「取材取材取材!!! 取材に行くよトヨサキくん」
薄い暑さの中で吹いていた強風も収まった放課後。【第2放送室】に入って10分後に、タカムラかなえの絶叫が、新番組の取材へとおれを促したのであった。
有無を言わせないタカムラが、
「今日も『街頭インタビュー』。場所は3年生の校舎。教室から出てくる先輩方を待ち構えて突撃取材をするんだけど、グズグズしてたら、3年の先輩方は校舎から全員出ていってしまうよ。【第2放送室】で時間を潰してる場合では、全く無いっ!」
と言って、ビシィ!! とおれを人差し指で指(さ)してきた。
× × ×
「なーなー。おまえは『街頭インタビュー』って言ってるけどさー。学校の敷地内なんだから、『街頭』っていう表現は、ちょっとばかし不自然なんじゃねーか?」
夕暮れの気配を少しも見せない16時台の空の下、機材を携えつつ3年校舎へと歩きながら、タカムラかなえにツッコミを入れてみる。
しかしタカムラはすぐさま、
「トヨサキくんうるさい」
と断罪。
それから、おれの方に振り向き、不愉快そうな眼でおれを凝視して、
「ねえもうちょっと速く歩けないの!? 機材はさほど重くないのに動きが鈍重(どんじゅう)過ぎるよ」
と早口で罵倒をする。
さらに、
「幾ら3年校舎が遠くにあるからって息切れしたら承知しないよ。キミが息切れを見せたらその瞬間に『運動部体験入部プロジェクト』を始動させるんだから」
とやはり早口で……。
念のため、
「『運動部体験入部プロジェクト』ってのは、『おれが』体験入部するっていうプロジェクトなんだよな?」
と訊くが、
「バカじゃないの!? そんなコトも分かんないの」
と、攻撃的な同期の女子は攻撃的に声を上(うわ)ずらせる……。
× × ×
3年校舎の柱近くに立っている先輩男子が1人いた。
マスダ訓史(のりふみ)先輩。冷静沈着な見た目と振る舞いで、校内に名を轟(とどろ)かせている。所属部活動は文芸部。おれたちが出くわした時、彼は文庫本を立ち読みしているトコロだった。流石は文芸部員である。
おれとタカムラの接近を察知すると、文庫本を肩掛けバッグにしまってしまったので、どんな作品を読んでいたのか分からなくなってしまった。少し残念だ。
「マスダ先輩、こんにちは」
そう声を掛けたのは、おれの方だ。タカムラが『こんにちは』と言ったのではない。同じ男子として魅力的に見えていた先輩だったから、積極性を発揮させて、タカムラに先んじて彼に挨拶をしたのである。
「トヨサキとタカムラか。活動してるんだな。ご苦労なコトだ」
そう言うのとほとんど同時に、おれの右横に立っているタカムラかなえに向けて、視線レーザービームを先輩は伸ばしてきた。
彼の視線レーザービームに呼応するようにしておれがタカムラの方角に顔を向けると、タカムラは背筋をピーンと伸ばして立っているだけではなく、過剰なほどのシリアスな眼つきで、マスダ先輩のレーザービームに抵抗する意志を示していた。
『コイツはなんでマスダ先輩を睨みつけるようにしてるんだ。この2人、仲が悪いんか? おれが不在である時に、ケンカみたいな事案が発生してたっていうんか。ケンカになるようなキッカケなんて、おれはほとんど思いつかないんだが……』
こういう風なココロの呟きをしながらタカムラに眼を寄せていたら、
「今度の新作番組のテーマは、『テレビ論』だっけ?」
と、マスダ先輩の側(がわ)から、タカムラかなえへと問い掛けがあった。
1秒と経たずにタカムラは、
「違います。『放送文化論』です。テレビだけじゃなくて、ラジオもです」
と訂正かつ反発。
マスダ先輩は素早く、
「カタいテーマだな。高校生の手に負えるのかどうか」
その挑発にピキピキとなったタカムラは、
「なんでそんなコト言うんですか。やってみなくちゃわからないじゃないですか」
落ち着きを増した気配すらあるマスダ先輩は、
「アレだろ、日本でラジオ放送が始まってから100周年だから、そういうテーマを立てたんだろ」
と言うも、タカムラは眉間にシワを寄せ始めつつ、
「少し違います。先輩の認識はズレてます。単に『放送100年』を祝いたいんじゃありません。わたしたちの目的意識を正しく理解してください」
とキツい口調でやり返す。
タカムラの左手に眼が行くおれがいた。
キレ気味の同期女子は左手で、ギギギギッ……という擬音が聞こえてきそうなほどに、強靭な握り拳を作り出そうとしていた。
× × ×
カラダの色んなトコロにチカラが入り過ぎているような気がするし、ココロの色んなトコロにもチカラが入り過ぎているような気がする。
もちろん、タカムラかなえについてのおれの分析である。『カラダにチカラが入り過ぎてるんじゃねーのか?』とか言ってしまったら殴られそうだし、『ココロにチカラが入り過ぎてるんじゃねーのか?』とか言ってしまったら1週間以上口(クチ)を利(き)いてもらえなくなるだろう。
だが、おれの分析は、確信や事実に限りなく近いんではないかと思われる。根拠というよりも実感なのだが、入学以来13ヶ月に渡って放課後に行動をともにしてきたがゆえに、女子なれども、タカムラかなえという人間の状態変化をリアルに感じ取れるようになってきてしまっているのだ。
もちろん、気持ち悪がられてしまうから、こんな実感はタカムラの前で絶対に打ち明けられないし、打ち明ける予定も無い。
ただそれにしても、心配なのは心配なのである。あっちが女子であり異性であるなどというのは抜きにして、先ほどのマスダ先輩への態度を見ても、カラダもココロも「前のめり」になり過ぎているんでは無かろうか、というような危惧を抱く、抱いてしまう。
夕焼けが仄(ほの)かに見えてきた。本校舎の放送部室兼放送室から、下校時刻にフィットしたとある楽曲が流れ出してきた。
機材をますます重荷に感じながら、旧校舎【第2放送室】に戻っていくタカムラの背中を追って歩く。
『もうちょっと余裕があったっていいだろ』
そう背中に呼び掛けたとしても、タカムラかなえは気を悪くするかスルーするだけだろう。
『カラダにチカラが入り過ぎているんじゃねーのか?』とか『ココロにチカラが入り過ぎてるんじゃねーのか?』とか、そんな問い掛けと、『もうちょっと余裕があったっていいだろ』なんていうコトバには、大差がまるで存在しないから、おれは口を閉じ続けるしかなかったのであった。