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【愛の◯◯】手を焼くし、勉強机も叩いちゃうけど……。

 

午後2時台。自分の部屋で、小澤征爾の写真がジャケットになっているCDを再生している。

再生が終わる。ベッドを抜け出してCDを回収する。それから再びベッドに入り、とある新潮文庫の小説を仰向けになって読み始める。

しかし、文庫本を支える腕が疲れてくる。諦めて、新潮文庫特有の紐をページの間に挟み、身を起こしつつ本を閉じ、枕元に置く。

目覚まし時計を見る。午後3時を過ぎている。帰宅してから午後4時までは時間を潰したかったのに、上手に潰すことができなかった。要領の悪さに溜め息をつく。

自分の趣味で時間を消化するのを断念する。ゆるゆると立ち上がる。両腕を軽く回してカラダをほぐす。緩慢な足取りで勉強机まで歩く。

中学3年生向けの学習参考書が机の上には置かれている。

近頃はもっぱら、自分自身の勉強ではなく、弟の受験勉強のために、勉強机が利用されている。

 

× × ×

 

申し遅れました。わたくし、猪熊亜弥(いのくま あや)という者です。東京都内の『ほ』から始まる某大学の2年生です。所属学部はまた別の話としておきます。

「猪熊」という苗字ですから、漫画やアニメで「猪熊」という苗字のキャラクターが出てくると、ドキリとするコトがあります。……ほら、あるでしょう? 『そういう有名な作品』が、複数……。美少女が柔道の天才なアレとか、イギリスの金髪の女の子が日本にやって来るアレとか……。

まあ、いいんです。もとよりサブカルチャー方面には全然明るくないのですから、そういった事象に対してドキリとはするのですが、結局は素通りして対処するようにしています。クラシック音楽や(ライトノベルっぽくない)小説を読む方が好きです。『メインカルチャー』と言うのでしょうか? サブカルチャーの対義語として。

冒頭から小澤征爾のCDを再生していたので、『高尚な趣味を持ってるんだな……』と思われた方もいらっしゃるかもしれないのですが、わたし自身の中身は全然高尚では無いので安心(?)してください。

 

――そういったコトよりも!!

懸案事項があるんです、懸案事項が。

それは何かと言いますと――ほら、『弟の受験勉強のために、勉強机が利用されている』って上の方で記述したでしょう? わたしの弟、中学3年生で、高校受験を控えているんです。名前は『ヒバリ』って言うんですけど、『ヒバリ』という名前には到底似つかわしくないガサツな性格をしているんでいつも困っています。

……それはそうとして、言うまでもなく1月下旬なのですから、入試本番までラストスパートなワケです。

手を焼きながらも、ヒバリの受験勉強の指導に熱を込めているというワケなんです。

ただ、第1志望校へのハードルが、なかなか高くって……主に難易度という意味で、「懸案事項」なんです。

 

× × ×

 

「ヒバリ」

午後5時半を過ぎたあたり。わたしは、弟の名前を敢えて呼び、

「あなた言われたのよね、担任の先生に――『可能性は『3分の2』だ』って。第1志望は、3回受けたら2回は受かるけど、1回は落っこちる」

勉強机の傍(そば)の椅子に座っている弟が、顔をしかめると共に姉のわたしから眼を逸らす。

「先生がおっしゃったコト、事実だって、わたしも思ってるわよ? 受け止めなさい。事実から逃げちゃダメ」

弟同様椅子に腰掛けているわたしは両膝に両手をくっつけて、ヒバリを正面からたしなめる。

そしてそれから、

「わたしのチカラは小さいかもしれないけど――『3分の2』を『4分の3』にしてあげるコトぐらいなら、できると思うから」

と、優しい言い方で、励ます。

が、

「『3分の2』から『4分の3』って、何パーセント上昇すんの?」

とヒバリに言われ、わたしは腕組みするのを堪(こら)えきれなくなり、

「約8.3パーセントよっ! 3分の2がだいたい66.7パーセントで、4分の3が75パーセント、だから約8.3パーセント!!」

不安と不満がわたしの中でかき混ざり、

「こんな計算もすぐにできないようでは……」

というコトバを漏らして、

「数学!! 夜7時まで数学やるわよ!! 途中でゴハンができてお母さんが呼んできても、『受験指導中だからちょっと待って』って言うんだから」

しかしわたしの宣告を受けてもヒバリは仏頂面で、

「姉ちゃん文系だろ? 理工学部とかに所属してるワケでもねーんだし。数学の指導にそんなにホンキになられると、かえって逆効果――」

「あなたはそんなに教科書や参考書や問題集で頭を叩かれたいの!?!?」

「怖(コワ)ッ。暴力かよ。もっと牛乳飲んだ方がいいんでねーの」

チカラいっぱい左手で勉強机を強打して、

「あなた、徹頭徹尾、姉のわたしをバカにするのね……」

と、怒る。

怒った後で、どうしようも無さが立ち昇ってくる。弟を制御できない悔しさ、無力感混じりの悔しさ……そういうモノも感じてしまい、悲しいキモチが胸の奥で広がり始める。

……しばらく俯き続けていたら、

「わーったよ、わーったからっ」

という声が聞こえてきた。

「姉ちゃんに泣かれると、史上最高の面倒くささがやって来るし。やるよ、数学。その代わり、ヘタに教えてくれるなよな?」

すぐさま顔を上げたら、恥ずかしそうに勉強机と反対側に視線を逸らすヒバリが眼に入ってきた。

ヒバリは誕生日が早い。高校生になったら、すぐ16歳になる。16歳の近付くヒバリの顔つきがどんどんオトナに近付いているというコト……。そのコトを、わたしはとっくに意識していて。

カラダつきだって、近頃は何だかガッシリとしてきているし。

――じゃ、なくってっ!!!

「あなたにしては、素直ね」

わたしはそう言ってあげて、

「じゃあ、始めるわよ。あなたがわたしの顔にちゃーんと眼を向けてくれた瞬間に」

 

 

 




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