銀座に近いオシャレなカフェに来ている。同期の戸部アツマくんが勤務しているカフェよりもオシャレだ。そう言える根拠は文字数の都合で省略する。許してね。
さて、わたくし星崎姫(ほしざき ひめ)の眼前(がんぜん)には八木八重子(やぎ やえこ)さんが居るのである。八木さんはわたしや戸部くんと同年度の産まれだが、一浪(いちろう)して大学に入学したので、わたしや戸部くんよりも1年遅く卒業した。現在(いま)は福祉関係のお仕事をしているそうな。
さっきまで、コーヒーを飲んだりスイーツを食べたりしながら、戸部くんの悪口大会をしていた。彼の悪口を言えば言うほど、ストレスが消えてゆき、スッキリとなる。自分の勤め先の名古屋から帰京(ききょう)。親友の八木さんと共にカフェに直行。八木さんと1対1の状況を作り上げることができたのだ。戸部くんを罵倒しない理由が無い。
「まさか、このお店付近に来たりはしないわよね、彼」
東京都中央区近辺は戸部くんのテリトリーであるハズが無いという認識だったので、コーヒーカップを置きつつ、わたしはそう言った。
「たぶん大丈夫だよ、星崎さん。『可能性』があるとしたら、恋人の羽田愛さんに引っ張られてデートで来るってケースだけど、わたしの読みだと、この週末はふたり暮らしのマンション部屋(べや)でゆっくりしてるって『可能性』が高いと思う」
八木さんがそう言ってくれた。
わたしも、
「わたしもそう感じてる。たぶんあの2人は、今頃マンションでまったりと過ごしてると思う。――愛ちゃんや戸部くんとは、八木さんの方が付き合いが長いのよね? わたしより付き合いが長いから、『推理』の精度がわたしより高くなる」
やや苦笑いになって八木さんは、
「星崎さんの方も、相当『長い』んでしょ?」
「まあねぇ。戸部くんが大学に入学した時からだから――あのカップルと知り合って、もうすぐ6周年」
「6周年は長いよ~~」
「えへへ。そーよねえ、丸6年なんだからねえ」
八木さんにそうやって応えつつも、お皿の上のケーキの残りにフォークを伸ばし、ケーキを全て食べ切り、お冷やを少し飲み、それから軽く息を吸って、
「長い6年間の中で……戸部くんが、彼らしくも無いんだけど、わたしに……良(い)いコトしてくれた時もあって」
いきなりのカミングアウトに驚いたのか、八木さんは、
「ええっ、まさかまさか、戸部くんを評価する流れ!?」
と、眼を見張る。
落ち着きながら、わたしは、
「さっきまで悪口ばっかだったから、ホメてあげられる点を1つぐらいは言ってあげようと思って」
八木さんは眼を見張ったまま、
「『良いコト』って……なに!? わ、わたし、く、くわしく、知りたいかも」
わたしはあまり間を置かず、
「失恋したわたしを慰(なぐさ)めてくれたの」
八木さんの声が約3オクターブ高くなって、
「いつ!?」
と訊くから、
「大学2年の時」
と答える。
「どこで!?」
というさらなる彼女の問いに、
「CDショップで」
と即答する。
× × ×
「……ふうん。彼に、そんな優しさがあったんだねぇ」
わたしの説明を聴き終えた八木さんは、コーヒーカップの辺りまで視線を下げ、
「そう言えば……。最近なんだけど、学生会館のサークル部屋で、わたしの手が届かない所にあるCDを、彼が抜き取ってくれたコトがあった」
「嬉しかった?」
わたしが問うと、
「嬉しかった。彼には伝えてないし、伝えたくなんか無いけど」
「……そっか。」
暖かい声で呟くように言ってから、背筋を伸ばして、わたしは八木さんを見据える。
そしてそれから、
「八木さんって、身長何センチ? わたしは157センチ。とっても悔しいことに、戸部くんより約20センチ低い。……あなたも、悔しいんじゃないの? あなたはたぶん、150センチ台前半でしょ」
答えづらい質問だったかな……と言った後でちょっと後悔。
八木さんがどう反応するのかが気がかりだった。
だけど、眼前(がんぜん)の彼女は機嫌を損ねるコトも無く、朗らかに、混じり気の無いスマイルで、
「今は、言わない。星崎さんがまた今度帰京した時の、おたのしみ」
と伝えてきたのだった。