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【愛の◯◯】妬かない代わりに

 

午後4時台なのに日が高い。もう6月なんだもんね。

わたしの部屋。わたしは勉強机手前の椅子に座っていて、アカ子さんはわたしの真正面のベッドに座っている。

『アカ子さんも紛れもなく社会人なんだな……』と思いつつ優雅な彼女を眼で味わいながら、

「お仕事、どうですか? 順調ですか?」

と訊いてみる。

アカ子さんは素敵な笑顔で、

「順調よ」

とコメント。

「良かった」

とわたしは返しながらも、

「2月とか、ナーバスになり過ぎなぐらいナーバスで、おねーさんが『メイド役』としてアカ子さん邸(てい)に長期滞在しちゃうほどだったけど……もう、心配要らないみたいですね」

わたしに弱いトコロを突かれたアカ子さんのお顔に苦みが少し混じる。

けれども、

「立ち直れたから。『メイド役』になってくれた愛ちゃんの『愛』のおかげで」

と言ってから、アカ子さんは、

「それにね。先月ハルくんから手紙が届いたのは、あすかちゃんにも伝えたと思うけれど――あんまり字がお上手でない彼の手紙も、背中を押してくれてるのよ」

「わあ、ステキステキ」

そう言って前のめり気味になるわたし。

アカ子さんは混じり気の無いニッコリ顔。

そのニッコリ顔を持続させながら、

「『帰国するのはいつになるのか』を教えてくれてないのだけが、『玉にキズ』なんだけれどね」

と言い、

「気長に待つだけだわ――自分の仕事に打ち込みながら」

と言って、眼を細くするアカ子さん。

眼を細くしたアカ子さんはわたしの10倍美人だ。

だけども、わたしは妬いたりなんかしない。妬いたりなんてあり得ない。

 

× × ×

 

わたしがアカ子さんの23回目の誕生日を祝ったら、アカ子さんがわたしの就職活動成功を祝ってくれた。

そう。わたくし戸部あすか、めでたく内定が出たんである。

しかも、第1志望だったスポーツ新聞社。しかもしかも、スポーツ新聞社の中でもいちばん入りたかった『青春(せいしゅん)スポーツ社』に採用されるコトになったんである。

5月はブログ内で存在感がとっても薄めだったけど、やるコトはちゃーんとやってたんですよ……というコト。

ま、6月になったし、わたしの誕生日たる6月9日も着実に近付いてるし、5月とは打って変わって「存在感」を発揮できるに違いないよね。

 

「――良(い)いわよねえ、あすかちゃんは。就職活動が最高にうまくいった喜びの後で、お誕生日っていう楽しみがすぐ先に待ち構えていて」

ホラホラ。

アカ子さんだって、言ってくれてるじゃん。

彼女の言う通り、自分の誕生日はすぐそこ。この部屋の壁掛けカレンダーにもバッチリ赤丸を描いている。来週の月曜日に向けてコンディションを最高レベルに高めていくだけだ。

『6月は、梅雨の湿っぽさも、破竹の勢いで打ち破っていきたい……!』

胸中(きょうちゅう)で改めて決意する。そして、また前のめり気味の姿勢になって、ベッドに座り続けているアカ子さんのニコニコフェイスにわたしのニコニコフェイスで応えようとする。

『そうなんですよ本当に楽しみなんですよ!! 当日の夜はアカ子さんも駆けつけてきてくれますよね!?』

お互い笑顔で見つめ合った後で、こういうコトバを一気に言っていこう。……そう思っていた。

が、

「『彼』がココロを込めてお祝いしてくれるんだから、これ以上無いくらい楽しくて嬉しくて幸せになっちゃうわよね~~」

え!?

アカ子さん!?

その発言は、なに!?

というか、『彼』って。なんで三人称代名詞使ってボカしちゃうの。

……もっとも、『彼』の具体的な名前は、わたしには瞬時に把握できちゃうんだけど。

それでもって、『彼』が誰であるのかを瞬時に把握しちゃうが故に、アカ子さんの突拍子も無い発言を素早く噛み砕いてしまい、その結果、厄介な感覚が胸の奥で渦巻き始めてしまう。

もしかすると、アカ子さんは覚(さと)っているのかもしれない。覚られてしまっているのなら、さらに苦しくなってしまう。

利比古(としひこ)くんがサークルの飲み会で不在なのが、不幸中の幸いだった。

例えば、こんなタイミングで部屋のドアを利比古くんがノックしてきたりしたら、わたしは大ピンチになってしまうから。

「居ない」のは不幸中の幸いではあるけど、それでもわたしは深呼吸をしてキモチを整える行為を回避できない。

深呼吸をリピートしようかと思っていたトコロに、

「ごめんなさいねえ。からかい過ぎたみたいになっちゃって」

というアカ子さんのコトバがやって来る。

反省の念がこれっぽちも含まれていない。

今度は彼女の方が前のめりな姿勢になっている。より一層愉(たの)しげな美人顔がわたしに向かって突きつけられてくる。わたしの眉間(みけん)に自動的にシワが寄る。

わたしは眼の前のアカ子さんに妬くコトは無い。

でも、こういう態度を示されてしまうと、リスペクトの度合いが1.5段階ぐらい下降してしまう。

 

 




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