「ねぇねぇ」
ハツねーちゃんが、いきなり、
「早くわたしに紹介してよ、タカムラかなえちゃんを」
とおれに言ってきた。
「大学の卒業式がもう間近なんだよ? 卒業するよりも前に是非とも会いたいんだけどな~」
熱望のハツねーちゃんはソファの上で非常にだらしない姿勢だ。だらしない姿勢の詳細は文字数の都合で省かせてもらう。
それにしても。ワイヤレスイヤホンで音楽を聴くのを中断してまで『早く紹介して』と言う必要があったんだろうか。そんなにタカムラに会いたい欲が強いのか。
ハツねーちゃんと比べればソファの上でだらしなくは無いおれは、
「あいつに会ったってどーってこと無いと思うぞ。期待を裏切られるかもしれんし」
「げげっ、三太(サンタ)が可愛くない。あんたどーしてそんなコト言っちゃうの!?」
大げさな声をすぐさま出してくる豊崎家(トヨサキけ)の長女。可愛くないのはどっちだっ。
「タカムラかなえちゃんにまだ会えないのなら、せめて……」
レポート用紙みたいなモノをいつの間にやらハツねーちゃんは手に持っていて、
「楽曲リクエスト。……ほら、あんたたちは『ランチタイムメガミックス』っていう校内放送してるんでしょ? この用紙にリストアップした楽曲流してほしいんだけど」
× × ×
その場から動きたくなかったハツねーちゃんは『リクエスト用紙』をおれに取りに来させた。ちょっとは動こうとしてくれよ……。
問題は、ハツねーちゃんのリクエスト楽曲には洋楽が多く、読めないアルファベットの単語が相当多かったコトだ。
這(は)うような姿勢のままハツねーちゃんはソファから抜け出した。
それから約5分後。今度は次女のワカねーちゃんがソファにやって来た。
彼氏持ちでもないクセに余所行(よそゆ)きみたいな格好でやって来て、おれの真向かいに腰掛ける。ハツねーちゃんと違ってマトモな座り方なのは評価できる。
「ねぇ、三太(サンタ)」
何やら期待のようなモノが込められた眼で、
「わたし、これからここで読書するの」
と言ってきたかと思えば、
「だけど、わたしが読書に入る前に、三太に教えてほしいモノがあるの」
圧倒的不穏。
3月初日とは思えぬ悪寒。
「タカムラかなえちゃんの連絡先、教えて♫」
チキショウッ……!!
「こっ個人情報はっ、簡単には教えらんねえ!!」
叫んでしまうおれ。勢い余った叫び方をしてしまうおれ。
構わず、ワカねーちゃんは、
「そんなに彼女のコトが大事なの? 同級生で、おんなじクラブだから、関係が進展してるの??」
と、耳ざわりの最高に悪い発言をかましてくる……!!
断じて断じて、関係の進展など、起こってないっ。
『大事(だいじ)』なのかどうかは……別として。
× × ×
おれの中でのタカムラかなえの位置づけが分からなくなってくる。主に2人の姉のせいで分からなくなってくる。
さらに不都合なコトに、『本日の午前中の内にタカムラとLINEで打ち合わせをする』というタスクが存在していたのである。
ゆえに、おれの部屋に入り込んだおれは、スマートフォンを手に取ってLINEアプリを開いた。
面倒くさいやり取りが始まる。
はずだった。
だが。
だが、しかし。
波乱が……!!!