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【愛の◯◯】言い当てた根拠と妹の背中パンチ

 

土曜日の昼下がり。妹のあすかの前には既にコーヒーカップを置いている。

となると次にコーヒーカップを置くべきなのは妹の真向かいソファの川又(かわまた)ほのかさんの前なのだが、

「アツマさんはコーヒー置いたら速やかに立ち去ってもらえますか」

とコーヒーカップを置く前の時点で早くも厳しい要求をされてしまったのであった。

丁寧な手つきでコーヒーカップを置いてやるおれに川又さんは容赦なく、

「利比古(としひこ)くんだったら幾らでも留まってほしいんだけどねー。あすかちゃんも同じキモチじゃない?」

『流石は川又さんだ。利比古のガールフレンドなだけはある』と思いながら彼女の目線の先に居るおれの妹におれも眼を向けた。

ところが妹の様子がちょっぴりおかしい。背筋が過剰に伸びているように見えるのである。猫背にならないのはもちろん良いコトだ。しかしながら過剰に伸びてしまっている背筋を見るとなんだか不安めいたキモチを持ってしまう。

兄のおれは兄として妹の右手に眼を注いだ。

その右手はガチガチに握り締められていた。まるで永遠にコーヒーカップを手に取ってくれないが如くに。

 

× × ×

 

利比古はあいにく大学に出向いている。したがって本日の日中は川又さんも妹も利比古の顔を見ることができない。そのことを把握していたがゆえの『利比古くんだったら幾らでも……』という川又さん発言だったワケである。

ただおれには気になる点があった。利比古の名前が出てきた瞬間に妹の背筋や右手に異変が見られたのだけが気になる点だったワケでは無い。おれを「下げる」と同時に利比古を「持ち上げまくる」言動を止めようとしなかった川又さんの顔を妹はマトモに見るコトができていなかったのだ。

 

川又さんの要求通りに短時間でリビングを引き上げたおれは階上(うえ)の自分ルームに入っていた。

とりあえずは読み切れていなかった漫画雑誌に眼を通す。週刊少年ジャンプの『生き残り争い』が熾烈である。どの作品も打ち切られまいと必死なのはサバイバルゲーム以上の様相だ。ただし今回の記事がブログに上げられるまでにどの作品が打ち切られてしまったのかは記事制作の都合上お伝えできません。ゆるしてね?

次に週刊少年マガジンに眼を通す。半分読み終わったトコロで勉強机の上にベッドから眼を寄せる。『甘神さんちの縁結び』の最新単行本が勉強机中央に置かれている。「最終章」を謳(うた)っているこのラブコメディ漫画もいよいよクライマックスなワケであるが『甘神三姉妹』の中でどの娘(こ)がいちばんおれ好みなのかは文字数その他の事情で書かないでおきます。

 

× × ×

 

ベッドから身を浮かす。出入り口ドアに進んでいきドアノブに手をかける。

やはりお兄ちゃんとして妹の様子がヘンなのがどうしても気になるので妹のお部屋訪問を決意したのである。

おれがおれの部屋に引き下がってから2時間近く経過しているのだ。おれの妹が自分のお部屋に戻っていないワケが無い。

 

× × ×

 

「川又さんは帰ったんだな?」

座布団上で胡座(あぐら)のおれは最初の問いを発する。

しかしながら小テーブルを挟んで体育座り同然の妹は下を向いて応答してくれない。

「あすかさーん。川又さんが帰ったのかどうか訊いてるんですけどー」

再度問い掛けるも、

「……敬語禁止」

という「か細(ぼそ)い」声しか返ってこない。

俯くあすかが応答を遅延している。どうしたものかと思いつつあすかの兄たるおれは左肘を小テーブルにくっつける。

頬杖を形作りながらあすかをジワァッ……と観察していたら、

「ほのかちゃんは、15分ぐらい前に帰った」

と弱めな声の応答がようやく来た。

「ふうん」

とリアクションしておれは、

「利比古が在宅だったならば、夕陽が沈む頃まで彼女は居座ったのかもしれんな」

と推測する。

途端にあすかの顔の向きが上がった。口元も眼も狼狽(うろた)えを隠し切れていなかった。

ギャンブルだった。しかし触れないワケにはいかなかった。利比古という存在に触れないワケにはいかなかった。なぜならあすかの違和感アリアリな態度と利比古の存在に密接な連関があるとしか思えなかったからだ。

畳み掛けるようにして、

「おれは『おまえの『異変』の『根拠』は何なのだろうか?』と考えていたワケなんだが」

と言い、

「根拠と思われるモノその1。おまえも川又さん同様に利比古にあの場に居てほしかった」

と言ってから微かな間を置いた後で、

「根拠と思われるモノその2。利比古との惚気話(ノロケばなし)的な◯◯を川又さんに言われるのがおまえは怖かった」

そうコトバを発した途端にあすかの表情が最高に苦々しくなった。

ただし単純に不愉快になったというワケでも無くて狼狽や焦燥も顔面に拡がり出ていた。

おれは頬杖をやめて胸の前で腕を組んだ。威圧感を与えないように配慮しながら妹と視線を合わせた。

その視線を試みにほんの少しだけ上昇させてみた。妹のオデコが熱を帯び始めているのは明らかだった。

「こりゃ、『デリケート』の5文字だな」

おれはおれの腕組みを妹のために解いてやる。腰を浮かせて素早く出口ドア方面にカラダを向ける。

発言したコトは取り消せないが、

「そっとしといてやるよ。それが『お兄ちゃんゴコロ』ってもんだと思うから」

と言ってずんずんと出口ドアに向け前進していく。

だが、

「……『お兄ちゃんゴコロ』だとか、キモいコトバをいつまで使うつもりなの」

と妹が声を出してきて、

「もう20代中盤でしょ!? いい加減にオトナになってよ。キモいコトばっかし言う『オトナの紛(まが)い物(モノ)兄貴』はいい加減卒業してよっ」

と厳しいコトバを投じてくる。

妹が立ち上がるのが背中を向けていても容易に感知できた。

女子大学生らしくもない床の踏み方でガンガンおれの背中に接近してくる。

『殴られるかな……』と思った2秒後に背中にパンチを食らわされていた。

「痛くないぞよ、妹よ」

本当に全く痛くないので兄のおれは戯(おど)けてしまう。

痛みを感じてしまうはずも無い妹の殴打を10発以上かまされる準備は完了していた。

 

 




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