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【愛の◯◯】微糖缶コーヒーを飲みながら聞く奇妙な熱弁

 

放課後。【第2放送室】。電気ストーブの傍(そば)に腰掛けていたら、

「トヨサキくん、ボーッとし過ぎ」

とタカムラかなえにいきなり言われる。

「おれ別にボーッとなんかしてないし」

反発するのだが、

「……温室育ち」

「はぁ? なんだそれ」

次第に怒りの温度が上昇してくるおれを余所(よそ)に、ミキサーの間近に立って、

「話は変わるんだけどさ」

と、会話の流れを強引に断ち切って、おれを見下ろしながら、

「知ってるよねキミも? モネ先輩が共通試験を欠席しちゃったコト」

秋本モネ先輩。3年生。放送部の偉大なるOG。放送部なので、わがKHK(桐原放送協会)との関わりも深かったりする。

3年生かつ進学希望であり、共通試験を受けることも去年の時点で彼女から直接知らされていた。

しかし。

「何があったんだろう……。モネ先輩、成績優秀だし、共通試験は受けなきゃいけないはずなのに。昨日、登校しなかったみたいだし」

少し目線の下がるタカムラに、

「今日はどうなんだ? 今日も欠席なんか?」

と訊く。

タカムラが首を縦に振った。

「欠席で間違いないよ。複数の筋(すじ)から情報が入ってきてるし」

「放送部関係者からは、おまえに対して、何か……」

少し目線を上げるタカムラは、

「紅葉(もみじ)先輩が、だいぶ参ってるって」

中川紅葉(なかがわ もみじ)先輩は放送部の前代部長である。同期のモネ先輩とは強い繋がりがあった。

紅葉先輩にまで影響が及んでしまっている。不穏な波紋が広がり続けている。

しかし、1年男子のおれが介入できるような問題ではない。関わりが深いと言っても、KHKにとって放送部は提携先に過ぎないワケだし。

タカムラに眼を凝らす。おれの数倍は考え込んでいるように見える。

……やがて、

「もしかしたら」

という呟きのようなコトバがタカムラの口からこぼれた。

「……『もしかしたら』?」

続きを促そうとするおれだったが、

「トヨサキくん。ちょっと1人で考えさせてくれないかな」

と、タカムラは強引過ぎるほど強引に要求するのだった……。

 

× × ×

 

『1人で考えさせてくれないかな』。つまり、【第2放送室】から出ていってくれ、と。

せっかく電気ストーブで温まることができていたのに。

【第2放送室】の所有権はおまえにあるワケじゃねーんだぞ、タカムラ。

権力者ぶりやがって。

 

屋外はクシャミが出る寸前の寒さだった。ますますタカムラを呪いたくなる。

『あいつは絶対、『自分こそが事実上の部長』なんだと確信してやがる』

そう思いながら歩く。おれは平等を求めている。平等を求める闘いはこれからも続いていく。

西校舎の近くにある自販機スポットに辿り着いた。温かい飲み物を買わなければやっていられない。

3つ並ぶ自販機。真ん中の自販機を選ぶ。硬貨を投入し、微糖缶コーヒーのボタンを強打する。

ガコン! と缶が出てくる音がした、次の瞬間だった。

『おぉ! トヨサキじゃーないか! 最近放課後によく出遭(であ)うものだなあ!!』

そんな声がしたのである。

声の主は高垣交多(たかがき こうた)。高垣以外にこんな声の掛け方をするヤツは存在しない。

面倒くさいが、

「かもな。今日はタカムラに【第2放送室】を追い出されちまったから、こんな場所まで来たワケだが」

と、高垣の方角を向いて応答しておく。

「どうせならば、西校舎の中に入って、我らが『読書力養成クラブ』の活動教室で温まらないか!?」

凄いテンションで高垣が言ってくる。

おれは黙って缶コーヒーの口を開け、微糖の熱い液体を口に含む。

「活動教室はエアコンが新しいんだ。こんな寒い時期には願ってもないコトだ。まるでココロまでも温められるようだ」

おれは黙ってコーヒーを飲み続ける。

「なあ、どうだ?? ぼくたちの空間でカラダとココロを温めてみないか!? 始めようじゃないか、今日この日から、新しい物語を……。トヨサキよ、ぼくらは未だ発展途上の高校生なのだ。ということは、幾らでも新たなる物語を始められるのだ。特権だよ、特権。ぼくらの眼の前には、大きな道が果てしなく広がってるんだよ。そして、その道の向こうには、『成長』という2文字が、当然のことながら待ち構えてるんだ……!!」

缶の中身をほぼ飲み尽くしたおれは、熱弁の高垣を見据え、

「迷いが無いって、いちばん幸せなコトだよな」

と言う。

「それはぼくのコトを形容して言っているのか!?」

「ああ、そーだよ」

「なんという嬉しさか!! トヨサキ、きみはやはり只者(ただもの)ではあり得なかった!! なんという肯定感の高揚!! 自己肯定感がぐんぐん立ち昇ってきて、ぼくの全部を満たしてくる!! ――さぁ、その缶を早く捨ててくれ。一緒に活動教室に向かおう。きみがぼくの自己を啓発してくれるのなら、ぼくもきみの自己を啓発する。そうすることで、混じり気の無い『青春の触れ合い』が、形を成して現れるのだ……!!!」

おれはゴミ箱へとゆっくり歩み寄る。

おれはコーヒーの缶を軽く投げ、ゴミ箱に入れる。

おれはそれから、ゴミ箱に向かって軽く苦笑いする。

苦笑いしたまま、再び高垣の方に向く。

高垣による活動教室への誘いに、どう答えるのか。

ココロの準備が、できていない、ワケが無い。

 

 

 

 




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