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【愛の◯◯】メロンソーダ横転

 

あたしルミナ!! 地方公務員!! とある児童文化センターに新卒で勤め始めて、今年でもう5年目!!

 

× × ×

 

土曜午前9時40分。葉山家(はやまけ)のピンポンを押したら、およそ10秒後に、葉山むつみちゃんが玄関のドアを開けて、その麗(うるわ)しい容姿をあたしに見せてきてくれたのであった。

あたしは早速、葉山ちゃんの両手を両手で握ってあげながら、

「おはよ~~~」

葉山ちゃんは、照れ笑いと苦笑いを足して2で割ったようなお顔で、

「おはようございます」

「ひっさしぶりだねぇ」

あたしはそう言いながら、本日の葉山ちゃんの身だしなみを、ジックリジックリと、眺めると同時に味わっていく。

朝8時前後に起床したと思われる。たぶんそうだ。お顔のお肌の艶(ツヤ)めき具合で推し測れる。文字数の都合で詳細な分析は省略するけど、今年で27歳になるオンナの直感をあんまり舐めないでほしい。

それはそうと、

「葉山ちゃんって、緑色が好きだよねえ」

あたしが言った途端に真向かいの彼女の眼の丸みが増して、

「どうしてわかるんですか!?」

いやいや。

わかりますよー、そりゃあ。長い付き合いでもあるんだしねぇ。

それに、今着てるそのワンピース、総面積の80%以上がビリジアングリーンじゃないの。

 

× × ×

 

葉山ちゃんルーム。

葉山ちゃんは床に腰掛ける。緩めのワンピースの裾が拡がる。ビリジアングリーン主体の緩めワンピースが、キレイなカラダのラインとステキにステキに調和している。

羨ましい、が、

「あのさ。葉山ちゃんって、あたしんトコの児童文化センター、今まで1度も来たことが無いよね?」

と、勉強机横の椅子に座らせてもらいながら、『お誘い』のキモチを彼女に向かってそれとなく示してみる。

彼女は頷きながら、

「はい。まだ1度も」

あたしはすぐさま、

「来ない?」

誘われた彼女は、

「それは……ルミナさんが勤めてるトコロに、顔を見せに来てほしいってコトですか?」

あたしは頷いて、

「だよ。公共交通機関を使えば、このお家(うち)からでも短時間で行けるし、全然くたびれないと思うよ」

葉山ちゃんの事情を慮(おもんぱか)りながらあたしは言うけど、

「誘ってくれて、嬉しくはありますけど……」

と、葉山ちゃんはかなーり恐縮そうに、

「わたし、小さいコドモとの接し方が、未だに良く分かんなくって。『接し方』で失敗しちゃったら、自分にダメージが来るだけじゃなく、周りにたくさん迷惑をかけちゃうし」

あたしは即座に椅子を降り、葉山ちゃんとの距離をどんどん縮めて、

「わかった」

と眼を合わせて言ってあげて、自分のためにも相手のためにも深~い呼吸をした後で、できる限りの優しい笑顔とできる限りの優しい声を届けてあげられるように努力をして、

「ごめんね。無理強いしちゃったね。全責任は、あたし。今日と明日(あす)仕事休みだからって、調子に乗りまくり過ぎちゃった」

葉山ちゃんは俯き、

「そこまで、ルミナさんの方が、謝る必要……」

って言うけど、あたしは彼女の左肩に静かに右手を伸ばして、ビリジアングリーンのワンピースにゆるりと包まれた左肩を、サワサワと優しく優しく撫でてあげて、

「こらこら」

と言い、

「葉山ちゃんが沈み込んでるトコ、あたしはあんまり見たくないかな」

と言ってあげる。

 

× × ×

 

ペナルティである。

あたしがあたしに課したペナルティの中身。それは、『キッチンの冷蔵庫の中から、葉山ちゃんの大好物であるメロンソーダの缶を、葉山ちゃんルームにまで運んできてあげる』という任務。

『あたしん家(ち)のより5万円ぐらい高そうな冷蔵庫だし、このメロンソーダの缶も、ちょっとやそっとじゃ手に入らないような希少価値がアリアリだなーっ』

苦笑いしながらそんなコトを考えて、葉山ちゃんルームの引き扉をガラッと開けた。

「おかえりなさい」と葉山ちゃん。

「ただいまぁ」とあたし。

葉山ちゃんと同じ目線になりたかったから、葉山ちゃんの間近の床に両方の膝をくっつける。メロンソーダ缶を両手で支え、あたしと背丈とかそんなに変わんないのにあたしより15倍優雅な葉山むつみちゃんに、待望のメロンソーダを差し出してあげようとする。

そしたら、

「ルミナさんありがとうございます。早速ですけど――」

え?

う、受け取らないの? 葉山ちゃーん……??

彼女、いかにも、思わせぶり。

何を言いたいのか、何を訊きたいのか。未知。完全に未知。

背筋にどろりと冷や汗が流れるあたしに、

「幼稚園から大学までエスカレーター式に同じ学び舎に通ってた、産まれた時からいつも近くに傍(そば)にいた、お家(うち)も互いにご近所の、音楽に並々ならぬこだわりのある、ルミナさんのいちばん大事な存在の男性(ヒト)の、山田ギンさんは、最近どーしていらっしゃるんですかー?」

という強烈な問い掛けが突き刺さったから……両手からメロンソーダ缶がポトリと落ちて、コロコロコロコロと、床をどんどん転がっていったのだった……!!

 

 




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