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【愛の◯◯】チューリップ唐揚げとスパイシー卵焼きの影響力

 

むつみちゃんがむつみちゃんハウスの玄関扉を開けてくれる。

透き通るような水色のシャツの彼女。ちょうど去年の今頃にも、こんなむつみちゃんの「水色」を見たような気がする。

おれは、幼馴染の彼女をまっすぐ見て、

「似合ってるね。季節に合ってるね」

言われた彼女は微笑んで、

「そう?」

おれは、頷くとともに、

「濃い青色も良いけど、今日みたいな薄い水色も、ベリーグッドだ」

さらに微笑みを増す彼女は、

「『ベリーグッド』って、またまた。芝居がかってるわよ、キョウくん?」

おれはさほど間を置かず、

「むつみちゃんの前なら、芝居がかったコトだって言うさ」

幼馴染の彼女の表情にうろたえが混じり始め、

「それどういうコト……キョウくん」

あははっ。

 

× × ×

 

2人並んで歩いている。公園へと続く道を歩いている。

おれの右横がむつみちゃんだ。彼女特製のメニューが入ったランチボックスを運んでいるのは、もちろんおれの方。

ランチボックスを運んであげるのも義務なんだけど、

「5月になって気温がかなり上昇してるけど、大丈夫?」

とコンディションを気づかってあげるのも義務だ。

訊かれたむつみちゃんは、

「だいじょーぶよ。こういう季節は、前々から気をつけてるんだから」

と答え、それから、初夏(しょか)へと変化する時期の対策を具体的に3つ話してくれた。

おれは、

「じゃあ、過度に心配する必要も無さそうだね」

と安堵のキモチを示す。

すると、むつみちゃんは、

「その通り。過度の心配なんか要らないわ。あのねキョウくん、季節の変わり目なんかよりもね、わたしにはとっても気になってるコトがあるのよ」

おれは、ランチボックスの入ったバッグを大事に抱えつつ、むつみちゃんの横顔を見ながら、

「お馬さんのコトだよね。今年から中央競馬の日程が変わって、宝塚記念までG1がノンストップなんでしょ?」

「……話したっけ」

疑問の幼馴染の彼女に、敢えて答えを返してあげず、

「今日のNHKマイルカップは、比較的地味なG1だと思うんだけど」

本日のG1競走へのおれの言及に対し、どういうわけか10代の頃からお馬さんに詳しいおれの幼馴染は、

「『比較的』どころじゃないわ。『NHKマイルカップ』ってレースができた時から、いろいろ言われてたんだもの」

と、すぐに応えてくれる。

 

× × ×

 

第1回NHKマイルカップは1996年で、むつみちゃんもおれも当然産まれていない。

むつみちゃんが90年代以前の競馬にも何故か詳しいのはそっとしてあげておいて、某所の自然公園にたどり着いたのだから、静かな木陰にシートを広げてあげて、その上にランチボックス入りのバッグをそっと置く。

靴を脱いでむつみちゃんの方が先にシート上に腰を下ろす。おれも靴を脱ぎ、むつみちゃんの真向かいに腰を固める。

胡座(あぐら)のおれに、

「キョウくんお腹ペコペコでしょ」

と言いながら、むつみちゃんはバッグのファスナーを開けてランチボックスを取り出し、ランチボックスを包んでいた布をほどく。

紙皿にオカズやオニギリを載せていく彼女。手際が良いし、手慣れている。

『再会してからもう7年目なんだし、何度もこうやって、公園で2人で昼ご飯食べてるんだもんな』

そういう呟きを胸の中に響かせた後で、再会する前からどういうわけかむつみちゃんの方の家に保管されていたおれ用の箸を手に取って、

「いただきます」

と言ってから、いわゆる『チューリップ型』の唐揚げを口に運んでいく。

うんうん。美味しい。すこぶる美味しい。骨付きなのに、鶏肉がとっても柔らかくてジューシーだ。

唐揚げの次は、お馴染みの卵焼き。甘くないコトでお馴染みの卵焼きだ。やっぱり今日も砂糖の甘ったるさが全然無い。こうでなくっちゃなあ、と思う。スパイシーな程の塩辛さだけど、歳を重ねるにつれて微妙に変化しているおれの舌の嗜好(しこう)に、この味付けはジャストにマッチしている。

「幸せそうな顔ね。食(しょく)レポしたいのを抑え切れないみたい、今のあなた」

彼女がそう言ったから目線を上げてみると、左の首筋に左手で軽く触れながら、彼女は柔らかに笑っていた。

ロングの黒髪のヘアアクセサリーがキラキラにきらめいているコトに今日初めて気が付いた。白に限りなく近い水色のヘアアクセサリーだった。

 

× × ×

 

自分で作ったオカズをぱくぱくと食べていくむつみちゃんは本当に無邪気だ。24歳という実年齢の半分の年齢に見えてしまう。

まるで12歳なむつみちゃんの無邪気さに胸が満たされるし、チューリップ唐揚げやスパイシー卵焼きの美味しさによっても胸が満たされる。

チューリップ唐揚げやスパイシー卵焼きの強い影響を受けたおれは、腰を自然と浮かせていく。

そして、

「むつみちゃん、ゴメンけど、シートの真ん中辺りにもう少し寄ってくれないかな」

と請う。

「あら、どーして?」

『あら、どーして?』だなんて、2000年産まれの女の子とは思えない言い回しだな……と思っちゃうけど、それは別として、

「隣り合いたいから」

と、請う理由を、即座に表明する。

「ええっと……。わたしが中央に寄らなくても、あなたは隣に居られる気がするけど。わたし、カラダが細いっていうチャームポイントもあるんだし」

自分で自分の「チャームポイント」を強調するむつみちゃんが面白くて、ついつい苦笑してしまいながらも、おれは、

「中央に寄らないと、バランスが悪いだろ? シートの端っこで寄り添うってのは、どう見たってアンバランスだ」

「……」とむつみちゃんは無言になって、手に持った紙皿を俯き気味に凝視してしまう。

そんな彼女も可愛いけども、

『素直じゃない……』

と、彼女には聞こえない声量(ボリューム)の呟きをしてから、おれは、縮こまり気味の彼女の右サイドにやって来て、腰を下ろし、縮こまり気味の彼女とおんなじ目線になる。

それから、

「しばらくこうして居ようよ」

と宣言する、おれ。

むつみちゃんは強烈にうろたえて、

「そっそのポジションで良いワケ、キョウくんは?? 中央に寄るんじゃ無かったの?? ……それと、『しばらく』って、いったいいつまで」

吹き出しそうになりつつも、

「しばらくは、しばらくだよ」

と、おれは弄(もてあそ)ぶ。

濃厚に焦りまくる幼馴染の彼女は、

「早く帰らないと、競馬中継が始まっちゃうわ」

と言うんだけど、

NHKマイルカップの発走時刻までに戻れば良いじゃんか☆」

と、おれはこの状況を楽しみながら返答。

「そんな!?」

彼女の声は裏返るけど、

「だって、むつみちゃん、『パドックとか本馬場入場とか、かなりどうでもいい』タイプの競馬ファンでしょ?」

と、おれの方は少しも動じない。

彼女はおれの方に視線を寄せるが、唖然となっている口元を少しも隠しきれないままに、

「どうしてわかるの……」

「そりゃーわかるさー♫」

 

 




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