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【愛の◯◯】4色ボールペンに固執する先輩(ヒト)

 

明日から共通試験が始まる。3年生の将来を左右する。ただ、1年生のわたしたちにはあまり関係が無い。放課後は普通にクラブ活動をする。

いつもと変わりなく旧校舎に向かい、【第2放送室】に入り、KHK(桐原放送協会)の活動を始めるのだ。

 

トヨサキくんが15分遅刻した。

「たるんでる」

スタジオ入り口ドアの傍(そば)に立ち、腕を組み、彼にハッキリ「たるんでる」と言う。

「こんなことで、マトモに『お留守番』できるのかなぁ?」

「え、『お留守番』って何」

「言わなかった!?」

叫ぶように怒り、

「今日はね、わたしはね、『読書力養成クラブ』に取材に行くんだよ。しゅ、ざ、い。だから、キミの今日の役目は、【第2放送室】の『お留守番』」

彼が俯き気味になる。微妙な間(ま)ができる。

彼の目線がやや上がったかと思えば、

「たかが『お留守番』だろ? 『マトモにできるのかどうか』とか、疑う必要も無いだろ。この部屋の中でただ過ごしてれば良(い)いんだから」

すぐに、

「責任感が足りないっ」

と叱り、

「『おれが【第2放送室】を守り抜くんだー!!』って自覚を持ってもらわないと。もうすぐ2年に進級もするんだし」

と、腕を組んだまま、責任感の足りない彼を凝視する。

「……わーったよ。守り抜くよ、おれ。守り抜けばいーんだろ」

「説得力無いねー。わたしの顔見て喋ってよ」

「……」

 

× × ×

 

校舎の外は冬本番の寒さだ。おまけに冷たい雨がシトシトと降っている。コンディションが悪い。傘をさして歩かざるを得ない。制服スカートを穿いているので、強い風が吹いていないのが救いではある。

西校舎に着いた。傘立てが無いので傘を扉の取っ手に引っ掛ける。建物内に入り、1階の端っこの方にある空き教室に突き進む。

我らがKHKと同じく縦書きで、

【読書力養成クラブ】

と書かれている紙が空き教室のドアに貼ってある。筆文字だったけど、あまり美しい字ではない。詰めの甘さが気になる。

それはそうとして、ドアをコンコンコンと3連打しながら、

「ごめんくださーい」

とわたしは大きく声を出す。

『は~~~い』という声が返ってきて、数秒後にドアが開いた。

出てきたのは1年生男子の高垣交多(たかがき こうた)くんだった。

彼は、『読書力養成クラブ』という謎のクラブの構成員であること以上に、『黙っていれば』美男子(びなんし)であることで名を轟(とどろ)かせていた。

『黙っていれば』、というのが重要なのである。この『黙っていれば』という箇所にアンダーラインを引いて強調してみたくなる。それほどまでに、高値安定な見た目とは裏腹に残念な発言が口からバンバン飛び出してくるのである。

「ようこそタカムラ。定刻通りに来てくれたね。嬉しいよ。うちのメンバーで、きみの定刻通りの到着が嬉しくない人なんて居ない」

この調子なのだ。発言内容的にはまだマシな方ではあるけど、喋りっぷりが早くも自分の世界に入り込んだみたいになってしまっている。自己陶酔というかなんというか……。

「さあさあ入ってくれたまえ」

恐る恐るの足取りになってしまいつつ、教室に入る。

『読書力養成クラブ』という看板なのに大きな本棚が無かった。小さな2段の本棚が慎ましく窓の横に立っているだけ。そこがまず気になった。

次にわたしの意識が向かったのは、長方形に組まれたテーブルの一点(いってん)だった。本がうず高く積まれていた。……いや、うず高く、というレベルじゃない。幾ら大きな本棚が無いから本を積み上げざるを得ないにしても、ここまで積み過ぎると崩壊の危険が出てくる。このクラブの人たちは果たして本の積み過ぎに対する危機感を持っているのだろうか?

あまりにも「積み過ぎ」が気になったので、

「……高垣くん? あの本の積み上げ方は、なに?」

と言ってしまうわたし。

「なにって、なにかな」

と高垣くん。

「キミ、『ジェンガ』って知ってる?」

とわたし。

高垣くんが力強く頷くから、

「『ジェンガ』みたいになってるじゃん、積み上げられた本が。ハッキリ言って危ないよ。崩れたら大変だよ」

と告げる。

ジェンガのごとく積まれた本の間近に座っていた男子生徒が立ち上がった。男子生徒はひょいっ、と積み上げ本(ぼん)の半分近くを持ち上げ、テーブル上に置いた。高さが半分になったことで、安定感が生まれてくる。

「……よく、気付いてくれたねえ。1年の『タカムラカナミ』さん、だったっけ?」

ホッと胸を撫で下ろすヒマも無かった。2年生と思しき、積み上げ本の高さを半分にしてくれた男子生徒が、わたしの方に近付きながら喋ってきた。

「か、『カナミ』じゃないです。『かなえ』です。ひらがな3文字で、『かなえ』です」

即座に、

「それはすまなかった。じゃあ、『かなえさん』と呼べばいいね?」

と言ってくる。

背筋が寒くなりながらも、

「いきなり名前呼びは……遠慮してほしいです」

と答える。

「あー、そうか。残念だな」

いきなり名前呼びをしようとしたのを反省する気など全く無さそうに、

「では、タカムラさん。ようこそ、『読書力養成クラブ』に。熱く歓迎するよ。申し遅れたが、僕は、2年の――」

 

× × ×

 

石井宝太郎(いしい ほうたろう)さんという名前のセンパイだった。

『宝太郎(ほうたろう)』。ユニークな名前。本人は、ユニークというよりも、難のありそうな性格のセンパイに見えちゃうけど……。

『読書力養成クラブ』は部長のような責任者がまだ決まっていないらしい。石井センパイが暫定的にクラブをまとめる役目を負っている。

長めに距離を取って丸椅子に腰掛け石井センパイと向かい合うわたしは、

「えーっと、早速、取材に入りたいんですが」

と言う、のだが、

「ちょおーーっと待ったっ」

と、右手でメガネの中央部を押さえ、左手のひらを前方に突き出しながら、石井センパイはわたしを遮ってきて、

「タカムラさん、きみにたった1つだけ訊きたいコトがある。取材開始の前に、どうしても。……いいよね?」

「なにを、ですか……??」

困惑に包まれるわたしに対し、石井センパイは、

「きみは、4色ボールペンを、普段持ち歩いているだろうか?」

「よんしょく……??」

「そうだっ。3色ではダメだ。よ・ん・しょ・くだっ。赤、青、緑、そして、黒。この4色が揃わなくてはならない」

「……持ち歩いていませんが」

「なんと!!」

顔面の嬉しさの度合いが倍増しになった石井センパイが、

「それならば、そうだったのならば、今ここで、きみにプレゼントだ。もちろん、4色ボールペンを……いいよね!?」

「な、なぜ、4色ボールペンを、無料(タダ)で!?」

「僕は今からそれを説明したいのさ。『読書力養成』という見地から4色ボールペンの必要性は幾ら説(と)いても説き過ぎることは無い。……いいね? いいよね!?」

ああっ……。

これ、ヤバいパターンだ……。

わたしの今日の下校時刻、何時になっちゃうの……!?

 

 

 




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