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【愛の◯◯】冷静さは遥か遠くに

 

兄貴に利比古くんの様子を訊かれた途端に慌てふためいてしまった。

商業施設の中のイタリアンレストランで食後のカフェラテを飲んでいたら兄貴が訊いてきた。我を忘れて仰(の)け反(ぞ)り姿勢になって、我を忘れて首をぶんぶんぶんぶんぶん!! と100回ぐらい振りまくった。当然のごとく公共の場だったから、周りの席のヒトに迷惑をかけちゃったし、過去1年でいちばん恥ずかしいキモチになってしまった。もしかしたら、大学生になってからいちばん恥ずかしい出来事だったかもしれない。

 

兄貴と別れる時間を1時間早めて、飛び乗るようにして帰りの電車に乗車した。邸(いえ)に帰ってから寝るまでのコトはよく憶えていない。

 

ひと晩が過ぎても悔しさ混じりの恥ずかしさが拭えない。全然拭えない。

朝8時過ぎ。4月の強烈な光がカーテンに充満している。満ち溢れる陽(ひ)の光とは対照的にわたしのココロは暗い。とっくに起きてはいるけど、ベッドの掛け布団に顔を押し付けっぱなし。全身のチカラが弱まっているからだろう、掛け布団に密着したまま、全く這い上がれない。

 

× × ×

 

1時間以上這い上がれなかったが無理矢理にチカラを出して這い上がった。ひどい足取りで窓際の「ぬいぐるみ密集ゾーン」に歩み寄り、とあるぬいぐるみを持ち上げてベッドまで運び、ぼすん、とベッドに腰掛ける。

ぬいぐるみを兄貴に見立てて殴りつける。

3連続で殴打した。可愛いぬいぐるみを痛めつけてしまった。可愛いぬいぐるみを作ってくれたメーカーに謝罪のお手紙を書かなきゃいけないレベルの暴力だった。

どうしようも無さ過ぎて、兄貴に見立ててぬいぐるみを殴打しなければ、部屋から出て階下(した)に下りていくコトなど到底できるはずも無いような状態だった。

「ゴメンね……。」

痛めつけたぬいぐるみを抱き締める。抱き締めるチカラが強過ぎて、ぬいぐるみがいっそう痛がっているかもしれない。

「許して許して。キミを痛めつけないと、『彼』とマトモに眼を合わせられそうにないの」

わたし史上最悪レベルに破綻した論理でもって絶賛抱き締め中のぬいぐるみにメッセージを送る。乱調の極み。

 

× × ×

 

15回深呼吸をした後で、やっとのことでベッドから腰を離すことができた。

両手に余分なチカラは入っているけれど、どうにか部屋のドアを開けられる。

覚悟のわたしは階段を踏みしめて1階フロアに到達する。

その5秒後に『彼』の姿を10メートル前方に見る。

覚悟を固めているわたしとの距離を詰めてきた。ハンサムにハンサムを重ねたルックスが鮮明に見えてくる。何かわたしに伝えたいコトでもあるんだろうか。今のわたしの覚悟で対処できるんだろうか。

「おはようございます~、あすかさん」

すごく軽いノリの利比古くんだった。トクン、というわたしの心音(しんおん)がわたしに聞こえてくる。やっぱり覚悟が中途半端だったんだろうか。挨拶されたぐらいで心臓が自己主張してくるだなんて、今のわたし、防御力低過ぎ。

続けざまに、やはり軽く軽く、

「今日は、就活(シューカツ)は、いいんですか?」

という利比古くんのクエスチョン。

脳内をこねくり回して問いに対するベターな答えをひねり出し、

「重要な試験とか面接とかは、今日と明日(あす)は無いよ。だから、こんなに朝ゆっくりと過ごせるの」

と答えて、

「利比古くん。『いいんですか?』って訊くのって、かなり曖昧な問い掛けだから、『いいんですか?』って言うんじゃなくて、別のコトバで訊くようにした方がいいよ」

と付け加える。

「厳しいなあ~~、あすかさんは」

照れながら後頭部をポリポリする利比古くん。

その仕草や表情が、なんというか……とっても、魅力的に映る。映ってしまう。

なんとも言えない魅力的な仕草と表情。

頭の中にコトバが上手く出てこない。適切な形容ができない。適切な比喩もできない。そして、わたしの語彙(ごい)がギュンギュン脳内から抜けていくような感覚がやって来る、襲って来る。危機の到来。立ち尽くすわたしに、微(かす)かな目眩(めまい)が……。

「あれっ、どうしてあすかさん、棒立ちみたいになってるんですか?」

足がすくむ。利比古くんは笑顔を崩していない、崩してくれていない。怖くて、とっても怖くて、後(あと)ずさる。

利比古くんの顔が上手に見られなくなるけど、もしここが漫画の世界だったら、今の利比古くんの顔の横に『?』というクエスチョンマークが描(か)き添えられているコトだろう。

「……メチャメチャなコト考えてるな、わたし。思考回路がショートケーキだ」

窮(きわ)まったわたしは、とうとう自分を自分で制御できなくなる。制御不能ゆえに、ヒトリゴトが勝手に口から射出され、剰(あまつさ)え、30年以上前の古臭さに満ち満ちたダジャレまでもが口から暴発されてしまう。

「あすかさーん?」

優しく問い掛けてきた。

だから、わたしはソッポを向いた。

混乱の真っ只中で、走り出す。

 

× × ×

 

テレビゲームをプレイすることに特化した1階のとあるお部屋にわたしは逃げ込んだ。

ゴハンを食べるのも忘れて6時間近くプレイしていたゲームは……モンスターをハントする、あのゲーム。

 

 




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