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【愛の◯◯】どうしようもない同期女子のLINE

 

「最初は題目の欄に『家族』とだけ大きな文字で書こうと思ってたんですけど、流石に怒られるので、『家族の哲学』としておいて、それから長い副題を付記して、どうにか卒論っぽいタイトルに持っていった。そんな感じです」

題目を決めた経緯を話してくれたのは羽田愛さんだった。

4時限目の時間帯。専修室に入ったら羽田さんが居て、昨日の卒論演習の振り返りや文献集めの進捗状況を彼女から聴く流れになった。その流れの中で題目決めの経緯に話が及んだというワケである。

「副題はとても具体的だと思うけど、『家族の哲学』という主題の方はとっても広いよね」

そう指摘するぼくに、

「ハイ。これ以上無いぐらい巨大ですよね。もしわたしが院進(いんしん)するつもりだったならば、こんな題目は到底許されないと思います」

と羽田さんが率直に言う。

頷かざるを得ない。助教(じょきょう)としての経験ゆえの実感。

「もしかすると……広くて大きな主題だから、『可能な限り長く書いてみたい』だとか思ってたりする?」

やや遠慮気味に訊くぼくに、

「堀之内(ほりのうち)先生はわたしのキモチを良くお分かりなんですね。その通りなんですよ。『根回し』とはちょっと違う気もするんですが――『8万字超えちゃうかもしれないです』って大橋先生には『予告』していて」

とスゴいコトを伝えてくる羽田さん。

これまで、卒論を8万字以上書いてきた学部生は見たコトが無い。

ぼくは、

「やる気が満ち溢れてるのは良(い)いんだけど、バランス感覚みたいなのも大切だと思うよ? ほら、他のタスクとの兼ね合いも……」

と若干慌て気味口調で言うのだが、

「大橋先生とおんなじみたいなアドバイス仰(おっしゃ)るんですね、堀之内先生♫」

と、満面の笑顔の羽田さんに軽やかに切り返されてしまう。

ここで、今年度から新しく助教になった菅(スガ)先生から、

「良かったじゃないですか堀之内先生。まるで大橋先生と以心伝心」

と、羽田さんの援護射撃のようなコトバが飛んでくる。

スガ先生のデスクの方角を思わず見たら、彼女も羽田さんと同じく満面の笑顔になっていた。

以心伝心なのは、スガ先生と羽田さんの方では……?

 

× × ×

 

アパートの部屋に入った。テーブルにスマートフォンを置き、通知などを確認しようとする。

LINEの通知アイコン。

『伊吹みずき』からLINEメッセージが届いているからギョッとする。

ゾワゾワという緊張混じりにトーク画面を開くと、

『カクロー新年度がんばってるかー!? 今年こそ准教授にチャレンジだっw』

という軽々しいメッセージが眼に食い込んでくる。

『カクロー』とはぼくの下の名前。そして末尾の『w』は言うまでもないかもしれないが笑いを表す『草』というネットスラング的記号である。

みずきのヤツ、配慮が足りな過ぎる。いくら第一文学部で同期だからって、『准教授にチャレンジだっw』なんて文言(もんごん)、見過ごせないぞ。

ぼくはカチカチと文字を打ち、

『相変わらずケーハクだな』

『教壇の上でもチャラチャラしてるんでないか?』

『断言する』

『おまえよりは確実に頑張っとる』

と矢継ぎ早に連投する。

なお、『おまえよりは確実に頑張っとる』の末尾には、いわゆる「怒りの筋(スジ)マーク」を付け足している。

怒りのメッセージを連投してから間(ま)もなく、

『そんなコト言うのは100年早いから。

 准教授になって所帯持ってから言うべきだろぉ~~?ww』

というバカみたいなコトバが返ってくる。

管理職にはまだ早いものの、とっくの昔に結婚しており、息子さんも居る。そんな『伊吹みずき』というオンナ。

ちなみに、LINEアカウントでの名義は『伊吹』となっているが、旧姓であり、本来は『白川』である。

ちゃらんぽらんな同期女子は続けざまに、

『あんたのトコロの羽田愛さんは元気???』

クエスチョンマークを3つも付けてきやがって。おまえホントに国語教師か!?

『もーすぐ教育実習で彼女がウチの学校に来てくれるんだよ』

『あたしが彼女と感動の再会をするまでのあいだ、』

『支えてやってよね』

『ね? カクロー♫』

スマホを握るチカラがムダに強くなるぼくは、

『支えるさ。「陰ながら」、な』

と返信。

その5秒後、

『「陰ながら」!??! そんなのゆるさないから』

と、みずきの方が怒ってきて、

『いろいろあったがゆえの5年生なんでしょ、彼女』

『全力で優しくしてあげてよ』

『ホントの意味で傷のお手当してあげられるオトナはさ、』

『あたしとカクローぐらいなんだよ、マジで!?!?!?』

と連投。

気が付けば、

「大学がどういう教育機関でどういう場であるのか認識しとるんかコイツは……!!」

と、逆ギレのコトバが声となって、ぼくの口から漏れ出してきていて……!!

 

 

 




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