこの感触を増幅させたい……! と本気で思い、左サイドのおねーさんにカラダを傾ける。

そしたら、

「このベッドの中にわたしが最初に入ったのっていつだっけ?」

という問いが、おねーさんから。

実を言うと記憶している。おねーさんが邸(ここ)にやって来たのは8年以上も前のコトなのだが、何と言ってもわたしが最も尊敬していて最も大切に想っている女性(ヒト)なのだから、このベッドで彼女の温もりを初めて感じた時の記憶はしっかりと定着しているのだ。

『いやらしいな、わたしも……』と若干自嘲する。

それから、

「残念ながら、あんまり憶えておりません♫」

と嘘をつく。

「ええ~っ」

ぜんぜん不満そうじゃない声を上げて、おねーさんは、

「『あなただったら、憶えてる』って期待してたのにぃ」

と甘く言いながらわたしの左手を包みこんで、

「――ほら、あったでしょ? 邸(ここ)に来たばっかりの時、まだ中学2年だったからコドモ過ぎたわたしが、海外の家族のコトを考えて淋しくなっちゃって、どうにも眠れないからこの部屋のドアをノックして……」

はいはい、憶えてますよ。

最高の中の最高にカワイイお顔が幼くなってたから、破壊力抜群でしたよね。

『あすかちゃん、あすかちゃん……。あのね、えーとね。……ね、ねむれないのっ』って、ドアの前に立ち尽くして弱々しい声を出してた中学2年のおねーさんを眼にして、わたしは中学1年だったけど、『今だけは、おねーさんの『おねーさん』になってあげたい!!』っていうキモチが初めて到来して……!!

「その時じゃなかった? このベッドで、初めて2人で寝たのって」

イジワルにも、

「ど~でしょうかね~~~」

と生意気ボイスを出してわたしは「はぐらかす」けど、

「……わたし、このベッドだと、イヤなコトとか不安なコトとかスッカリ忘れて、快眠できちゃうの」

とおねーさんは告げてきて、自らの右肩をわたしの左肩にぽにゅ、とひっつけてきた。

わたしはさらにイジワルに、

「わたしのバカ兄(あに)とケンカしたコトも、ですか?」

わたしのバカ兄の恋人たるおねーさんは、すぐさま、

「そーよ」

と答え、

「あなたと一緒に寝れば、仲直りできる……。そういうジンクスも、確かにある」

と言って、より一層カラダを寄せてきてくれるから、わたしはもうすっかりわたしのバースデーな気分である。

 

 




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