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【愛の◯◯】後輩をたずねて気付くコト

 

「約2ヶ月ぶりの母校……か」

そう呟きながら白い校舎を見上げる。まだ授業中だ。フライング気味に敷地内に入ってしまったけど大目に見てほしい。

食堂が入っている建物もその建物の前に立ち並んでいる自販機も変化が全く無い。たった2ヶ月でガラリと変わるワケも無いよね。

わたし自身にしたって、この2ヶ月で何かが大きく変わったという意識は全く無い。たしかに、制服はもう着ていないし、毎日違う服で予備校に通っている。でも、予備校に通い始めるから衣類を全部入れ替えたとか、そういうコトは全然していない。見た目だけじゃなくて中身も全然変わっていない。高校卒業したからって、メンタルが急にオトナっぽくなるワケも無い。

 

× × ×

 

学校当局にアポイントメントを取っていたので、校舎内に私服で堂々と入るコトができた。

 

本田くるみが真正面に着席している。

現・放送部部長のくるみが、

「モネ先輩、私服姿だと一段とオトナっぽいですねえ」

と先制パンチを繰り出してくるけど、

「錯覚じゃないの? 上も下も去年の春から持ってる服なんだよ? 外側だけじゃなくて内側も変わりは無いんだし」

と応戦する。

「内側?」

首を傾げるくるみに、

「ココロの中のコトだよ」

と教えてあげたら、くるみは、かなり間を置いた後で、

「卒業間際にいろいろあったけど、それを乗り越えて、打たれ強くなってるって……勝手にそう考えてました」

と控え目に言ったけど、俯いてしまって、申し訳無さそうに、

「すみません。勝手な考えを勝手に口に出してしまって」

わたしは、そんなくるみを暖かく見つめて、

「いいんだよ。わたしが卒業間際に各方面にすっごく迷惑かけちゃってたから、強く印象に残り続けてるんでしょ。わたし嬉しい、そんなコトバがくるみの口から出てくるってコトは、わたしのコトを大事な存在だってくるみが認識してくれてるって証拠だから」

と頬杖をつきながら言う。

くるみは視線をやや上げるけど、照れながら沈黙している。

間髪を入れず、

「湿っぽいハナシを引き伸ばすのはやめよーよ。5月はじめなんだし、ジメジメした季節はまだ先でしょー?」

と、わたしよりだいぶ長いくるみの髪に注目しながら言って、それから、

「くるみ史上最長のロングヘアになってるよね」

という指摘をいきなり発射する。

発射された指摘が命中して、くるみはガバァ! と顔を急上昇させて、

「ロングヘア!? ロングヘアが、そんなに気になるのっ!?」

と、慌てふためく。

 

× × ×

 

放送室兼放送部室を5時きっかりに後(あと)にしたわたしは、旧校舎へと一直線に突き進んでいった。

旧校舎の【第2放送室】で、タカムラかなえちゃんとトヨサキ三太(さんた)くんが待ってくれているのだ。

当然、アポイントメントを取っていないワケも無い。約束の日時を決めた瞬間に、LINEのトーク画面にタカムラちゃんがスタンプを5連続で送信してきた。喜びの表れだったんだろう。

 

ドアを開けてくれたタカムラちゃんを見た瞬間にタカムラちゃんを抱き締めたくなった。

トヨサキくん不在の場合はきっと抱き締めていたコトだろう。残念ながらトヨサキくん不在では無いので、抱き締めたいキモチを胸の奥の宝箱に入れておくだけにする。

抱き締めない代わりに眼と眼を合わせる。互いに笑顔になって通じ合う。しばらく立ったまま、無言のコミュニケーションを交わし合う。

トヨサキくんをチラ見したら、怪訝な顔をしていた。

怪訝な顔が見えたのを合図に、

「わたし、あそこのパイプ椅子運んで、トヨサキくんが今座ってる所の間近に座るよ」

「わかりました。わたしは、モネ先輩の隣に座ります」

「わたしから見て右隣? それとも、左隣?」

タカムラちゃんは可愛い苦笑いで、

「右隣」

と答えて、部屋の奥へと歩き始める。

 

× × ×

 

「トヨサキくんをイジメてみよっか」

袖と袖が触れ合いそうなほど接近しているタカムラちゃんに言ってみる。

一気に唖然となるトヨサキくんに構わず、タカムラちゃんは、

「いいですねぇ、下校時間まで悪口大会にしましょーか?」

とニヤニヤしながら応える。

「『ストック』があるんでしょ、『ストック』が。たとえば、彼に対する不満の『ストック』とか」

とわたし。

「あります~~。4月の時点で相当蓄積されちゃっていて」

とタカムラちゃん。

「そりゃどういう意味だタカムラ、『蓄積』ってなんだよ『蓄積』ってっ」

ふふふ、トヨサキくん、めちゃめちゃ焦りまくってる。

「わかんないの? 1日平均で3つ、わたしの中に不平不満がストックされるんだよ。4月は全部で30日間だったから、不平不満が90もストックされた計算になる」

『ますます意味がわかんねぇ』と言わんばかりに呆然とするトヨサキくん。

タカムラちゃんの反対に顔を逸らした。口を苦くしながら床方面に視線を落とした。何も言えない。言えない代わりに考え込んでいるご様子。

2年生になっても彼の可愛げは変わらない。

タカムラちゃんが不平不満を言うのなら、わたしは「からかい」のコトバを浴びせてみようかな……と思い、右隣の彼女に横目でメッセージを送ろうとする。

わたしの意図に気付いた右隣の後輩女子が眼を寄せてきた瞬間に、

「タカムラ」

という声が左サイドから聞こえてきて、

「不平不満は、ストックするんじゃなくて、直接言ってこいよ。不平不満を1ヶ月で90も溜め込むだとか……カラダに悪いだろ」

わたしの顔はトヨサキくんに自然と向いていた。

昨年度よりずいぶんとシッカリした声だと感じた。声が低くなっている。1年前の入学直後はこんな声の低さではなかった。変声期を抜け出せていなくて、頼りなげな声ばかり出していた。現在(いま)は違う。トヨサキくんが変声期卒業間際を迎えているコトにわたしはたった今気付いた。

男子は女子より晩熟だ。高校生になってから背がグーンと伸びたりする。高校生になってから声が急速に低くなったりするコトもあるだろう。今この場のトヨサキくんがその典型例に近い。『急速に』ではないかもしれないけど、トヨサキくんの声は着実にオトナびてきている。

この部屋でしょっちゅう顔を合わせているタカムラちゃんは、トヨサキくんの声の成熟にとっくに気付いているのかな?

もし、『それ』に鈍感だったのなら……。

 

 

 




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