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【愛の◯◯】同じメイド服姿でも、コワいのは……!

 

素晴らしい容姿のメイド服女子が眼の前に立っていた。蜜柑さんではなく、羽田愛さんだった。

期間限定でこの邸宅に住み込んでメイドさんのお仕事を蜜柑さんと一緒にしているという。動機は何となく分かる。この邸(いえ)のお嬢さまのアカ子さんが絡んでいるのだろう。ただ、詳しいコトは知らない。この前LINEで『アカ子さんは大丈夫なの?』と愛さんに訊いたら、『それは女子だけが共有できる秘密よ☆』とはぐらかされた。

『秘密』は『秘密』のままで終わってしまうんだろうか……などと思っていたら、ぼくの真正面のソファに愛さんが優雅に腰掛けた。

メイド服に身を包んでいる女子に相応しい上品な座り方だ……と思いながら、自分自身の両膝(りょうひざ)に視線を下降させ、口を閉じ続ける。愛さん同様にソファに座っているのだが、彼女とは違いカラダがどんどんカタくなっていってしまう。

「アカちゃんの状態だけどね」

愛さんがのっけからアカ子さんに言及してきたから、カタいカラダのまま視線が上昇する。

「約2週間にわたる尽力の末に――胸を張って社会に羽ばたいていけるようなコンディションにしてあげるコトができたわ。元気で強い女の子に戻してあげられたってコト」

「それは……良かったね」

コメントするぼく、だったのだが、ぼくの眼に彼女が彼女の眼を当ててきたから、ドキッとする。

「ムラサキくん」

ぼくの名前を呼び、

「わたしもあなたも頑張らないとねぇ。この1年間で、社会に出ていけるように努力しなくちゃ」

とマジメなコトを言う。

彼女らしくないマジメな抱負だ……と思ってしまうのを抑え込み、

「そうだよね。ぼくは就職浪人の身になるから、過酷だけど、自立を勝ち取らなきゃいけない」

と懸命に言う。

「あなた良(い)いコト言うわねぇ~!」

真正面の彼女は明る過ぎるぐらい明るい声になり、

「『自立』の2文字!! わたしが目指してるのもまさにそれよ。『自立』。社会人として独(ひと)り立(だ)ちするのを目指す1年間になるわ。留年しちゃったけど、留年しちゃったからこそ、自分に甘えたくない」

……強いんだな。負けそうだな。

ぼくも尊敬している戸部アツマさんというパートナーがいて、アツマさんと都内某マンションでふたり暮らしで。既に働いているアツマさんと釣り合いたいから、『自立』に向かってまっしぐらになっていくんだろう。

 

× × ×

 

菜園(さいえん)の手入れをすると言って愛さんはリビングから離れた。スケールの大きな家庭菜園がどうやらこの邸宅にはあるらしい。

午後2時30分を過ぎていた。さっきの会話において重要なワードとなった『自立』の2文字をココロの中で転がしていた。愛さんとコトバを交わし合って、『自立』するべきなんだという想いは強まっていた。

ぼくの家族以外にも、『自立』を示すべきヒトが、1人存在する。

そのヒトを思い浮かべようとした瞬間に、まさに思い浮かべようとしていた本人が、リビングに足を踏み入れてきた。

愛さんより長身の、メイド服に身を包み込んだ女性(ヒト)。メイド服に身を包み込むのに慣れている女性(ヒト)。

蜜柑さんだった。

 

× × ×

 

「愛さんが家庭菜園にまで気を配ってくれているので、大いに助かっているんです」

蜜柑さんは愛さんの仕事ぶりを褒(ほ)め称(たた)える。まだ『です・ます』調(ちょう)だ。くだけた語り方にはなっていない。

愛さんが如何(いか)に念入りに家事をしてくれているのかを語り続ける蜜柑さん。ぼくは耳を傾け続ける。

ぼくの左サイドの壁時計が鳴り、午後3時を知らせた。

「あら。もうこんな時間なんですね」

愛さんに負けじと(?)優雅に真向かいのソファに腰掛けている蜜柑さんが壁時計をチラ見した。

「紅茶、飲みますか? アフタヌーンティーしたくないですか」

ぼくに向き直り、問うてくる。

アフタヌーンティー』と彼女は言った。アフタヌーンティーの用意に手間をかけさせるのは悪いと思った。

だから、

アフタヌーンティーは、また今度の機会に」

と断った。

出来るだけ丁寧に断ろうというキモチで断ったのだが、蜜柑さんが頬杖をつき始めて意味深な顔つきでぼくに視線ビームを伸ばしてきたから、胸の奥から焦りのようなモノがせり上がってきた。

「時間(とき)は待ってくれないんですよー? ムラサキくーん」

キモチをいじくってくるような声。

100%狼狽(うろた)えてぼくは、

「それは、どういう意味合いで……」

「あれれー」

頬杖の蜜柑さんのお顔が少し険しくなり、

「物分かりが悪いのね、案外。あなたとの付き合いも短くないんだから、わたしのコトバのニュアンスもすぐに把握してくれると思ってたのに」

一気にタメ口に切り替わった蜜柑さんに直面して狼狽えが150%になり、

「紅茶、飲まなきゃ、ダメだったですか?」

「紅茶はもうどーだっていいの」

え、ええっ。

アフタヌーンティーにこだわってるんでは無かったんですか? こだわりを棄(す)てるの、早過ぎませんか!?

「――かといって、ムラサキくんの進路的な◯◯をほじくるのも気が進まないし」

瞬く間に頬杖から腕組みに移行した蜜柑さんは、

「どーやって、あなたと過ごしてみようかしらねえ。夕ご飯の支度をするにはまだ早いし、アカ子さんは卒業記念コンパとかで帰宅が夜遅くになるし……あなたに『お相手』になってもらえないと、とっても退屈なのよ」

ぼくはぼくの視線を上手く制御できなくなる。視線が勝手に、蜜柑さんが腕組みしているトコロに向かう。胸の前での腕組みだから、たまらなく恥ずかしくなってチカラを振り絞って眼を閉じる。

「どーしたのー??」

厳しく弄(もてあそ)ぶ声で、

「わたし、あなたを追い詰める気なんて無いのよ。そうやって縮こまるムラサキくんを見るのは、楽しくない。縮こまらないで、ココロを開いてよ。わたしのカラダのどんな部分に眼を留めたっていいから。許すから」

これ以上萎縮を続けたら、彼女が本格的に怒り出してしまう……。そんな危機感が到来する。

危機感に後押しされ、眼を開き、蜜柑さんの前髪辺りに焦点を絞る。

蜜柑さんは、愉(たの)しそうに、

「ココロを開いてくれるみたいね。うれしいわ。うれしいし、今のあなた、とってもとってもカワイイわ」

と言ってきて、

「2階のわたしのお部屋に連れて行ったら、もっともっと可愛(かわい)がれる★」

と、トドメを刺すが如(ごと)く、最高に明るい声を発してくる……。

 

 

 

 




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