新歓2日目。
お昼ごはんを食べながらサークル部屋で待機していたら、和田成清(わだ なりきよ)くんが新入生の男の子を連れて入ってきた。
成清くんは初日の勧誘ぶりが思わしくなかった。だから今日は、『最低1人はサークル部屋に新入生を連れてくる』というノルマを課した。早速ノルマを達成するだなんて、やるじゃないの。
桑原裕友(くわはら ヒロト)くんという男の子。嵐のように昨日やって来た犬伏竜(いぬぶし りゅう)くんと同じく、この『漫研ときどきソフトボールの会』に是非とも入会したかったそうな。
ヒロトくんはわたしの弟と同じくらいの背丈。弟と一緒で168センチなのかもしれない。メガネをかけている。なんだか、メガネにこだわりがありそうな感じ。
「以前からこのサークルに入会したかったみたいで嬉しいわ。あなたの名前、もうインプットした」
ヒロトくんが微笑む。わたしのコトバに照れているのかも。
「良かったら、詳しい自己紹介をしてくれないかな? 好きなコトや得意なコトをPRしてよ」
わたしがそう要求すると、
「それでは……」
と控えめな態度の滲(にじ)み出る声をヒロトくんが発した。
『昨日の犬伏くんとは大違いね。安心、安心』
と、いったんは、ココロ穏やかになったわたし。
しかしながら、平穏を打ち崩すように、ヒロトくんの口から、
「僕、アニメの『放映枠マニア』なんですよ!!」
というコトバが出てきたから、室内に戦慄が走り始める。
春の寒さを背中に感じながらわたしは、
「放映枠、って……『どのチャンネルの何曜日何時何分に放映するのか』ってコトよね? つまり」
ヒロトくんは明るく、
「だいたいそういうコトです」
と答えたかと思うと、
「テレビアニメはテレビ番組の一種だという『前提』がありますよね!? テレビアニメを語るうえで放映枠の知識は欠かせないと思うんです!! 僕は、4月から始まるテレビアニメの関東地区における地上波放送局と放映時間は、全部アタマに叩き込んでます!!」
と、一気に叫び声同然の声になって……。
スゴい子が来ちゃった。もちろん、「正」の意味でも「負」の意味でも、スゴい子が。
連れてきた成清くんがあんぐりと口を開けている。頼りにならない。オタクという点ではヒロトくんに距離が近いんだから、もうちょっと頑張って欲しいんですけど。
……だけども、「打開」するためならば、わたしだって頑張れる。「打開」のための良(い)い考えが、わたしに浮かび始めてきていたのだ。
気になったのは、ヒロトくんの発言の中の『関東地区』というトコロ。ここを突いていけば「突き崩せる」かもしれないという手応えがあった。
だから、わたしは、
「ちょっと待ってヒロトくん。テレビアニメって関東地方だけで放映されてるワケじゃないわよね? たとえば、関西地方とか。関西のテレビ局って独自編成が多いって聞くし、放映時間だったり放送局の系列だったりが違ってくるんじゃないのかな?」
弟の利比古(としひこ)のムダ知識が役立った。『関西のテレビ局って独自編成が多い~』云々は、放送マニアの利比古に勝手に吹き込まれた情報だったのだ。
にしても、放映枠マニアのヒロトくん、放送マニアのわたしの弟と似通ってるのかも。相似点は身長だけじゃなさそう。
――わたしのツッコミに型通り狼狽(うろた)えるヒロトくんだったが、持ち直して、
「……もちろん、MBSテレビやABCテレビの深夜帯の状況など、関西地区にも常に注意を払ってます」
と踏ん張る。
けれども、彼を可哀想な状態にしちゃうかも……と申し訳なく思いつつ、わたしは、さらに、
「民放テレビ局の数が少ない地域もあるわよね? たとえば、鳥取県とか。知ってるかもだけど、ケーブルテレビ無しだと、鳥取県って視聴できる民放テレビ局が3局しかないのよ。民放テレビ局が3局しかないような地域だと、テレビ東京系列ではゴールデンタイムに放映されてるアニメが、TBS系列の局の平日夕方枠に放映されてたりするってケースも少なくないんじゃない?」
眼を見張るヒロトくんの姿があった。
口を半開きにしている。狼狽えを拭うコトができていない。
微妙な間(ま)の後で、やっと、
「具体的には……『ポケットモンスター』の放映状況だとかを、羽田幹事長は、イメージされてるんですよね」
と声を出してくれるヒロトくん。
彼の初々しさを味わいながら、
「そうよ、ポケモンよ」
と即座に答えてあげる幹事長のわたし。
とうとう、ヒロトくんは、項垂(うなだ)れて、萎(しぼ)んで、テンションの谷底にまっしぐらな状態になる。
鳥取県を例に出したのも、利比古の勝手な情報提供ゆえに、だったんだけど――わたし、オトナげなかったかも。